「ラムサール条約湿地の守り方最前線 ~中池見湿地・北陸新幹線問題からの発信~」の報告書を発表。
10月12日(月・祝日)、東京都中央区にて、北陸新幹線の開発計画がある中池見湿地の今後について考えるシンポジウム「ラムサール条約湿地の守り方最前線~中池見湿地・北陸新幹線問題からの発信~」をNACS-J主催で開催しました。
中池見湿地(福井県敦賀市)は2012年にラムサール条約湿地に登録された直後に湿地を貫通する北陸新幹線の建設ルートが公表され、地元団体やNACS-Jの保護活動の結果、今年5月にルートの見直しが実現しました。
ただ、現在のルートでも条約湿地内での開発であり、課題も残されています。今回のシンポジウムでは、中池見湿地の新幹線問題へのこれまでの取り組みの報告とともに、これから行われる新幹線の工事から湿地の自然をどう守っていけばいいか、講演とパネルディスカッションを通して話し合いました。
詳細は下記の報告レポートをご覧ください。
<全統合>
<各ページ>
福田 真由子(日本自然保護協会)
笹木 智恵子(NPO 法人ウェットランド中池見)
道家 哲平(日本自然保護協会)
吉田 正人(筑波大学大学院教授、IUCN 日本委員会会長)
▲北陸新幹線が条約湿地内を通過する中池見湿地【写真:羽鳥聡】
当日は行楽シーズンの3連休にも関わらず、中池見湿地の地元福井の方、そして富山、兵庫、愛知、静岡など全国から約40人が集まりました。東京での開催でしたが福井放送や福井テレビの方も取材に来てくださり、福井県でも注目している様子が伝わりました。
まず、NACS-Jで新幹線問題を担当してきた福田真由子から、2012年に影響が大きい新幹線のルートが認可された経緯やそれに対してNACS-Jがどのように保護活動を行ってきたかを報告しました。そして、影響が大きいルートが回避されたとはいえ、依然としてラムサール条約湿地内の開発であること、水文環境への影響が少なからずあること、工法やモニタリング調査の結果について評価する体制がないこと、などを課題として挙げました。
次に地元で30年中池見湿地の保護活動を続けてこられたNPO法人ウェットランド中池見の笹木智恵子氏からは、7年後の新幹線開通に向けて中心線測量が開始されるなど、着々と準備が進む現状や、中池見湿地の命である水文環境の変化に対して懸念が示されました。
次にNACS-Jの国際担当であり、国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J)の事務局長を務める道家哲平から、中池見湿地の保全のためにラムサール条約事務局など国際的な機関と協力関係を築いてきた経緯を報告しました。そして条約湿地を守るための国際機関の連携体制を活用していくためにも、現場の価値を熟知し守りたいと思う地元の市民が重要な役割していることを示しました。
▲シンポジウムの様子
最後に筑波大学大学院教授で保護地域の専門家である吉田正人氏は、中池見湿地の保護問題から見える、環境アセスメント制度や行政間のコミュニケーションの課題などを挙げ、中池見湿地だけの問題ではないことを強調しました。また、1980年代に建設された長良川河口堰(三重県)の事例から、環境への影響について予測の不確実性がある場合には順応的なモニタリング調査と保全処置が必要であること、そのためには着工前後に専門家による評価委員会を設置するとともに市民側もモニタリング調査を行って一緒に議論していくことが重要であることを示しました。
後半のパネルディスカッションでは、日本雁を保護する会会長の呉地正行氏を迎え、「中池見湿地を守るために今後何が必要か」「条約湿地を守るための市民と関係者の役割」について講演者4人と議論しました。
まず、今後の中池見湿地の新幹線事業を考える参考例として、条約湿地の伊豆沼に関係する大規模道路で、工事着工前後に環境委員会が設置されたことが紹介されました。その委員だった呉地氏は「委員会ができた背景には、伊豆沼の重要性への理解が広がってきたことや過去の開発問題から行政も環境配慮と地元合意が大切であると認識していたことがある。委員会ができたことで関係者全員が共通のゴールを共有することができ、予想外のことが生じた際に対応できる準備ができた」と話されました。
吉田氏は、「最近では環境アセスメント後のモニタリング調査や評価も重視されている。中池見湿地では水文環境など評価予測の不確実性についてまだ議論されていないので、伊豆沼のような委員会が必要だ。」と述べました。モニタリング調査の国際的スタンダードについて、道家は「モニタリング調査は評価を行って対策に活かす前提で行うものと考えられている。ラムサール条約では環境アセスメントのガイドラインがあり、結果に基づいて行われる対策が実際に機能しているか監査し、管理計画を作って実施することが求められている。」と述べました。
市民によるモニタリング調査について、笹木氏は「中池見湿地で私達も水環境のモニタリング調査を行っており、国道からの融雪剤の影響をデータで示したことで事業の改善につながった。調査により湧き水1つ1つの水質が違う中池見の特徴も分った。」と述べ、その重要性を示しました。
最後に、吉田氏は「ラムサール条約湿地の賢明な利用を実現するためには、関係者が対話し、共通のゴールを見つけていくことが最も重要だ。中池見湿地を守っていくためには、不確実性への対応や共通のゴールを共有するための関係者の対話の場を設けることが必要であり、中池見湿地の成功は他の湿地の保全につながる」と述べ、会場の参加者と共有しました。
▲パネルディスカッション/左から 呉地正行(日本雁を保護する会)、笹木智恵子(NPO法人ウェットランド中池見)、吉田正人(筑波大学大学院)道家哲平(NACS-J)、福田真由子(NACS-J)
今回質疑応答の時間が少なかったのですが、参加者のアンケートでは「中池見湿地には依然として深刻な問題があることが分った」「さらなる試練に打ち勝って欲しい」「様々な立場からの意見も公表し透明性の高い活動に期待している」「住民でのモニタリング調査をぜひ続けてほしい」などたくさんのご意見をいただきました。
NACS-Jではこのシンポジウムの内容を関係者に広め、地元市民団体と協力してモニタリング調査の評価委員会の設置等、中池見湿地の保全のために向けて取り組んでいきます。
■シンポジウムのライブ中継録画を下記でご覧いだだけます。
(Youtube 日本自然保護協会チャンネル)
・後半パネルディスカッション https://www.youtube.com/watch?v=HlVNbhFx6xc