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生態系を壊すアルゼンチンアリの脅威

2014.10.15
解説

猛スピードで日本各地に分布を広げる

アルゼンチンアリは、南米中部のアルゼンチンからブラジルのパラナ川流域を原産地とするアリです。ここ150年の間に人類の交通に便乗して北米、ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリアなどに侵入し、衛生害虫、農業害虫、そして生態系の撹乱者としてさまざまな被害をもたらしています。

このアリが、1993年に日本への侵入が確認され、以降、各地で生息地が発見されています。アルゼンチンアリの分布の広がりは、人の交通網に沿って広がるため、遠く離れている場所へも一気に分布を広げています(図1)。

aruzentinarifig3.jpg図1:アルゼンチンアリの日本での分布
1:横浜市、2:田原市、3:各務原市、4:大阪市、5:神戸市、6:呉市、7:広島市、8:廿日市市、9:大竹市、10:岩国市、11:柳井市、12:宇部市。●:2004年以前に発見された地域。▲:2005~2008年に発見された地域。2009年に入り、さらに新たな侵入地が3カ所発見された。

aruzentinari_terayamaphoto.jpg写真:アルゼンチンアリ。大型の個体は女王で、小型の個体は働きアリ。巣は全体として巨大になり、大小さまざまな数多くの分巣が、網目状にはり巡らされるようにして存在する。

在来種が駆逐され生きものの顔ぶれが変わる

アルゼンチンアリは、日本では、行列をつくって家屋内に頻繁に侵入する家屋・衛生害虫としてよく取り上げられますが、国際自然保護連合(IUCN)の「世界の侵略的外来種ワースト100」にも指定されているように、強大な生態系の撹乱者として、侵入先の生物群集にさまざまな影響を与えます。

アルゼンチンアリの侵入によって、在来のアリ類が大きな被害を受け、ごく一部の種を除いて駆逐されていき、アルゼンチンアリが増殖した高密度の生息地域では、ほとんどの在来アリがいなくなってしまいます(図2)。

アリ以外でも、トビムシ類、ハサミムシ類、クモ類など多くの節足動物が影響を受けます。海外では、トカゲやトガリネズミの仲間まで排除されている可能性が指摘されています。
植物では、アリに種子散布を依存している種が少なくありませんが、これらの植物と関係していた在来のアリがアルゼンチンアリによって駆逐されれば、これらの植物が著しく減少する可能性があります。
同様に、アルゼンチンアリの活動によって、クモなどの捕食者や送粉者となるハチ類が減少し、それによって多くの植物が影響を受けているという報告もあります。

aruzentinarifig2.jpg図2:アルゼンチンアリの密度と在来アリの種数との関係

5分間単位で道を歩き、見つけたアルゼンチンアリの行列数(相対的密度)と地上歩行性の在来アリの種数を数える簡単な調査の結果(岩国市黒磯町)。アルゼンチンアリの密度の高い場所ほど在来アリが見られなくなる。(寺山・田中・田付, 2006)

アルゼンチンアリが世界規模で生態系に被害を与え、かつ防除が著しく困難である原因は、侵入先での繁殖力が並外れて大きく(アルゼンチンアリの巣の中には数多くの女王が存在し、高い増殖能力を持ちます)、極めて高密度になることと、働きアリの行動が活発で攻撃的である点です。

日本での外来アリの脅威はほかにもあります。アルゼンチンアリと同様に環境省が「特定外来生物」に指定しているアカカミアリとアカヒアリ(ヒアリ)です。アカカミアリは、現在、火山列島の硫黄島で優占種となっています。アカヒアリは日本近隣の台湾、香港、マカオ、広東などに侵入し、大きな被害をもたらしており、今後、日本にも侵入してくる可能性が高く、十分な注意が必要でしょう。

(寺山 守/東京大学農学部 非常勤講師)

(会報『自然保護』2009年11・12月号より転載)

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