絞り込み検索

nacsj

那覇空港滑走路増設事業における土砂調達先の変更申請に関する要望書を出しました。

2015.05.14
要望・声明

那覇空港滑走路増設事業における土砂調達先の変更申請に関する要望書(PDF/211KB)


2015年5月13日

沖縄県知事  翁長 雄志 様
土木建築部長 末吉 幸満 様
環境部長   當間 秀文 様

沖縄・生物多様性市民ネットワーク
代表 吉川秀樹
公益財団法人 日本自然保護協会
事長 亀山 章

那覇空港滑走路増設事業における土砂調達先の変更申請に関する要望書

沖縄・生物多様性市民ネットワークと日本自然保護協会は、沖縄の生物多様性の豊かさに注目し、その保全を訴えて、辺野古・大浦湾海域の保全活動、沖縄県生物多様性地域戦略策定への積極的関与、そして奄美・琉球諸島の世界自然遺産登録において重要な役割をもつ国際自然保護連合(IUCN)への働きかけ等を行ってきました。以下、環境NGOとしての立場から、沖縄総合事務局が申請している那覇空港滑走路増設事業における土砂調達先の変更について要望いたします。

報道によると、沖縄総合事務局は、那覇空港滑走路増設事業における埋立てに使用する「石材」について、当初申請されていた沖縄本島内からの調達だけはなく、県外からの調達が必要であるとし、沖縄県に対して調達先の変更を申請したとして(沖縄タイムス、琉球新報、2015年5月9日)、その調達先として、奄美大島が予定されているとしています(琉球新報)。これらの報道では「石材」と書かれていますが、これまで埋立に必要とされてきたのは正確には「岩ずり(砕石するために剥いだ土砂や石のこと)」であり、土砂や石の混ざったものです。

同滑走路増設事業が行われている沖縄島は、約160 の島々からなる沖縄県の一つの島であり、周辺には沖縄の海を特徴づけるサンゴ礁が発達し、沖縄の大切な財産になっています。しかし、沖縄県の「環境基本条例」に明記されているように、「散在する多くの島しょ」環境は、「豊かではあるが、脆弱な自然環境」です。また沖縄県の「岩礁破砕等の許可に関する取扱方針」にも明記されているように、「海域を改変する行為については、水産動植物の保護培養を図り、県民への良質な水産物の提供を継続していく観点から、細心の注意を払う必要」があります。

このような沖縄県の条例や制度を踏まえると、今回の「石材」の調達先変更に伴い、沖縄の生態系を脅かす可能性の高い外来種の導入のリスクが高まることに関しては、特に厳重な注意を払うことが必要です。すでに島嶼間を移動しているヤンバルトサカヤスデなどのような生物もいますが、これ以上の拡散を認めても良いという理由にはなりません。

さらに他の島からの土砂などを安易に動かし水中に入れる危険性を示唆する研究結果も出ています。1つはサンゴ類に対して懸念されるコウジカビやセラチア菌による影響です(山城 2003など)。もう1つは、環境DNAという最近開発された方法で、特定の生き物が棲んでいる場所と水の成分の間に高い関連性があることが判明しています(NHK NEWS WEB 5月9日、高原輝彦ら2014)。つまり他の島の陸域起因の物質を安易に海に入れることの危険性を示唆しています。

特記すべきは、「石材」の調達先とされている奄美大島は、沖縄島と並び世界自然遺産に環境省が推薦するほど生物多様性が豊かな島です。「石材」の採取により、絶滅危惧種であるアマミノクロウサギをはじめとする生き物たちの生息地が奪われるばかりか、「石材」を採る際に植生を剥ぎ裸地化した山や一時的な土砂置き場から、雨が降ると赤土や泥が海に流入し、サンゴ礁の海に影響を与えます。奄美の山を削って沖縄の海を埋める、ということは許されることではありません。

沖縄島や奄美大島をはじめとする琉球列島の島々は、それぞれの島自体の面積が小さく、脆弱な環境ながら、それぞれの島の生物がその環境との絶妙なバランスをとりながら別々に進化をとげ、今日それぞれの島に固有種が生息・生育しているという特異な状況です。それが現在、沖縄県、鹿児島県が環境省と協力して進めている奄美・琉球諸島の世界自然遺産登録への取組みの根幹ともなっています。

このような島々の間で、大量の「石材」を移動させるということは、「石材」の採取による環境破壊、そして移動による外来種の移入という大きなリスクを伴います。これは世界自然遺産登録への取組みに背く行為です。また沖縄県が沖縄の生物多様性の保全と持続可能な利用を図るために策定した基本計画「生物多様性おきなわ戦略」の内容とも整合性が取れません。さらには、日本が議長国をつとめ2010年に開催された第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)で合意された目標「愛知ターゲット」の目標9「外来種の根絶」、目標10「脆弱なサンゴ礁の保全」、目標12「絶滅危惧種の保全」のいずれにも背く行為です。

環境保全の視点からは、那覇空港滑走路増設事業の遂行自体を中止いただきたいのですが、それがかなわない場合でも、時間をかけて丁寧に同事業による環境への影響を最小限にとどめていただきたく思います。沖縄総合事務局から申請された奄美大島からの「石材」の搬入、その他県外地域からの搬入について、沖縄県が申請を認めないことを要望いたします。

ご参考:

  • 1) 山城秀之(2003)多発するイシサンゴ類の病気.しまたてぃ27号.p135-139
  • 2) NHK NEWS WEB 2015年5月9日 「水を調べれば生き物がわかる環境DNA」
    http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150509/k10010074321000.html
  • 3) 高原輝彦・源利文・土居秀幸(2014) 水を調べるだけで生き物がわかる!環境DNAを利用した生物分布モニタリング法. 日本陸水学会東海支部会編 身近な水の環境科学 実習・測定編. 朝倉書店

nahakuko_koji_abe.jpg
▲滑走路建設のために埋め立てられる大嶺海岸でのボーリング調査の様子(2014年夏撮影)

nahakuko_tyakkougo2014_arimitu1.jpg
▲ボーリング調査中の大嶺海岸。手前に泡がたち水質が悪化している様子がわかる。(2014年8夏撮影 写真:有光智彦)

 

↓着工前の大嶺海岸。サンゴ群落が広がり、さまざまな生きものの貴重な生活場所となっていた。

nahakuko_tyakkoumae_arimitu3.jpg
▲大嶺海岸のサンゴ群落(写真:有光智彦)

nahakuko_tyakkoumae_arimitu2.jpg
▲トビハゼの仲間(写真:有光智彦)

nahakuko_tyakkoumae_arimitu1.jpg
▲ウミヘビ(写真:有光智彦)

前のページに戻る

あなたの支援が必要です!

×

NACS-J(ナックスジェイ・日本自然保護協会)は、寄付に基づく支援により活動している団体です。

継続寄付

寄付をする
(今回のみ支援)

月々1000円のご支援で、自然保護に関する普及啓発を広げることができます。

寄付する