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リニア中央新幹線補正評価書についての意見を提出しました

2014.09.12
要望・声明

リニア中央新幹線補正評価書についての意見(PDF/320KB)


国土交通大臣 太田 昭宏殿
環境大臣   望月 義夫殿
東海旅客鉄道株式会社 代表取締役社長 柘植 康英殿

リニア中央新幹線補正評価書についての意見

公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章

リニア中央新幹線の環境影響評価の補正評価書が公告縦覧された。この補正評価書は、環境大臣および国土交通大臣から、環境への影響の最大限の低減を求める意見が出されたことに対する補正作業を経たものであることから、日本自然保護協会では、補正内容の妥当性について検討を行った。その結果、下記の点について問題があり、補正評価書として不十分であると判断した。

主務官庁である国土交通省は、環境影響評価法に則り、環境影響の低減措置が不十分である本事業の認可をしてはならない。

事業者は再度、大臣意見等を真摯に受け止め、環境への影響が最大限低減されるよう保全措置を再度検討しなおすことが必要である。そのことは、公共性の高い事業を担う企業としての責務である。

 

1.トンネル工事による地下水、河川水流量への影響について

山岳部のトンネル工事にともなう湧水対策には、精度の高い予測が重要である。特に南アルプス地域は地質構造が複雑であるとともに、多くの断層が存在することにより大規模な破砕帯の存在が想定される。補正前の評価書では、1983年に構築されたプログラムを用いた準三次元のシミュレーションでの予測であったため、国土交通大臣、環境大臣をはじめ知事意見や、一般の意見からも最新のシミュレーションでの予測の必要性が言われていた。

これに対して補正評価書における国土交通大臣意見への事業者見解では、一般国道474号三遠南信自動車道青崩峠道路等の環境影響評価に用いられた三次元水収支解析方法で実施したと回答している。しかし補正評価書の本編及び参考資料の水環境の記載部分では、1983年に構築されたプログラムを用いたと記載され、模式図も示されている。いずれの方法を採用したのか不明である。さらに、いずれの方法においても準三次元のシミュレーションであり、最新の三次元シミュレーションではない。

また、岐阜県における東海丘陵要素植物群の立地する小湿地群について、環境大臣意見では、立地特性を明らかにしたうえでの影響評価と低減措置を求めている。これに対して事業者は、基本的に雨水涵養の湿地であり、地下トンネル構造の及ぼす影響は小さいと結論している。しかし、流量が多い当該湿地の現況の特性から考えると、集水面積が小さい当該湿地が雨水のみで涵養されているということは、理解しがたい。東海丘陵要素植物群は、第三紀に成立した植物群が氷河期を生き残った遺存植物であることと、世界的な分布状況の希少性を考慮して、環境大臣の指摘のとおり、原則回避を目指すべきである。

 

2.トンネル湧水を最小化する工法の検討について

評価書に対する環境大臣意見では、現状の科学的知見では地下水の挙動を完全に予測することが難しい。したがって予防原則として防水型トンネルの施工を行うこととしている。この意見は、評価書までの段階で示されたトンネル工事による地下水への影響評価方法が不十分であり、かつ、これまでの我が国で実施された数々のトンネル工事で発生した異常出水等の事例を踏まえて、考えうる最善の方法を用いることで水脈の遮断による湧水の発生とそれに伴う地下水や河川流量の減少を最大限軽減することを求めているのであり、根本的に工法を見直すべきという意見である。これに対して事業者は、現実的ではないとして現在のトンネル工事で一般的に使われている工法を採用している。

2007年に共用された圏央道の八王子城跡トンネル工事では、国指定の史跡でもある八王子城跡内の滝への影響が懸念され、地下水の漏水を防ぐのに適しているとされていたシールド工法が採用されている。この工法も今回の事業者は特殊な事例として採用していない。八王子城跡のトンネル工事では、こうした工法を採用したにもかかわらず滝の水枯れを生じていることを考えれば、本事業では、より最新の知見を収集し、最適な工法を採用することが求められる。こうした検討もないのは保全措置としては不十分である。

