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吉野川での4本目の橋の建設計画について要望書を提出しました。

2015.12.02
要望・声明
2015年11月30日
国土交通大臣 石井 啓一 様
国土交通省 四国地方整備局長 石橋 良啓 様
国土交通省 四国地方整備局 徳島河川国道事務所長 竹島  睦 様
   とくしま自然観察の会
   特定非営利活動法人 ラムサール・ネットワーク日本
   公益財団法人 日本自然保護協会
   公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン

「四国横断自動車道 吉野川渡河部」 建設にかかわる

河川協議および生態系保全について(お願い)

 

吉野川は、四国三郎とも呼ばれる大河川です。その河口は日本一の川幅を誇り、河口から第十堰の14.5kmまで、日本最大級の汽水域を有し、河口に広がる干潟は、渡り鳥の重要な中継地として「東アジア・オーストラリア地域シギ・チドリ類重要生息地ネットワーク」の参加地になっています。吉野川河口の生態系は、河口域から紀伊水道の漁場を支え、多くの生態系サービスを生み出す源です。

 

阿波しらさぎ大橋建設モニタリングに係る貴省の指導、監視のあり方は、全国のモデルとなっており、なかでも、河川における汽水域の価値を貴省自身が評価したことは、素晴しいことであり、事業主の徳島県もモニタリング調査を正当な仕組みとして位置づけ、最大限努力したことに感謝しています(資料1)。

 

しかし、その河口に、国内最長級の渡河橋と言われる「四国横断自動車道吉野川渡河部建設事業」(以後、渡河橋事業)が、西日本高速道路株式会社(以後、NEXCO西日本)により進められ、11月中にも準備工事が始まるとされています。

 

NEXCO西日本による渡河橋事業には、吉野川河口域を河口干潟、沿岸海域を一体としてとらえ、その連続性の重要性こそが大切であるという意識が欠落しています。また、先行事例となる阿波しらさぎ大橋のデータがあるにも関わらず、環境保全の面からの調査や具体的な施策内容は甚だ不十分と言わざるを得ない状況で、かつ橋が架かる周辺の地域のみを影響予測範囲として限定することに終始し、モニタリング調査の範囲を大幅に縮小しています。渡河橋事業の工事が、吉野川河口域の景観はもちろん、生物多様性、生態系維持の観点から、河川と海の連続性を分断し、破壊する工事計画であることに真摯に向き合い、NEXCO西日本にはこれを未然に防止すべく尽力してほしいと考えます。

 

吉野川河口域は河川管理区域であり、また海域部分も国有財産であり、管理者は国土交通省と聞いています。国民の財産である吉野川河口域についての認識をあらたにして、民間企業の事業が周辺環境全体に与える甚大な影響を正しく理解し、監督官庁として将来にわたって責任ある指導をお願いいたします。

 

とくに本件は、道路事業と、河川保全と海域保全という複数の課題があるため、水管理・国土保全局と道路局との密な連携と協力による包括的な指導をお願いいたします。道路行政は、道路工事を行う民間業者を監理する役割もあります。道路行政担当部局による、河口干潟への環境配慮や合意形成についてのNEXCO西日本への指導を期待します。

 

今回私どもが真に訴えたいことは、「人と自然のつながり」に配慮した公共工事の実施が最早常識となり、そのための環境影響予測とその工事への反映がルーティン化している今日、NEXCO西日本が進める渡河橋事業に係る環境対策が、あまりにも杜撰であり、徳島市民をはじめとする地域住民の吉野川に対する思いに十分応えていないということです。

 

以下に、河川管理者である貴省への要望、ならびに貴省から事業主であるNEXCO西日本に対して指導をお願いしたい事項を申し上げます。

 

1. モニタリング調査の手法と結果を検討する仕組みを社会的に妥当なものとすること
① 工事期間中及び供用後の相当期間のモニタリング調査を河川協議で明記すること
② 環境保全を審議する検討会について、検討内容と議事録の公表を見直すこと

 

2.モニタリング調査を、科学的・社会的に妥当な仕組みと方法に基づいて実施すること
③ モニタリング調査におけるデータを、予備調査も含めて毎年定期的に公表すること
④ 近接する「阿波しらさぎ大橋建設事業」と渡河橋建設による複合的な環境影響評価を行うこと
⑤ 複合的な環境影響評価を行うにあたって、「阿波しらさぎ大橋建設事業」の河川協議によって実現したモニタリング調査の結果を活用すること
⑥ 河口干潟のモニタリング調査を継続して実施すること
⑦ シギ・チドリ類の調査方法は、新たな実施項目と併せて、長期的な比較検討ができるよう統一すること
⑧ 調査結果に応じた対応をあらかじめ検討すること。さらに、複合的影響評価の結果をもとに、干潟、河口域、沿岸域の保全、回復、ミティゲーションを検討、実施すること

