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保護地域は、世界が抱えている課題への答えになれる

2016.03.10
活動報告

icon_satou.jpg エコシステムマネジメント室の佐藤です。

火曜日からベトナムで始まったグリーンリストに関するワークショップも、あっという間に前半が終わりました。本日の午後から、ハノイから車で2時間ほどの場所にある、Cuc Phuong国立公園に移動しました。このまま土曜夜まで、現地視察と更なるワークショップが続く予定です。

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8日・9日のプログラムには、ベトナム内外から約50名の参加者が集まり、IUCNが行っている保護地域に関する取り組みや、他国でのグリーンリスト導入に関した事例紹介が行われました。

前半のプログラムで、様々な人の口からグリーンリストが紹介される度に繰り返されていた言葉は、「レッドリストは種への危機を強調し、人類の行動に警鐘を鳴らすものである。グリーンリストは、保護地域管理の成功を讃えることで、人にいい意味での刺激を与えるものである。」ということでした。

また、「保護地域を作ることは、未来への最大の投資である」「保護地域は、世界が抱えている課題への答えとなれる」など、人類の生活保障(水源涵養機能、自然を活かした防災・減災など)に対して保護地域が果たす役割を強調する場面もよくありました。

グリーンリストが出来た背景

グリーンリストが出来た背景について、IUCNの世界保護地域プログラムのディレクターであるトレバー氏から紹介がありました。
「グリーンリストが出来た背景は、2003年に南アフリカのダーバンで行われた、世界公園会議まで遡ります。会議の際に強調されたのは「面積拡大ばかりを強調した保全に関する取り組みの伝統を壊して、新しいビジョンを作り、パートナーシップを築かなければならない」ということでした。

そこで、保護地域の管理効果に焦点を当てるアイディアが話し合われ、形になったのがグリーンリストです。保護地域のエキスパートとして活動を続けるIUCNとして、「どこの事例から何を学んだかを明らかにし、その成功要素を分析し、一般化して、次に活かせるものを作ること」は、とても重要なことです。

2014年にシドニーで行われた世界公園会議(http://bd20.jp/2015-12-22-2/)では、「Parks, People, Planet(保護地域、人、地球)」のコンセプトで話が進みましたが、現状としては、保護地域は危機にさらされ資源不足、人々は自然と切り離され自然保護は支持されない、地球(もとい社会)は、貧困や経済など、その他の問題にあふれています。まだまだ保護地域への取り組みが足りません。「保護地域の成功」が何を意味するのか示す、「世界的な基準」が必要です。

そして、基準を示すことによって、世界の保護地域管理の水準を上げていきたいと思っています。また、生態系サービスの経済価値換算などを通じて、「保護地域は世界が抱えている課題への答えになれる」と示していきたいです。IUCNグリーンリストは、世界的な基準であり、保護地域管理の成功を讃え、成功を広める事例を蓄積していくツールであると言えます。」

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パイロットプロジェクトの成果と、成果を共有する仕組み

プログラム開発マネージャーとして、グリーンリストに関する中心的な業務を行っているジェームス氏と、IUCNの世界保護地域プログラムのマリー氏から、パイロットプロジェクトの成果と、成果を共有する仕組みが紹介されました。

「IUCNグリーンリストは、2014年にシドニーで開かれた世界公園会議に向け、8つの国と協力し、パイロットプロジェクトを行いました。結果、23の保護地域がIUCNグリーンリストに認定された地域となりました。現在は特に、ベトナム・ペルー・コロンビア・ケニアと協働しながらIUCNグリーンリストを進めています。パイロットプロジェクトとして最も大きな成果としては、202人の専門家を巻き込めたことだと思っています。こうして、どんどん参加者の輪が広がっていくのです」

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「保護地域管理の成果を共有する仕組みとして、現在「パノラマ」という仕組みが動いており、主にウェブサイトでの事例紹介を中心に活動が進められています。(プロジェクトサイト https://panorama.solutions/

このサイトには、グリーンリストへの登録如何に関わらず、自分自身のプロジェクトを成功事例として紹介することも可能です。ウェブサイト、IUCNのニュースレター・SNS・出版物などを通じて広報が行われる予定です。ウェブサイトへの掲載は、フォーマットを埋めるだけなので、日本からでももちろん投稿をすることが出来ます。」

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IUCNグリーンリストの核となる仕組み

ジェームス氏と、グリーンリストの開発当初から仕組み作りに関わっている、IUCN保護地域委員会(WCPA)のマーク氏から紹介がありました。

「IUCNグリーンリストの評価基準は、全て取り組み実施の影響に焦点を当てています。保護・保全地域における取り組みが生物多様性や社会的価値をどれほど守ることができたか、「実現するための計画」、「公平なガバナンス」、「効果的なマネジメント」、そして「保全の成果」という4つの評価軸に基づいて評価されます。4つの評価軸は更に、21世紀にふさわしい成功した保護・保全地域とは何かを定義づけるために役に立つ20の具体的な評価項目に細分化されています。

