【配布資料】今日からはじめる自然観察「じっくり観察 松ぼっくり」
<会報『自然保護』No.548(2015年11・12月号)より転載>
このページは、筆者の方に教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可)。
ダウンロードして、自然観察などでご活用ください。
コロコロした形がかわいい松ぼっくり。
よく見るのはアカマツやクロマツのもので、秋には樹上で鱗片が開き、プロペラ型の種子がくるくる回って落ちてきます。
野山や公園で探せば、さまざまな松ぼっくりが見つかります。
文・写真:多田多恵子(植物生態学者)
松ぼっくりは、針葉樹のマツの仲間の種子をつくるための器官です。「松かさ」とも呼び、植物学では「球果」といいます。アカマツやクロマツのほか、同じマツ科のゴヨウマツ、モミ、シラビソ、ヒマラヤスギ、カラマツ、コメツガ、エゾマツなども、それぞれ形や大きさや色の異なる松ぼっくりをつくります。マツ科以外の針葉樹でもヒノキ、スギ、コウヤマキ、メタセコイアなどは松ぼっくりに準じる硬い球果をつくります。
松ぼっくりは、もともと枝の変形で、一枚一枚の鱗片(種鱗ともいう)は葉が変化したものです。コウヤマキやスギの球果では、しばしば先端から枝葉が伸びますが、これも松ぼっくりが枝の変形であることを示唆しています。
マツの花と松ぼっくり
花粉症で有名なスギやヒノキと同様に、アカマツやクロマツの花も春に咲いて雄花は花粉を風に飛ばします。枝先の雌花が松ぼっくりに育ちますが、成熟には時間を要し、2年目の秋にようやく熟します。種子は鱗片の上に2個ずつ並んでいて、薄い翼をつけています。
▲クロマツの花(雄花と雌花)と開花後1年の若い松ぼっくり(円内はクロマツの種子)
秋の晴れた日、松ぼっくりは熟すと乾いて鱗片を広げます。すると、くるるる……、小さく回りながら種子が鱗片を離れます。種子は風に乗って飛び、新天地で芽を出します。
種子を飛ばした松ぼっくりはやがて地面に落下します。でも、中には次第に色あせながら2、3年も枝に残っているものもあります。
さまざまな松ぼっくり
木の種類によって、松ぼっくりの形や色、大きさ、枝への付き方はさまざまです。公園に植えられたヒマラヤスギの松ぼっくりは、ダチョウの卵を思わせる形と大きさで上向きに付きます。そのまま拾えたら素敵なのですが、残念、木の上で分解して散ります。唯一形の残る先端部はバラの花を思わせ、ブローチをつくる人もいます。
モミやシラビソは太くて立派な円柱形で枝に上向きに付きますが、やはり樹上で分解してしまいます。ツガやコメツガやエゾマツは枝に垂れて、かわいい松ぼっくりが拾えます。外国産のドイツトウヒ、ストローブマツ、テーダマツ、ダイオウマツなども公園などに植えられ、それぞれ特徴的で大きな松ぼっくりが拾えます。
開かない松ぼっくりのわけは?
チョウセンゴヨウの松ぼっくりは、熟しても開きません。閉じたまま、ぼとんと落ちます。種子には翼がなく、硬い殻があり、鱗片に埋もれています。地面で待っているのはリスやネズミやホシガラス。鱗片をかじって次々に種子を取り出し、どこかに運んでいきます。冬の食糧にと蓄えるのですが、一部を食べ残すので種子が散布されるというわけです。
種子の中身は油分に富むおいしいナッツで、私たち人間も食用の「マツの実」として利用しています。高山植物のハイマツもゴヨウマツの仲間で、種子には翼がなく、主にホシガラスが蓄えて散布します。
海外には、山火事にあうとはじめて鱗片が開いて種子を飛ばす松ぼっくりもあります。さらに人の頭より巨大なびっくり松ぼっくりもあったりと、なかなか奥は深いのです。
クイズの答え:左の小さい球果がヒノキ、右の大きな球果がスギ