沿岸生態系を活かした防災・減災のための提言
近年、生物多様性に関する認識が高まり、自然から得られる恩恵についての理解が高まってきた。しかし自然との関わりは恩恵のみならず脅威もあり、両者は表裏一体であるということが十分に認識されているとは言いがたい。
本提言ではあらためて、日本の自然の特徴を、認識しなおすところから始めたい。
日本列島は南北に弧を描いており、いくつものプレートの境目に位置し、火山が多く、流氷からサンゴ礁まで、多様な地形や生態系を併せ持ち、季節による変化も大きい。このダイナミズムが生物学的、地理学的な多様さを生み出し、日本の生物多様性の源ともなっている。この自然のダイナミズムは、この列島に住む人間にとってはときに自然災害となって襲いかかるものでもある。
私たちの先祖は、このような特徴を持つ自然と共に生きるために、多くの知恵や技術を培い、文化を築くことで、自然を敬い、畏怖しながら自然に働きかけ、自然災害とも折り合いを付けてきた。一方、近代化以降は、西洋的な自然認識に基づく科学技術を積極的に導入し、工学的な技術によって災害を克服しようとする取り組みがなされ、ときに自然のダイナミズムを完全に抑え込もうとの試みもなされてきた。
近年、東日本大震災の津波大災害をはじめ、御嶽山、桜島や口永良部島など多くの火山噴火が相次ぎ、台風や豪雨による越波や堤防決壊による常総水害のような災害も毎年のように発生している。
日本自然保護協会は、沿岸域における自然保護対策の遅れを問題視し、沿岸保全管理検討ワーキンググループを設置した。沿岸域における自然保護問題に取り組むなかで、沿岸域の自然の喪失が自然災害への対処を困難にしていることに気づき、人と自然との付き合い方の再考というテーマも含めた沿岸の自然保護のあり方の提言に向けて調査・検討に取り組んできたところである。
以下に、沿岸域を中心に人が自然と共存していくための提言をする。
沿岸生態系を活かした防災・減災のための提言
~多様でダイナミックな自然と共存するために~
2016年2月28日
公益財団法人 日本自然保護協会沿岸保全管理検討ワーキンググループ
目次
- はじめに
- 提言1 基本理念
- 提言 1-1. 海岸エコトーンを活かして、防災・減災をめざす
コラム① 海岸エコトーンとは - 提言 1-2. 自然災害を大きな社会的損失にしない「減災」を目指す
コラム② Eco-DRRとは
コラム③ 日本の自然の特徴 - 提言 1-3. 地域住民が知識を持ち、住民が主体的に決定できるようにする
コラム④ 東北の防潮堤建設 - 提言 1-4. 国・地方自治体は、沿岸の総合利用計画を作るべきである
コラム⑤ ゾーニング - 提言2 理念を実現するための具体的な提案
- 提言 2-1. 海岸法の抜本的な見直し、または海岸エコトーンが保全される新法を制定する
コラム⑥ 海岸法と海洋基本法 - 提言 2-2. 海岸エコトーンの損失を招く開発・改変はやめる
コラム⑦ なぜ巨大な防潮堤は環境アセスの対象にならないのか
コラム⑧ 道路が契機になった海岸エコトーン分断 - 提言 2-3. 沿岸の現況の把握と評価を定期的に行う
コラム⑨ 砂浜こそが絶滅危惧 - 提言 2-4. 失われた海岸エコトーンを、15%以上回復させる
コラム⑩ 砂浜の再生 - 提言 2-5. 沿岸域の災害リスクを評価し、危険な場所への居住を避ける
コラム⑪ ハワイ州の「海岸線セットバックルール」
コラム⑫ 滋賀の川の治水から学ぶこと - 提言 2-6. 「地域の知」を活かし、地域住民が主体となれる力を培う
- 提言 2-7. 海岸エコトーンの経済的評価を行い、政策に反映させる
コラム⑬ 台風は恵みも持ってくる
コラム⑭ 自然からの恵み - 提言 2-8. 海岸エコトーンの保全と防災・減災を両立できる省庁の連携体制をつくる
コラム⑮ 海岸管理の現状
※提言書全文は、下記からダウンロードいただけます。
沿岸生態系を活かした防災・減災のための提言(PDF/2.1MB)