宮城県気仙沼市小泉海岸の植生調査を行ってきました。
引き続き 保護・研究部の朱宮です。
多くのサーファーがサーフィンを楽しむ風景が戻った宮城県気仙沼市小泉海岸。ここは宮城県で最大級の防潮堤が計画されている砂浜です。
NACS-Jは、防潮堤が建設された場合の影響についてさまざまな角度から科学的に検証していくために自然科学的な調査を行っています。多くの人命が失われた場所であり、単に防潮堤建設に対して反対するための調査でなく、暮らしを豊かにする地域の自然の価値・状況を調べ被災地の復興の支援につなげていくことを目的にしています。
8月22日から25日で行った調査では、7月末にNACS-Jの中井参与とNACS-J職員2名が水際から内陸に向かって測量を行った4本の基線に沿ってどんな植物が分布しているのかを調べました。これにより、小泉海岸には水際から内陸に向かってどんな植物が見られるのか、生物多様性保全上の意味や生態系サービス、レジリエンス(回復力)の観点から再評価できないかを試みる予定です。
▲小泉海岸に設定された測量を行った基線の復元作業(7月)
小泉海岸の砂浜には種数や個体数は少ないのですがさまざまな植物が見られ、典型的な海浜植物であるハマニガナやコウボウムギもありました。
▲左:ハマニガナ、右:コウボウムギ
また、一昨年の津波後の東北沿岸の海岸植物群落の調査でも明らかになりましたが、外来種のオニハマダイコンやアメリカセンダングサなども見られました。
▲オニハマダイコン
さらに、砂浜の最先端に湿地植物のコウキヤガラが生えているのを確認しました。また、基線沿いに周辺を探してみると同じく湿地の植物であるクログワイも発見できました。
▲海辺近くで確認された湿地植物のコウキヤガラ
こうした現象は他の地域でも報告があるのかもしれませんが、湿地植物は潮や乾燥に弱いと思っていた私にはたいへん驚きでした。津波が起こらなくても洪水などが起これば大量の土砂とともに内陸の植物が海まで運ばれることはあるでしょう。河川沿いに生育するオニグルミも今回の調査で確認されました。
こうした現象からいろいろなことを想像することができます。湿地植物は意外に潮や乾燥に強い種もあること、津波や洪水により内陸から海へ海から陸へ、あるいは隣の浜へと植物が移動する機会を与えていること、特に砂浜はさまざまな植物の中継点になっている可能性があるのではないか、など生態学的にも興味深い点が明らかになりました。
砂浜を覆う巨大な防潮堤を作るということは、生育場所の消失につながるのはもちろんのこと、個体群の交流の機会や場を消失させることでもあります。特に三陸周辺は砂浜が少なく、小泉海岸は生物多様性保全上重要な生育地であると考えられます。
サーフィンや自然観察などのレジャーをはじめとした海岸を残すことで得られるさまざまな生態系サービスを、復興後も地域の人が享受できるようにするためにも砂浜をすべて消失させる巨大な防潮堤の建設計画には大きな疑問があります。防災上の観点から巨大な防潮堤が避けられないものであるなら、砂浜を残して後ろにずらす(セットバック)など影響を最小限に抑える工夫をしてもらいたいと思います。
▲砂浜のクログワイ