持続可能な社会に向けて、自然エネルギーについて議論してきました。
保護室の辻村です。
6月28日(日)に立教大学で環境社会学会が開催されました。その中で、企画セッション「持続可能な社会と自然エネルギー」があり、登壇しました。
NACS-Jは、環境エネルギー政策研究所と自然エネルギー財団が主催する「持続可能な社会と自然エネルギー研究会」(2012年12月~)に参加してきましたが、今回の企画セッションはこれまでの議論をふまえて合意形成がなされたことの公表と、議論の過程を記した報告書の公表を受けて企画されたものでした。報告書は、http://www.isep.or.jp/library/7820 で公表されていますので、目を通していただければ幸いです。
研究会の目的は、持続可能な社会に向かう中で、自然エネルギーが受け入れられる社会を実現するための課題や解決策について、自然エネルギー事業者、自然保護団体、研究者、行政など様々な分野の関係者が参加する中で議論を通じコンセンサスを得ていくことにありました。
NACS-Jは、日本の生物多様性保全のためには、原子力発電は即刻廃止し、省エネルギーを進め、地域にあった地産池消型の再生可能エネルギーを中心にしたエネルギー供給にするべきとの基本姿勢です。
この観点で、現状の再生可能エネルギーの展開をみると、生物多様性への第4の危機とされる地球温暖化への対策が、エネルギー施設建設のための自然環境破壊という第1の危機(開発による損失)になっている事例が少なからずあります。このことは本末転倒であることや、将来人口が減少していく社会背景の中、自然環境を破壊してまで電力を生み出すことが必要なのかの将来予測とエネルギーの配置計画がないこと、事業の立案・立地段階での合意形成のプロセスが制度化されていないこと、保護しなければいけない区域と開発可能な区域の線引きをしたゾーニングの重要性や、自然公園制度や環境影響評価の制度の欠点などの問題・課題点を指摘し続けました。
当初は、議論が全くかみ合わず、このまま勉強会への参加を継続しても意味がないのではないかとまで考えました。議論を続ける中で、同じ言葉を用いていても異なるイメージであったり、知識の共有が十文ではなかったなかったりといくつか問題点が顕在化してきました。そこで研究会では、用いる言語の共通言語化や、異なる立場の知見の共有を図りながら、同床異夢の状態から異床同夢の状態に議論がなるよう心掛けるようになりました。
こうして、以下の点について参加者の合意を果たすことができました。それぞれの項目の合意事項の中身については、上記報告書の公開サイトをご覧ください。
①持続可能な発展には自然エネルギーの利用が必須
②省エネルギー
③自然エネルギーは必然だがそれだけでは不十分
④予防的アプローチ
⑤地域社会の合意を前提
⑥自然エネルギー利用の持続可能性を高める方策
⑦暫時的合意と継続的な改善・見直し
この項目だけを見ると、当たり前のことが書かれているように思えますし、これまでも言われてきたことのように思えます。しかし、使う言葉の意味も共有したうえでの合意が、これまで対立する立場にもなっていた関係者間で合意できたのは、日本では初めてのことだと思います。
逆に言えば、これまで合意できたと思っていても実は合意できていなかったということが多いということでもあります。
今回の勉強会を通じて、私が最も成果だと感じている点はもう一つあります。それは、ゴールを決めずに合意形成を行ったということです。つまり、合意できたところをゴールとしたということです。
これまで様々な場面で合意形成を図るということが行われてきました。環境影響評価の手続きにおいてもこの合意形成のための手続きが定められています。しかしこれらはゴールが決まっているものであり、ともすれば説得でしかないという状況でもあります。「ご理解いただきたいという言葉」を事業者からたくさん聞かされてきた経験をお持ちの方も多いことと思います。それはゴールが決まっておりそこに向けて合意しなければいけないということが原因であったと思います。今回は合意できたところをゴールとする進め方であったため、紆余曲折がありながら、最終的に合意に至ることができたのだと感じます。
皆様の中でも、合意形成を図らなければならないという場面に直面されている方もおられるのではないかと思いますが、ゴールを決めない合意形成、ぜひ試みてはいかがでしょうか。