これらの評価基準は、特定の環境・条件の保護・保全地域のみに当てはまるものではなく、どのような形式や状況の地域においても適用可能なものとなっています。また、認証・登録を希望する段階で20の評価基準を全て満たす必要はなく、まず一部の評価基準を満たした時点で登録候補地として立候補をし、メンターなどの協力のもとで取り組みを強化することで、全ての評価基準を満たし最終的にIUCNグリーンリストとして認証・登録を受ける候補となる保護地域の支援となる仕組みも組み込まれています。

また、グリーンリストへの登録は、5年間毎に更新されます。保護地域が定められた目的に沿って管理されているか、管理の効果は出ているのかを再度評価し、効果がない場合にはリストから外されます。しかし、また十分な管理が行われれば、再度グリーンリストに登録が可能です。

保護地域に関する「世界的」な基準を考える際に悩ましいことは、「世界的に適用可能で、地域にもよく関係している仕組み」をどう作るかでした。そのため、グリーンリストでは、4つの評価軸と20の評価基準は世界で同一のものを使用し、20の評価基準を満たしているかどうかを判断する指標は地域レベルで考えることとなっています。

この指標を作る人達、また、その指標に基づいて保護地域管理の評価にあたる人達を、「EAGL:Expert Action Group、専門家アクショングループ」と呼びます。EAGLは国単位で作ることも(例:中国、韓国など)、地域レベルで作ることも(例:ニューサウスウェールズ州(オーストラリア))、複数の国で作ることも(例:現在UAEやオマーンなどの中東エリアでまとめて作れるように検討中)可能です。また、保護地域事態も、国立公園だけではなく、民間の保護地域も登録可能など、地域に合わせて取り組みが可能となるよう、とてもフレキシブルな仕組みとなっています。」

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なぜグリーンリストに登録したいのか?

既に試験的に導入し、登録が済んでいる地域(ベトナム・中国・フランス・ニューサウスウェールズ州)から発表があった内容や、今後のグリーンリストの活用案などは下記の通りでした。

1.保護地域の管理を改善できる

世界的な基準と、各地域で行っている取り組みを比較することは、自分たちの保護地域管理のどこが世界基準に達していて、どこが達していないかを簡単に洗い出すことと一緒です。そのため、グリーンリストへの登録を目指し、自身の保護地域管理を世界的な保護地域管理の基準と照らし合わせること自体に意味があります。あるエリアを保護地域として設定し、保護しようとしている価値は何なのか、それを守るために行うことは明快になっているのか(マネジメント)、誰が何をどうやって決めるのか(ガバナンス)、また本当に守ろうとしている価値が守れているのか(保全の成果)どうかを明確にすることが出来ます。
また、世界基準への到達を目指すことで、自地域では○が不足しているので、そのために×に関する支援が必要だ、と周囲に支援を求めることも可能となります。

2.保護地域管理の改善が、どのように進んでいるのか、成長をたどれる

グリーンリストに登録をするまでには、長い時間がかかる場合もあります。世界基準との照らし合わせを行うことで、どこまでが改善されていて、まだ何を改善しなければいけないかが明確となり、改善の過程を追うことが出来ます。

3.自地域の保護地域管理が、世界的な水準にあるというお墨付きが出ることで、現場で努力している保護地域管理者を元気づけ、更なる活動を促すことが出来る

グリーンリストが何よりも大切にしているのは、「成功を讃え、前向きな雰囲気を作っていくこと」です。世界各地で、日々現場で保護に携わっている人達にとって、自身の管理が世界基準に達しているというお墨付きを得ることはとても誇らしいことです。

4.(活用案)地域絶滅した動植物の再導入の際に、グリーンリストに登録する必要があるようにする

ベトナムでは、2009年にクロコダイルを再導入した事例がある。動植物の再導入を行うには、綿密な管理が必要となります。特に、クロコダイルやトラなどの動物は注意をしなければなりません。そのため、再導入を行いたい保護地域では、グリーンリストへの登録が必須となるといった仕組みも考えることが出来ます。

5.(活用案)既存の保護地域に関する仕組み(Natura 2000, Euro park, 世界遺産など)との連携を行い、GLへの登録をその保護地域となる必須要件とする

例えば、世界遺産として選ばれた場合には、その管理を保証しなければならないので、グリーンリストへの登録をしなければならない等、既存の取り組みとの連携性も多く指摘されました。

その他、様々な国や主体から様々な事例や課題の紹介があり、日本での導入について検討するよい機会となりました。

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