 

3. 貴重な公共財としての河口域の自然および河川と海域の連続性を、工事によって喪失することのないよう配慮すること
⑨ 生物多様性条約締約国としての役割を果たすこと
⑩ ラムサール条約登録湿地として現在満たしている国際基準を損なわないこと
上記の要望について、NEXCO西日本と協議した結果を、2015年12月15日までに、文書にてご回答くださるようお願いします。

 

以上

 

【理由書】

吉野川渡河部事業に係る河川協議およびモニタリングに関する具体的要請と理由

吉野川河口の自然環境の特性は、海域と河川の両方の環境が見事に調和して、本河口にしか見られない特異な生物多様性が維持されていることであり、これは地域固有の資産であり貴重な財産です。また、生態学的な価値のみならず、徳島の人々にとっては「心のふるさと」とも言える景観そのものであり、橋梁建設により失われることは文化的かつ社会的な損失です。その保全は、何ものにも優先して検討・考慮されるべきと考えます。
私たち環境保全にかかわる団体は、NEXCO西日本に対し、渡河橋事業による環境悪化を懸念し、影響評価や保全に関する要望を再三行ってきましたが、十分に納得のいく説明を頂いておらず、懸念も払拭できていません。そこで河川管理者として、NEXCO西日本に対し、河川協議等で以下の点をご指導くださいますよう求めます。またNEXCO西日本だけで対応が困難な場合、適切なサポートまたは対応をお願いいたします。

 

 

① 工事期間中及び供用後の相当期間のモニタリング調査を河川協議で明記すること
(理由)
●1.7km上流に建設された徳島県による「阿波しらさぎ大橋建設事業」では、環境アセスメント対象外の事業にもかかわらず、河川協議において、モニタリング調査の義務づけと調査結果の専門家による評価という条件がつけられました。今回の渡河橋事業でも、同様の対応が必要と考えます。

 

② 環境保全を審議する検討会について、検討内容と議事録の公表を見直すこと
(理由)
●NEXCO西日本は、事業着工に先立ち専門家の指導の下、環境モニタリングを行っていますが、事業の影響評価は一切行っておりません。
●検討会の実態はNEXCO西日本の説明会です。委員の意見を聞くといいながら、会議はNEXCO西日本の結論ありきであり、『今後も委員からのご指導、ご助言をいただきながら進めていきたい』という回答を繰り返すのみです。
●予防原則に関しては委員会では議論されておらず、影響があった場合の措置に関しては「事前に極力低減する努力はする」と述べるのみで、委員からも具体的なコメントは一切ありません。
●議事録は、概要結果だけの公表であり、委員の意見や検討内容が一切わかりません。「阿波しらさぎ大橋建設事業」の委員会と同様に、議論の内容や経過がわかるようにすべての発言記録の公表をお願いします。

 

③ モニタリング調査におけるデータを、予備調査も含めて毎年定期的に公表すること
(理由)
●鳥類の調査では、重要な春の渡りについて予備調査データが公表されていません。一方、底生動物のハビタット区分化(平成27年10月27日検討会資料)検討では、予備調査結果を使用して公表しており、データ公表が統一されておらず恣意的です。
今後の河口域、沿岸域の保全、回復を図るため、関心のある市民、研究者に生データが広く公表されることを希望します。

 

④ 近接する「阿波しらさぎ大橋建設事業」と渡河橋建設による複合的な環境影響評価を行うこと
(理由)
● 本事業は、「阿波しらさぎ大橋建設事業」の1.7km下流に平行して建設する計画です。工事時期は異なりますが、存在や供用による渡り鳥や干潟の生物に対する影響が複合することが予想されます。単一の構造物だけでは軽微であった影響が、複数になることで累積的に現れることが危惧されます。
●今回の事業は、「阿波しらさぎ大橋」建設に伴いシギ・チドリ類が生息域を移動させた場所である吉野川河口域を塞ぐ形に計画されています。
徳島県の「阿波しらさぎ大橋環境アドバイザー会議」議事録によると「独立行政法人港湾空港技術研究所沿岸環境研究チームリーダーであります桑江先生に意見を聞いてきました」として、県職員が「橋梁の存在がバリア効果となって、将来的に見て飛来する渡り鳥が減少する可能性も考えられるんやけども、世界的に減少傾向を示している種であるために、たとえこれが減ったとしても、事業の影響として言い切ることはできないんじゃないかという御意見をいただいております」1とありましたが、その2年後に、鎌田磨人(徳島大学大学院教授)委員長から「エリア1と4の行動選択、場所選択に関しては(中略)、まだ検証し切れてないところもあるので引き続き見守っていかないといけないということが今日の会議の中でも出てますし(中略)、NEXCOさんのほうのデータも見守りながら検討し続ける素材はあります」2との意見がありました。阿波しらさぎ大橋建設によるシギ・チドリ類の移動阻害の可能性は、科学的に否定されていないままになっています。

