【配布資料】 今日からはじめる自然観察「あれ? 昨日と違う!花の性転換」
<会報『自然保護』No.542(2014年11・12月号)より転載>
このページは、筆者の方に教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可)。
ダウンロードして、自然観察などでご活用ください。
植物の世界にも、性別があります。
雄と雌の木があるもの、ひとつの木に雄花と雌花があるもの、そして、今回注目する「ひとつの花に雄期と雌期があるもの」。
これを知れば、花をじっくり観察するのが楽しくなります。
福原達人(福岡教育大学 教育学部 准教授)
種子をつくる植物のうち、「被子植物」は花を発達させました。被子植物の種のおよそ7割は、花に雄しべと雌しべの両方があります。
雄しべは花粉を出し、雌しべは花粉を受け取るという働きをしますが、実は、雄しべと雌しべが同時に働かない花が意外とたくさんあります。ヤツデの花では、雄しべが働く時期(雄期)から雌しべが働く時期(雌期)へと変化します。逆に、雌期から雄期へ変化するものもあります。
このような変化を、ここでは、「花の性転換」と呼びます。変化の途中に雄でも雌でもない時期(無性期)が入るもの(例:ヤツデ)、雄期と雌期が重なった両性期があるものなど、植物の種類によってさまざまなパターンがあります(下図)。
図:花の性転換のパターン
雄期→雌期の変化を「雄性先熟」、雌期→雄期の変化を「雌性先熟」という。)
ほかの花の花粉を受け取りたい!
花の性転換は、植物にとってどんなメリットがあるのでしょうか? 花が、蜜や目立つ花びらで虫を惹きつけたり、風に花粉を乗せて放出するのは、基本的には、近親交配を避けて、自分の花粉をほかの株の雌しべの先端(柱頭)に届けたり、ほかの株の花粉を自分の柱頭で受け取ったりする(他家受粉)ためです。
ひとつの花の中に雄しべと雌しべがあると、自分の花粉が自分の柱頭につくこと(自家受粉)が起こりやすくなってしまいます。ヘチマのように雄花と雌花を別々にしたり、ランのように虫が花に入るときには柱頭、出るときには雄しべに触れるようなしくみを備えたり、植物には自家受粉を防ぐさまざまなしくみがあります。花の性転換もそのひとつです。
タブノキなどでは、花の性転換が1本の木の中でそろって起こるため、ある時期は雌期の花、別の時期は雄期の花ばかりになります。そのため、木全体が性転換をするようなもので、自家受粉は大変起こりにくくなっています。
そろって性転換しない場合は、オオバコ(写真)のように雌期と雄期の両方の花がついている状態になりますが、オオバコの場合は、雄期の花が雌期の花の下にあるので、風で自家受粉する確率は低くなっています。
写真:オオバコ下から順にまず雌しべが出て、次に雄しべが伸び出していく。
雌期: 花びら(茶色・半透明で4枚)が閉じた状態で先端のすきまから白いひものような柱頭が伸び出して花粉を受け取る。
雄期: 花びらが開いて、雄しべが突き出し、花粉を風に乗せて飛ばす。
性転換をする花の多くでは、咲いている間に雄しべと雌しべがダイナミックに位置を変えます。雄期から雌期に移るとき、雄しべは取れて落ちたり(例: ヤツデ)、ぐたっと倒れて(例: クサギ)雌しべに場所を譲ります。逆に、雌しべは成長したり、先端が大きく開いたり、雄しべと入れ替わるようにせり上がって存在感を高めます。
花の観察では、花びらに眼を奪われがちですが、雄しべと雌しべに注目してみましょう。並んで咲いている複数の花を比べると、雄期と雌期の違いを見つけることができるかもしれません。そこには、身近な花の巧みで力強いしくみがあります。
クイズの答え:【シキミ】左:雌期、右:雄期 【キキョウ】左:雄期、右:雌期