やんばる国立公園(仮称)の指定及び公園計画の決定に関する意見
やんばる国立公園(仮称)の指定および公園計画の決定に関する意見
2016年3月27日
やんばる国立公園(仮称)の指定及び公園計画の決定に関する意見
公益財団法人日本自然保護協会
自然保護部部長 志村 智子
【意見】今回の指定区域を名護市以北全域(周辺海域を含む)に拡大するとともに、特別保護地区の指定を大幅に拡大するべきである。
【理由】
平成22年に実施した国立・国定公園総点検事業において、沖縄島北部のやんばる地域は以下の通りその価値が評価され、新規指定が必要とされた。
「日本列島の形成過程を反映して形成された島々の地史を背景に、ヤンバルクイナやノグチゲラをはじめとする多くの固有種や世界的にも絶滅のおそれのある重要な野生生物が集中して分布する特徴的な生態系が形成されている。また、自然性が高くまとまりのある亜熱帯林、自然性の高い河川、マングローブ林、サンゴ礁等が分布し、陸域から海域にかけて多様で連続性をもつ生態系を有している。これらのことから、我が国を代表する傑出した地域である」(平成22年、環境省)。
この評価を受け、新たにやんばる国立公園(仮称)を指定することとなったとされているが、今回の指定区域は、平成22年当時に価値が評価された区域をはるかに縮小した範囲にすぎず、かつ特別保護地区の指定面積が陸域の指定区域の6%にもみたない。
これは、環境省自身が認めた価値の保全を自ら履行することを放棄しているとしか考えられない。環境省は、自らが評価した自然の価値が、自然公園法の理念にのっとり、後世にしっかり引き継がれるように保全されるよう、名護市以北全域(周辺海域を含む)に公園区域を拡大することが必要である。
【意見】生態系にとって意味のある境界線とゾーニングを行うこと。
本計画書は「保護管理を行うことが重要である(1)保護に関する基本方針 p1」と書かれているにも関わらず、公園の境界線や、特別保護地区の境界線を見ると、保護管理が適切にできるようにはなっていない。
国立公園などの保護区域の設定は、生物や個体群ではなく、生態系の保全を意識したものでなければならない。生物多様性条約が保護区を「生物多様性が周囲(区域外)よりも高度に保護されている区域」と定義するように、保護区設定の効果として、希少種の生息域の確保や資源の回復などの目標を設け、科学的データに基づく保護区設定が行われることが必要である。また、保護区の機能を発揮させるためには、保護区内のゾーニングの設定も欠かせず、生態学的に意味のある境界線設定などのデザインを行うべきである。
本計画案を見ると、境界線が生態学的に意味のあるように引かれているようには見えない。行政区分や人間の都合による境界線ではなく、生物の分布・移動パターンなどを考慮した生態系にとって意味のある境界線でなければならない。
また対象となる重要な自然環境の保護を確実に担保し、かつ、その地域全体の自然での生物資源や生態系サービスの持続可能な利用を実現することを可能にするため、ゾ-ニングを行い、人間活動の影響を極力排除し厳正に保護を行う地域(ノーテイクゾーン:No Take Zone)、持続可能な範囲での自然利用を行う地域(持続的利用地域)など内部を区分し、適切なルールを適用することが必要である。
本計画案の対象地では外来種の増加が問題になっている。科学的根拠と管理計画に基づいた公園や保護区の設定をせずに、人間活動の利用を控える場所ができるのならば、そこが外来種が増える温床となる可能性もあることを考慮すべきである。
【意見】科学的根拠に基づいた国立公園の設置が必要である。根拠となる科学的データを公表すべきである。
国立公園などの保護区の設置にあたって第一に必要となるのは、科学的な根拠であり、科学的データに基づいた具体的な保護区の設定と規制が行われるべきである。そして、保護区設定の基礎となる研究・調査とは完全に公表されるべきである。ただし、十分な科学的データが揃っていない場合でも、予防原則に基づいて保護区に指定し、規制をする場合もありうる。その場合、常に新しいデータの収集と研究・調査の努力を義務づけるべきである。
本計画案の境界線の位置や管理方法についてどのようなデータに基づき、どのような管理計画が立てられているのか、明確にすべきである。また、市民やNGO の調査結果や目撃記録等は取り入れられないことが多いが、科学的な判断を行う場合には、市民やNGO の研究や調査データを含む、あらゆるデータを活用するよう努力すべきである。
【意見】海域も広く含め、生態系を考慮した国立公園にすべきである。
IUCN関係者は奄美・琉球列島について、ユニークに進化した生物の宝石が並ぶ首飾りのような存在であると、島々が鎖(chain)のようにつながって並んでいることが評価されている。
また一般的にも、あるいは森里海連関学(京都大学)が示すように、森・川・海が連続した一体の存在であるという認識は周知されている。つまり森を守るためには海を守ることも必要であるということである。本公園案においても海は数か所含まれているが、数か所では意味がない。また沖縄島北部(名護市以北)には環境省が取り組んで選んできた重要海域も含まれる。実効性のある生態系保全がなされるよう、名護市以北の海域全てを含めるべきである。