 

⑤ 複合的な環境影響評価を行うにあたって、「阿波しらさぎ大橋建設事業」の河川協議によって実現したモニタリング調査の結果を活用すること
 (理由)
●「阿波しらさぎ大橋モニタリング調査平成24年度報告書」では、シギ・チドリ類の出現個体数や利用率の経年変化(平成17年~平成24年)が明らかになりました。河口から橋の川上の干潟をエリア1~4に分けて調査した結果、橋の建設により、生息地が最河口であるエリア1に移動したことが示されています(資料2)。
●NEXCO西日本は、「阿波しらさぎ大橋建設事業」での議論の経緯を踏まえず、複合的影響を評価することが困難な、上流と下流の2エリアに分けた調査を行うとしていますが、複合的影響を見るために、「阿波しらさぎ大橋建設事業」モニタリング調査と統一的な調査手法を選択し、データを公表することを希望します。

 

⑥ 河口干潟のモニタリング調査を継続して実施すること
現在のモニタリング計画は、河口干潟の潮間帯における底生生物のモニタリング調査は実施しないとしていますが、阿波しらさぎ大橋の調査を活かすべきです。

 

⑦ シギ・チドリ類の調査方法は、新たな実施項目と併せて、長期的な比較検討ができるよう統一すること

 

⑧ 調査結果に応じた対応をあらかじめ検討すること。さらに、複合的影響評価の結果をもとに、干潟、河口域、沿岸域の保全、回復、ミティゲーションを検討、実施すること
(理由)
●結果に関わらず同じ対応を取るのであれば、調査を実施する意味がありません。

 

⑨ 生物多様性条約締約国としての役割を果たすこと
(理由)
● 2010年に日本が議長国となって愛知で開催した生物多様性条約締約国会議では、生物多様性の損失を止めるために愛知目標を設定しました。「生物多様性の損失の根本原因に対処する」「生物多様性への直接的な圧力を減少させ、持続可能な利用を促進する」などの戦略目標をチェック・リストとして活用し、NEXCO西日本の事業がそれに合致したものとなるよう、河川管理者として河川協議を行うべきです。
●同事業による影響を予測、評価、記録し、公表することは、世界で今後行われる同様の開発影響の回避、軽減にも大きく寄与します。

 

⑩ ラムサール条約登録湿地として現在満たしている国際基準を損なわないこと
(理由)
●吉野川河口は、国内においては環境省の「日本の重要湿地500」および「ラムサール条約湿地潜在候補地」であり、国際的には「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ(渡り性水鳥保全連携協力事業)」のシギ・チドリ類重要生息地ネットワークの参加地となっています。吉野川河口の保全の責務は、徳島および日本国内にとどまりません。
●2015年11月19日に国際自然保護連合(IUCN)が発表したレッドリスト改訂版で、ホウロクシギが絶滅危惧Ⅱ類(Vulnerable(VU))から、絶滅危惧IB類(Endangered(EN))に変わり、より危機的な状況にあることが示されました。ホウロクシギにとって、吉野川河口干潟は春の渡りの経由地のひとつです(資料2)。一時的な利用であるため、環境改変の影響を軽視しがちですが、水鳥のフライウェイとしては通過地点の保全は重要であり、渡河橋によるホウロクシギへの影響を回避することはもちろん、より積極的な保全が必要な状況であることを事業者が認識することが必要と考えます。
●国際的重要湿地に係る、開発による影響について記録を文書として残し、公表することは、ラムサール条約および生物多様性条約に批准し、世界の生物多様性保全に大きく寄与しようとする日本の責務です。

 

 以上、河川管理者として、河川協議等における厳正かつ賢明な対応を求めます。
1  「阿波しらさぎ大橋環境アドバイザー会議」平成24年度第1回議事録(平成24年10月25日) http://www.pref.tokushima.jp/docs/2012103100172/files/h24dai1kaigijiroku.pdf
2 「阿波しらさぎ大橋環境アドバイザー会議」平成26年度第1回議事録(平成26年12月3日) http://www.pref.tokushima.jp/docs/2012103100172/files/h26dai1kaigijiroku.pdf

資料1「阿波しらさぎ大橋のモニタリングの成果」

資料2「阿波しらさぎ大橋建設に伴うシギ・チドリ類の生息場所選択への影響評価に関する考察」

 

 


hourokushigi.jpg

▲絶滅危惧IB類(Endangered(EN))に指定されているホウロクシギ

 

 

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▲国土交通省道路局高速道路課、水管理・国土保全局河川環境課の担当者との面談し、課題や現状を説明。

 

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