 

3.希少猛禽類の保全措置について

評価書に対する環境大臣意見では、希少猛禽類の保全措置は回避が原則であること、コンディショニングや代替巣の設置などは確立された方法ではないことなどを大原則として、特定のペアの事例をあげつつ具体的に、繁殖期の工事の中断などの回避措置を求めている。これに対して事業者は、これらの意見をまったく無視し、コンディショニングや代替巣の設置などを保全措置として採用している。なお、この部分に該当する専門家のアドバイスは、「工事区域を猛禽類に認識させることが保全上有効である」というだけである。しかし、環境省の「猛禽類保護の進め方」改定にあたっては氏名及び所属の公開された専門家が議論し、現状の最新の科学的知見を踏まえ、コンディショニングという方法は確立されたものではないとの結論である。これに対してコンディショニングが有効であるというのであれば、その根拠を示すべきであり、かつ、助言を受けた専門家の氏名および所属を公表し、専門家としての判断や意見が科学的に妥当であるかの検証を受けるべきである。

 

4.工事による改変後の自然環境復元について

工事施工ヤードや発生土の一時保管場所は工事の終了後の自然環境の復元措置が求められる。復元とは、その場所の自然植生へ戻すことである。事業者の計画では緑化作業での配慮事項は記載されているが、どのように自然植生へ復元するのかについての記載がない。評価書の環境大臣意見では、復元するための保全措置を求めており、このことについての回答になっていない。

 

5.南アルプスエコパークについて

南アルプス地域は、平成26年6月にユネスコの生物圏保存地域(エコパーク)に登録された。ユネスコエコパークは、生物多様性保全上重要な地域の保全と、それを損なわない利用を目的に指定されるものであり、原則は保全である。この観点で環境大臣意見では、その資質を損なわないよう十分な配慮を求めている。補正評価書では、その資料編に「南アルプスエコパークについて」という項目が建てられているが、その内容は補正前と変わっていない。したがって環境大臣意見に対しては無回答ということになる。

静岡県版では、事業者は、移行地域に建設残土を埋め立てる計画であるが、観光利用に支障がないよう道路を整備するとのみの記載であり、保全措置になっていない。一方、長野県版では移行地域には残土を置かないようにすると記載しており、同じ移行地域に対する記載に整合性がない。場当たり的な対応であり、南アルプスエコパークの保全に配慮していないと言わざるを得ない。

 

6.南アルプスの隆起量について

配慮書の段階から評価書に至るまでパブリックコメントでも、南アルプスの隆起量評価に関する多くの疑問が提示されている。これに対して事業者は、評価書の資料編において「南アルプスの隆起量について」という項目をたて、突出した値ではないと主張していた。しかしこの主張は、議論にふさわしいデータを用いておらず、地殻変動のメカニズムも示されていない。また、トンネルについての評価でありながら地表面の侵食量を加味した評価で隆起量を小さく見積もるなど科学的な誤りが多い。補正された評価書においても何ら修正されておらず、科学的に誤った内容のままの評価で「工事中はもとよりその後の維持管理においても問題はない」という記述には根拠がない。

 

7.地域住民への丁寧な説明について

評価書に対する国土交通大臣意見では、地域住民への丁寧な説明を求めている。これに対して事業者は、これまでも数多くの説明会を開催し、丁寧な説明をしてきたとしている。その上で資料作成をもっとわかりやすい内容にするなどの改善を回答している。しかし、これまでの各地域で開催された住民説明会は双方向の意見交換の場は設けられておらず、再質問が制限されるなど、一方通行の説明会となっていた。

このため地域住民は不信感を募らせる結果となっている。環境影響評価の手続きの重要な点の一つは合意形成である。合意形成には、双方向の議論とよりよい方向への計画変更がなければならない。自分たちの計画を一方的に説明し、さらなる疑問には答えないというやり方では合意が図れるものではない。事業者は国土交通大臣意見を真摯に受け止め、地域住民からの意見には、計画変更も含めてきちんと回答し、よりよい環境保全措置となるよう努めることが求められる。

以上

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