“四国三郎” 吉野川の河口干潟に、4本目の橋が?
保護・研究部の志村です。
”四国三郎”の名で親しまれている吉野川は、四国を流れる大河です。
1.3kmもある広々とした河口に立つと、川と海が空へとつながっていくようで、鳥たちといっしょに羽ばたいていきたくなる、そんな場所です。
この河口に、橋をかける計画があります。
すでに河口部4kmほどの範囲に3本の橋があり、さらに4本目が、まさにこの河口部に計画されています。
12月15日に、橋の環境に関する会議があり、地元のNACS-J会員・自然観察指導員の井口利枝子さんと一緒にNACS-Jも出席してきました。
▲吉野川の広々とした河口に立つ井口利枝子さん。
正式には「四国自動車道 吉野川渡河部の環境保全に関する検討会 第4回環境部会」という長い名前のこの会議は、橋による影響を検討する部会で、事業者の調 査データだけではなく、一般の方々による生物観察データを環境モニタリング調査の基礎資料にしていこうという方針によって設けられた回でした。
この日は、募集に応えて提出された6名の方々が観察結果等を発表し、委員も含めて協議がされました。
▲第4回環境部会のようす。日頃の観察データなどを6名の方が発表された。
数が少ない生物から多くデータを得るには長い時間の積み重ねが必要です。今回は、コクガンやビロードキンクロ、ホウロクシギ、ルイスハンミョウなどの希少種について、地元の方々長年にわたって観察してきた内容が紹介されました。
NACS-J会員の井口さんは、シオマネキなど干潟の生物の観察会を仲間と続けています。この日は、2012年4月に開通した「阿波しらさぎ大橋」の県のモニタリング調査報告書を専門家の協力を得て解析をした結果を「阿波しらさぎ大橋建設に伴うシギ・チドリ類の生息場所選択への影響評価に関する考察」と題するレポートにまとめ、その見解を発表しました。
「しらさぎ大橋」では環境への配慮として、11年という長期にわたるモニタリング調査が実施されてきました。
徳島県は、平成24年度までの調査結果から「橋の建設による環境への影響は軽微である」と公表しています。
しかし、この県のデータを解析したところ、橋による影響があったと考えられる結果となったのです。
井口さんは、
『阿波しらさぎ大橋の建設だけでもシギ・チドリ類の移動が妨げられている可能性があったことを考えれば、このしらさぎ大橋とわずか1,7kmの近接したところに架ける橋の計画は、渡り鳥だけではなく、河口の広大な景観や、生物多様性にとって致命的な影響を与える心配があり、複合影響をした上で見直すべきだ』と訴えました。
▲阿波しらさぎ橋の建設前後でのシギ・チドリ類の干潟の利用個体数の変化。
エリア4(橋の上部)で個体数が有意に減少している。
▲「阿波しらさぎ大橋」。手前に広がる干潟の影響を軽減しようと、手前だけ橋脚の数を減らした設計。
会議の後半は、参加者からの観察データをどう活かすかについて議論がされました。
橋による影響として考えられる、餌やねぐらについてはこれまでのデータなどからある程度予測できるようになってきています。
一方、シギやチドリなどの水鳥は、川を滑走路のようにして餌場やねぐらを行き来しており、橋が、鳥たちにとってどのようなバリアとなるのかについては、まだよくわかっていないのです。
会議の参加者にはだれもこのような事例について知見はありませんでした。
吉野川河口干潟のような大規模な干潟に橋をかけたことは、日本では今までになく、この自動車道路の橋が鳥たちにとってどのような影響が及ぶのかは、今のところ誰にもわからない状況なのです。
委員からは、事例がないので、(影響については)見積きらないといった意見も聞かれました。
別の委員からは、橋ができて水鳥がゼロになってしまったら橋を壊してトンネルにする、そういうことも考えられるのでは、という意見もありました。
事業者としては、来年3月までに調査計画をブラッシュアップさせ、来秋の着工を目指しているとのこと。
海と川がであい、多くの生き物たちが関わりあいながらくらしている、とても複雑で豊かな場所。
この豊かさを守るにはどうしたらよいか。まだまだ知恵と力がたりません。
NACS-Jの吉野川についてのこれまでの意見はこちら。
▲吉野川の南にある勝浦川の河口干潟。四国自動車道は、やはり環境省重要湿地500にリストアップされているこの干潟も通過する計画だ。