東日本海岸調査報告書(2013年度)が完成しました
東日本海岸調査報告書(2013年度)(PDF/11.2MB)
はじめに
日本自然保護協会(NACS-J)は、2012(平成24)年度に実施した東日本太平洋岸・市民による海岸植物群落調査と「海岸とのふれあい」調査にもとづいて、海岸植物群落および植物群落レッドデータブック記載群落の津波後の現状を明らかにしました。
この調査では、海岸植物群落は津波によって消失してしまったものもありますが、残存していたものが多くあることがわかりました。また、この地域に暮らす人々の自然とのかかわりに関する聞き取り調査から、海岸環境が海辺に暮らす人々にとって漁業や養殖業などの生業として大事であるだけでなく、精神的文化的側面からも大切であることが明らかになりました。
一方、東北の沿岸では巨大な防潮堤復興事業と海岸防災林復旧事業が急速に進行しつつあります。NACS-Jは、残存している海岸植物群落をはじめとする地域の自然環境の保護や生物多様性保全を十分に考慮し、健全な自然生態系を残しながら事業を進めることを要望する意見書を各関係機関に提出しました。この意見書では、
- 海と陸との連続性を失わないこと
- 津波後に回復してきた動植物の生育・生息地を保全すること
- 復興事業においても環境アセスメントを実施すること
- 地域の自然を熟知している市民の意見を取り入れること
を、要望しました。しかし、防潮堤の建設や海岸防災林復旧による自然環境への影響は科学的に十分に把握されていませんでした。
そこで、2013(平成25)年度の調査では、宮城県気仙沼市西舞根地区と南三陸町戸倉地区の小河川の集水域に注目し、山から海に至る自然環境の連続性を自然科学的な観点から把握すること、巨大防潮堤の建設など復興事業による自然環境への影響について検証することを目的として、河川周辺の植生、水環境、水生昆虫相、アマモ場の調査を実施しました。また、南三陸町の入谷地区においてふれあい調査を実施し、地域のくらしのあり方や自然資源の利用に関して、より詳細に聞き取り調査を行いました。
これらの調査結果をまとめたものが本冊子です。現地では復興事業が急速に行われていくとともに少しずつではありますが、地域の方々が地域の将来について話し合いをする場ができつつあります。地域の生物多様性保全にとって重要な自然環境を残し、地域住民が将来にわたってそれらを活用していける持続可能な地域づくりを目指す復興計画を策定するために、本冊子が参考になれば幸いです。
東日本海岸調査報告書(2013年度)(PDF/11.2MB)