市民調査の地域の専門家との連携の場づくり、調査技術向上研修会 ~全国サイト間交流会2015・前編~
こんにちは、保護・研究部の後藤ななです。
日本の里やまの環境変化を捉えるために、全国約200ヶ所の調査サイトで各地の市民が調査に取り組む「モニタリングサイト1000里地調査(以下、モニ1000里地調査)」は、準備期間から数え今年で開始から10年目を迎えました。
現在、全国には約2500名にもおよぶ市民の方がこのモニ1000里地調査に参加し、ほぼ毎日のように、どこかの里やまでは調査が実施されています。
今回、1月17-18日に、北九州市立いのちのたび博物館を会場として、年に一度のモニ1000里地調査全国サイト間交流会を開催してきました。大寒も近づき天候は肌寒さも感じましたが、全国からモニ1000里地調査に関わる方々にお集まりいただき、白熱した2日間となりました。
1日目には、昨年度に引き続き「調査技術向上研修会」を実施しました。
例えば、ある時代における特定の生息分布(“いる”だけではなく“いない”という情報も)や、生物がどのくらいの数生息していたかなどの経年変化の記録は、標本だけからは得がたい情報です。そうした情報を、市民と博物館が連携することで、記録・発信ができることを北九州市立博物館の事例を交えてご紹介いただきました。
研修会中には「植物相調査に必要なスキルは何?」という議論があり、会場からの回答の一つに「植物を確認すること、“本当かな?”と疑問を持つこと」という答えがありました。
これは、今回の研修会のテーマの一つでもあり、今回はそんな疑問が調査中に生じたときにどのように答えを見つけていくかについて、「種名(しゅめい)」の付き方や植物標本の作り方、検索表の使い方を通じて学んでゆきました。
今回の研修会では、ベテランの調査員の方も参加されており、標本の使い方や検索表には慣れている方もいらっしゃいましたが、一つ一つの作業を皆で確認しながら、お互いの効率的な作業の進め方を共有したり、他の人に教えるときにどんな風に伝えると良いかを確かめながら講義を進めていきました。
また、個体数が少なく採集・標本作成が困難なときなどには、現場で役立つ写真の撮り方もご紹介いただきました。花のつくりのわかる細部や全草の様子、その植物の生える生育環境のポイントを押さえておくことで、あとから植物の同定に役立てられることが多々あります。果実の瑞々しい様子や植物の色はカメラでしか収められないため貴重な情報にもなり、植物標本と同じように写真も大切な情報となります。
最後には、ホトケノザという身近な早春の植物を使い、検索表を用いた同定作業にチャレンジしました。
(写真:ホトケノザの見分け方)
そこで、ここでは検索表で同定する手順を学びつつ、検索表で行き詰らないような実用的な使い方もご紹介いただきました。例えば、厳密に1つの選択肢を選びながら進めると、植物の特徴と違う用語ばかりになって行き詰ったり、異なる種に行きついてしまうことがあります。そんなときには、候補となるいくつかの選択肢を同時に読み進めて該当する種を見つけたり、また、どうしてもわからないときは無理して何かに決めつけるのではなく「わからない」とした上で候補となる種をメモを残すと次回に役立つこともあります。
▲調査技術向上研修会の様子
▲ルーペを使って細部を見る
この日、最も印象的だったことは、前述した「植物相調査に必要なスキルは何?」という問いで、実は、一番最初に「歩きながら植物を見るのが好きなこと」という答えが返ってきたことです。この言葉を通して、各地で仲間と楽しみながら調査を続けられている様子を伺うことができました。また、日々の地域の自然の変化にひたむきに向き合って、生きものの生き様を丁寧に記録している市民調査員の方々と一緒にこの全国調査を作り上げていけることを改めて実感し、今後にむけて元気をいただいた一日でした。
▲植物相調査に必要なものは?
これからも地域の自然を地元市民が調べ、その魅力と価値を発信し続けていけるように、市民調査員の方々への調査技術のフォローアップや、地域の博物館などの専門機関と市民調査との連携を探るためのプラットフォームづくりを進めていきたいと思います。
後編には、2日目に開催したシンポジウム「人と人がつなぐ全国調査~データが紐解く里やまの姿~」とポスター発表の様子をご紹介します。