小笠原の自然保護活動への企業の関わり方の可能性を探るため、パタゴニアの方々と小笠原に行ってきました。
保護室の辻村です。
12月2~7日、小笠原諸島父島に行ってきました。今回は、日本自然保護協会の理事でもあるアウトドアメーカーのパタゴニアの篠さん、同じくパタゴニアの藤倉さん、そしてパタゴニア本社でカメラマンをしている藤倉さんの息子(kosuke)さんと同行です。
小笠原の父島には、林野庁と小笠原自然観察指導員連絡会とが協定書を結び、自然再生事業を進めているフィールドが2か所あります。一つは、東平というところの、「東平アカガシラカラスバトサンクチュアリー」で、もう一つは夜明平というところの、「ハトの森」です。いずれも、小笠原固有亜種で、絶滅危惧種のアカガシラカラスバトの生息に重要な森林生態系を有するフィールドです。
近年の、地域と行政が連携して進めてきた「ノネコ捕獲」事業により、絶滅寸前と考えられてきたアカガシラカラスバトの生息数は格段に増加し、今では正確な生息数の確認はまだできていませんが、200羽を超える生息数になってきたのではと考えられています。
一方で、キバンジロウやアカギといった侵略的外来植物種はまだまだ数多く残されています。こうした背景から、地元のNGOとしての小笠原自然観察指導員連絡会が、林野庁と自然再生事業に取り組んでいます。
▲ハトの森の外来種キバンジロウ
この活動に、企業や民間団体が今後どうかかわっていけるのか、またかかわっていくべきなのか、新たな自然再生の枠組みを作れないのかなどの可能性を探ることが、今回の目的で、パタゴニアさんにご同行頂きました。
パタゴニア本社(アメリカ)では、南米チリで放棄された放牧地を社員自らが再生活動を行い、近々、チリの国立公園に指定されることになった自然再生活動の実績があります。こうした視点で、世界自然遺産登録された小笠原において何ができるのかのアドバイスを頂ければと考えたからです。
初日は、ビジターセンターで小笠原の自然や歴史の概略を小笠原自然観察指導員連絡会の前会長宮川さんからレクチャー頂いたあと、林野庁の小笠原森林生態系保全センターと環境省小笠原自然保護官事務所を表敬訪問しました。
▲ビジターセンターで宮川さんからレクチャー
2日目は、宮川さんと小笠原自然観察指導員連絡会の現会長深沢さんのご案内で、「東平アカガシラカラスバトサンクチュアリー」と「ハトの森」のフィールドを見て回りました。現在島民主体で行われている外来種拡散防止の取り組み状況や、外来種駆除の取り組みなどを見せて頂き、民間だからできること、行政ではできないこと、これからの自然保護の方向性など多岐にわたる意見交換をすることができました。
アウトドアのアクティビティが好きな人だからこそできることやするべきことや、アクティビティを楽しむことが自然保護に繋がるような活動が持続的な活動になるのではないかといった意見も出され、守りたい自然を守る活動をしている人がエコツーの担い手になるのが本来の姿なのだろうと改めて感じました。
▲東平の外来種拡散防止システム
▲ハトの森での議論風景
3日目は、アクティビティーを通じて、小笠原の自然の個性を知ることも重要と考え、深沢さんにガイドをしていただき、父島唯一の河川でカヤックに乗りながら川から自然を観察しました。護岸もされており、外来種も多いのですが、その中でも固有種の息使いを感じることができました。こうした場所の自然再生をどのように進めていくかも課題です。
普段は、陸の上から自然観察をしているので、視点が変わるとまた違った自然の姿を見ることができ、新鮮な感じがしました。
▲八瀬川をカヤックで視察
そして、最終日。海から小笠原の自然を見るために、初代小笠原自然観察指導員連絡会会長でKAIZINの山田捷夫さんの船で父島・兄島を一周しました。
陸上からとは全く違う視点で、地形や地質の特異性を目の当たりにすることができました。途中には、イルカの群れにも遭遇できました。海と陸が一連につながった世界遺産の魅力を満喫することができ、今回の視察の締めにはとても充実した時間を過ごすことができましたし、山田さんからは、南島での人と自然の関係の両立を目指した自然保護活動の歴史などを語って頂き、島民の方々のこれまでの努力の結晶が世界自然遺産につながったことを深く理解することができました。
▲南島の鮫池で取組の経緯を聞く
▲イルカの群れ
今回の現地視察では、海・川・森の全体を駆け足で見て回りましたが、改めて自然はつながっていて、どの要素が欠けても、成立していないことを体感しました。そして、その自然が人の都合で蝕まれている現状も体感しました。
世界自然遺産に登録され、世界からその価値を認められた小笠原ですが、同時に世界からその自然保護に課題があることを認識されていることも直視しなければいけない事実です。
ですから、登録された際の、IUCNのレポートでは、1)大規模なインフラ整備について厳格な事前の環境影響評価を実施することを要請する、2)より効果的な管理を行えるようにし、海洋と陸域の生態系の連続性を高めるために、海域の保護区の拡大を検討するよう促す、3)気候変動の影響の評価と適応のための研究モニタリング計画の策定を促す、4)予期される利用者の増大について、注意深いツーリズムの管理ができるよう促す、5)利用者による影響を管理するための規制措置と奨励措置を確保するよう促すという、付帯意見がつけられています。
小笠原から戻る船の中で、
「国土交通省と東京都が、小笠原諸島の父島に、1,200メートル規模の飛行場を建設する計画を検討していることが、FNNの取材で明らかになった。複数の関係者によると、旧陸軍の滑走路跡地を活用する計画で、滑走路の3割程度は、海を埋め立てることが検討されている。国と都は、調査費を、2016年度予算に計上する方針。」
というニュースが流れましたが、この通りの計画が実現されるようなことがあれば、世界遺産が危機遺産に登録される、もしくは登録の解除ということになりかねません。
世界自然遺産に登録されたということは、この貴重な自然環境を確実に後世に引き継ぐことを世界に約束したということです。
小笠原の脆弱な自然環境では、空港建設と世界遺産とが両立することは考えにくいと日本自然保護協会では考えています。