国立・国定公園の地熱開発に関する規制緩和は看過せません。
保護室の辻村です。
7月30日に「第4回国立・国定公園内の地熱開発に係る優良事例形成の円滑化に関する検討会」が開催されました。
この検討会は今年3月から開始され、第2回の検討会では自然保護の専門家とし私から意見を述べています。その内容については4月に報告したブログをご参照ください。この中でも強く指摘したのは更なる規制緩和は絶対にありえないということでした。
しかし残念ながら、第4回の検討会で、これまで認められなかった第1種特別地域の地下について外側からのななめ掘りでの開発を認める方向性が決まりました。正式な決定は今年の秋の予定です。
NACS-Jは、これまでも生物多様性の屋台骨である国立・国定公園は保全が最優先であること、現状では重要な自然環境が国立・国定公園でカバーしきれていないこと、実際の自然度と規制のランクが不整合であることなどを科学的に指摘し、制度の改良が先決であることを機会あるごとに環境省に要求してきました。
環境省も2007年から2010年にかけて、「国立・国定公園総点検事業」を実施し、公園のさらなる拡充を10年かけて実施しているところです。こうした現状にも関わらず、環境省は2012年3月21日に「国立・国定公園内における地熱発電の取扱い」通知を発表し、優良事例に限るとしながらも第2種及び第3種特別地域での地熱開発の規制を緩和しました。これに対してNACS-Jでは、環境行政の後退であり看過できないという緊急声明を出しています。声明の詳細はこちらをご参照ください。今回の規制緩和はさらに第1種特別地域の地下開発を認めるものですが、具体的な問題点を考えてみます。
地下の開発と地上部での開発を比較すれば当然、地表部の開発の方が圧倒的に自然環境への影響は大きいものになります。ですが地下の開発なら問題ないとはなりません。まずは、発電所施設が立地する場所と第1種特別地域との距離の課題があります。地面に穴を掘ることには膨大なコストがかかります。そしてこのコストは当然長さが長いほど(深ければ深いほど)大きくなります。ななめ掘りの場合、必然的に長さが長くなりますので、よりコストがかかることになります。ですから、第1種特別地域の外側であっても、できるだけ近いところから掘った方がコストは安くなりますので、極端な場合、一歩外側に発電施設が立地するということもありうるということです。
自然は、人間が便宜上地図上にひいた線など関係なく広がっていますから、第1種特別地域の周辺は当然、同等の自然が広がっています。つまり、自然環境保全の観点ではできるだけ距離を離した外側に立地しなければその影響を回避低減することが難しいことになります。今回の規制緩和で実際に発電所の建設が進むことになれば、当然、自然環境の保全と経済性とのトレードオフということになり、経済性が優先されることになるのは過去の様々な事例が証明しています。そして経済性優先となれば、今後は地上部、特保へとさらなる規制緩和につながりかねません。ですから規制緩和をするべきではないと考えます。
次に、地下の影響についてです。地下は掘ってみないとわからないこと自体は事業者も認めていることです。また、地下環境を改変することによる自然環境への影響については、知見も少なく不確実性が高いのが実態です。不確実性が高いときに重要なのは、予防原則です。予防原則は1992年にブラジルで開催された地球サミットにおいて採択されたリオ宣言の中で、第15原則として、確立された考え方で、日本においては、水俣病などの公害問題の裁判判決にも予防原則の考え方が示されています。
国立・国定公園での地熱開発は、予防原則に立ち、現状の知見で最大限自然環境への影響を回避・低減できる立地を、事業者だけでなく関係する地域住民や自然保護関係者も交えて見つけていくという作業、まさに合意形成を図る作業が必要不可欠であり、開発ありきの規制緩和をすることは、地熱を推進する考え方にたっても逆効果だと思います。
以上の観点から、NACS-Jは、国立・国定公園での地熱開発の規制緩和には反対です。