IUCNレッドリスト更新 ― クロマグロ、アメリカウナギなどが絶滅危惧種に指定される
保護・研究部の道家です。
本日(11月17日)、IUCNのレッドリストの更新が発表されました。仮訳の抜粋と今回の決定の解説をします。
***IUCN Red List 2014.3 プレスリリース抜粋(仮訳抜粋)****
世界の食欲によって新たに生物が絶滅のふちへ –IUCNレッドリスト
クロマグロ、カラスフグ(Takifugu chinensis)、アメリカウナギ、タイワンコブラそしてオーストラリアのチョウが絶滅の危機に
シドニー、オーストラリア(2014年11月17日)—漁業、伐採、採掘、農業といった世界の食欲を満たす活動が、クロマグロ、カラスフグ、アメリカウナギ、タイワンコブラの生存をおびやかしており、生息地の破壊が、マレーシアの貝や世界最大のハサミムシを絶滅させ、多くの種の生存が脅かされていることが、IUCNの最新のレッドリストで明らかになった。
クロマグロ Tunnus orientalis
©Monterey Bay Aquarium_Randy Wilder
アメリカウナギ Anguilla rostrata
©Clinton & Charles Robertson_Flickr CC BY 2.0
「世界的な食料市場はこれらの種や他の種に非持続可能な圧力をかけている。」とジェーンスマートIUCN生物多様性グループ部長は語る「我々は、漁獲に厳格な制限を行なうことが緊急に必要で、生息地を守るための適切な手法をとる必要がある」
「近年の絶滅は、生息地を適切に守ることで避けることができる」とIUCN種の保存委員会サイモンスチュワート氏は主張する。今回の発表には、コロンビアのRanita Dorada保全地域に生息する2種類の両生類が良い管理の結果、状況が改善したというニュースが入っている。このような成功をもっと見ていくための積極的な行動をとる責任があり、そうすることで健全な地球に向けて積極的な影響を与えていくことができる」
*******仮訳ここまで******
https://www.nacsj.or.jp/katsudo/wetland/2014/11/iucn.html
【IUCNレッドリスト発表の解説】
日本の水産行政に厳しい目 − 海洋保護区制度の充実なしには、「和食」の未来はない
道家哲平(保護・研究部 国際担当/国際自然保護連合日本委員会(IUCN-J) 事務局長)
今回、IUCNは身近な食に関わる生物を中心にプレスリリースで紹介しています。そしてその4種のうち3種が主に日本人の食卓にあがる種(クロマグロ、アメリカウナギ、カラスフグ)だったことは、日本の水産行政や消費者政策(教育)に大きな問題があったことを示唆します。
クロマグロやカラスフグなど日本の漁業や食と深く関わる種について、今回のリスト掲載はどんな影響があるのでしょうか?という疑問がわくと思います。
レッドリストでの絶滅危惧種指定そのものに法的効果は発揮しません。ただし、今のままでは絶滅してしまう(食べられなくなってしまう)ということなので、私たちが食べ続けたければ、あるいは、子ども達の世代が食べられるようにするには、漁獲量の規制措置や生息地の保全対策(海洋保護区の設置)も含めた対処策を、各国は考えていかなければいけないというメッセージといえます。
日本の食文化「和食」はユネスコ無形文化遺産に指定されましたが、その和食文化の実態が生物を絶滅に追いやる文化であるならば、決して世界に誇れるものとはいえず、世界に広まってはならない文化とまでなってしまいます。
また、IUCNが強く指摘しているのは、漁獲量の制限だけでは、この種の持続可能な利用にはつながらないということです。日本の海洋保護区制度を効果的なものにしていく努力が必要と考えます。
●日本の海洋保護区について、詳しくは活動記録をご覧ください。
https://www.nacsj.or.jp/katsudo/wetland/2012/05/83.html
*3種に関する補足情報:
クロマグロ(Thunnus orientalis)は、北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC,クロマグロの定期的資源量評価を行う責任を持つ機関)の統計に基づき、(産卵)親魚量(重量)(spawning stock biomass (SSB))に基づき、22年間(1世代7.4年と計算)で、19–33%の減少が見られるとIUCNの専門家グループは判断し、2011年に軽度懸念だったものが絶滅危惧Ⅱ類と評価された。この結果は、漁獲傾向、新魚量、加入量(recruitment)、漁獲死亡率(漁業によって捕獲されることによる個体数減少率。クロマグロの場合、幼魚(未成魚ー0−3年)の死亡率が4年以降のものより高いことが問題視されている。すなわち、ちく養(卵からの完全養殖ではなく、幼魚をとらえ大きくするあり方が問題となっている))などの傾向も加味されている。
適用基準は、Vulnerable A2bd<
過去10年間あるいは3世代の間に、(b)当該分類群にとって適切な個体数レベルを表す示数および(d)実際の、あるいは想定される捕獲採取のレベルに基づき、個体群サイズが30%以上縮小していることが観察、推定、推量、あるいは推論され、その縮小やその原因がなくなっていない、理解されていない、あるいは可逆的でない。
アメリカウナギ(Anguilla rostrata)は、36年間(1世代12年)で、50%の減少量と推定されました。(ニホンウナギと同じく成魚(silver eel)の個体数情報はないが)諸統計から絶滅危惧ⅠB類の基準に合致すると判定。例えば、1975年−1980年にかけて213トンの漁獲量があったが、近年では2.11トンにまで減少(FAO統計)、シラスウナギについては、河川遡上量が、1980年代に100万匹(年間)いたものが、1990年代後半に4000匹、2001年にゼロという統計などを総合的に判断したものです。
適用基準は、Endangered A2bd
過去10年間あるいは3世代の間に、(b)当該分類群にとって適切な個体数レベルを表す示数および(d)実際の、あるいは想定される捕獲採取のレベルに基づき、個体群サイズが50%以上縮小していることが観察、推定、推量、あるいは推論され、その縮小やその原因がなくなっていない、理解されていない、あるいは可逆的でない。
カラスフグ(Takifugu chinensis)は、独立行政法人水産総合研究センター「西海区水産研究所」や独立行政法人 水産大学校等の研究により、40年間で99.99%の減少(1969年に3600トンという水揚げをピークに、2008年には約1トンという水揚げ)したとされ、最も危機ランクの高い絶滅危惧1A類とされた。過剰漁獲だけでなく、近い仲間のトラフグの養殖による悪影響(過密養殖による疾病の流行と、それが自然界の個体にも影響を及ぼしているなど)も指摘されています。学名から、分かる通り中国沿岸にも生息していますが、中国ではフグ食を禁止する法律があることら、過剰漁獲は日本人によるものと考えられます。
適用基準は、Critically Endangered A2bd
過去10年間あるいは3世代の間に、(b)当該分類群にとって適切な個体数レベルを表す示数および(d)実際の、あるいは想定される捕獲採取のレベルに基づき、個体群サイズが50%以上縮小していることが観察、推定、推量、あるいは推論され、その縮小やその原因がなくなっていない、理解されていない、あるいは可逆的でない。
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