イヌワシが狩りをする環境の創出試験を開始します
【プレスリリース】イヌワシが狩りをする環境の創出試験を開始(PDF/149KB)
補足資料
谷の森におけるイヌワシが狩りをする環境とできない環境(PDF/305KB)
『イヌワシのハビタットの質を向上させる森林管理手法の開発試験計画』の概要(PDF/647KB)
プレスリリース
公益財団法人日本自然保護協会
林野庁関東森林管理局計画課
赤谷プロジェクト地域協議会
イヌワシが狩りをする環境の創出試験を開始
国有林の生物多様性復元と持続的な地域づくりを目指す赤谷プロジェクト(群馬県利根郡みなかみ町)は、森林の生物多様性の豊かさを指標する野生動物としてイヌワシ*1のモニタリング調査を続けてきました。今回、これまでの調査結果をもとに、人工林165haを対象として、イヌワシが狩りをする環境を創出するとともに、この地域本来の自然の森に復元する試験を開始します。まず、スギ人工林2haを皆伐*2する第1次試験地を設定し、今年9月から伐採1年前のモニタリング調査を開始します。その後も調査結果を踏まえて3~5年毎に順次試験地を設定していきます。試験で得られた成果を発信し、絶滅の危機にある全国のイヌワシの生息環境の向上に役立てることを目指しています。
*1:第4次レッドリスト絶滅危惧ⅠB類、種の保存法に基づく国内希少野生動植物種、文化財保護法に基づく天然記念物等に指定。
*2:「皆伐」は林地内の全ての樹木を伐採する方法で、「間伐」は林地内の樹木の3割程度を伐採する方法。
特徴
1.20年間の観察データに基づく試験地の設定
対象のイヌワシペア(つがい)の行動を20年間観察したデータ(過去に狩りに使われていた場所や、主要な飛行ルート、止まり場所等)から、潜在的に狩りに利用できる場所を抽出しました。その中から、特に多くの餌動物が必要な子育ての期間(抱卵育雛期)に利用することが期待できる人工林165haを対象として試験地を設定していきます。このような科学的根拠に基づく試験地の設定は前例がありません。
2.人工林の“皆伐”によって狩りができる環境を創出し、自然の森を復元
イヌワシは草原のような開けた環境で狩りを行い、ノウサギなどを主な獲物としています。そのため、狩りをする環境を創出する場合は、間伐(*2)よりも皆伐が望ましいと考えられてきました。イヌワシが狩りをする環境を3~5年毎に皆伐によって創出するとともに、この地域本来の自然の森を復元する計画は日本初のものです。
3.多様な主体によりモニタリングを実施し、成果を全国に発信
この試験の実施過程と成果を、絶滅の危機にある全国のイヌワシの生息環境の向上に役立てるために、多様な主体(専門家、自然保護団体、行政機関、地域住民、ボランティア、民間企業等)の連携によりモニタリングを実施するとともに、その成果を発信していきます。
補足資料
日本におけるイヌワシの現状
イヌワシは北半球の高緯度地域に広く分布する大型猛禽類で、6亜種が認められています。日本に生息するのはその中で最も小型のニホンイヌワシ(Aquila chrysaetos japonica)です。この50年程度の日本の山地帯における森林環境の劇的な変化により絶滅の危機に瀕しています。
日本におけるイヌワシのつがい数は221つがい前後、個体数はおおよそ500羽程度であり、1981年から2010年までに83ヶ所の生息地が消滅した(日本イヌワシ研究会2014)と報告されています。また、繁殖成功率(少なくとも1羽の雛が巣立ったペア数/繁殖成否が明らかになったペア数)は近年著しく低下し、平均巣立ち雛数も、他国と比較して少ない状況にあります。
このような状況に陥った要因の1つは、1950年代からの拡大造林政策によって、イヌワシが狩りをする場所として利用していた成熟した落葉広葉樹林や草地などが、スギやヒノキなどに植え替えられ、さらに、市場価値の低下によりスギやヒノキなどが伐採されないために、イヌワシが狩りに使えない環境が続いていることがあげられます。
ご寄付のお願い
モニタリングの精度と質を高めるためのビデオによるモニタリングシステムを導入し、(株)ニコン様には観察機材のご提供を頂きました。(参照:「絶滅危惧種「イヌワシ」の行動調査を支援」 ←(株)ニコンのプレスリリースページに飛びます)
その他、長年継続して頂いている(株)資生堂花椿基金 様、(株)千趣会 様、よしだコマース(株)様からのご支援も活用させて頂いております。有難うございました。