「国土強靱化基本計画(素案)」及び 「国土強靱化アクションプラン(素案)」に関する意見を出しました。
国土強靱化基本計画(素案)」及び
「国土強靱化アクションプラン(素案)」に関するパブリックコメント
2014年5月20日
公益財団法人 日本自然保護協会
今回公表された「国土強靭化基本計画」及び「国土強靭化アクションプラン」は、我が国のグランドデザインにあたるものであり、我が国の方向性に影響する重要な基本計画及びアクションプランです。公益財団法人日本自然保護協会(東京、会員2万7千人)は、60余年にわたり日本の生物多様性保全を守るための活動をしており、この観点から意見を述べます。
意見1 (基本計画 P.2「1. 国土強靱化の理念」)
国土強靱化の理念に、「国土の地理的・地形的・希少的な特性故に」とありますが、日本の国土の特性は「大きく動く」であることを具体的に明記し、そのうえで、その特性が生物多様性を豊かにする要因でもあり、恩恵ももたらしていることを明記すべきです。
(理由)
我が国は複数のプレートの境界に位置し、海溝型地震が頻繁に発生するだけでなく、内陸型地震も多くあります。多くの国民が居住する沖積平野は第四紀に氷期と間氷期の気候変動を経て形成された扇状地であり軟弱地盤です。多くの火山を有し、台風やそれによる洪水・地すべりを頻発するモンスーン気候帯に位置するため、100~1000年スケールで大規模な自然災害をこうむる性質を持っています。
しかしこのような気候や地質・大規模な動きは、豊かな自然資源を育む基盤環境も形成してきました。災害の原因面だけを取り上げたのでは、強靭化及び付随するその他の事業によって自然資源を損なう恐れがあります。基本計画で、日本の自然特性を正しく伝えることが重要です。
意見2 (基本計画 P6「4.特に配慮すべき事項」)
4.特に配慮すべき事項に、「生態系の一次生産力・生態系サービス(特に防災サービス)・レジリエンス(災害や気候変動への対応力)を維持・積極的に再生する」を含めるべきです。
(理由)
生態系のこれらの機能は常時の国家の生産力や災害時の国家の対応力に大きく影響します。そのため、積極的に保全・再生を図る必要があります。強靭化のための事業によってこれらが損なわれないよう担保措置を講じることも極めて重要です。
その手立てとして、国土強靱化に関する事業は環境影響評価手続きの対象とすべきです。
東日本大震災を受けた復興事業では、地域への十分の説明などがないまま巨大防潮堤の計画が進行しています。自然災害に対応できる自助・共助を進め、本当の意味での地域の減災、防災対策とするためには、合意形成の手続きでもある環境アセスメントは重要ですが、現在は対象外のままです、防潮堤の根拠である海岸法も対象事業とすべきです。
意見3 (基本計画P11「第2章 脆弱性評価」)(アクションプランP58「環境」)
起きてはならない最悪の事態に、「生態系の防災機能・浄化機能等が失われていることによる大災害の被害の深刻化」を含めるべきです。
事前に備えるべき目標には「大規模自然災害の被害が極大化しないよう生態系の防災機能や生産力を保全し劣化を防ぐ」を明記すべきです。
(理由)
基本計画P3「国土強靱化の取組姿勢」で、「①我が国の強靱性を損なう本質的原因として何が存在しているのかをあらゆる側面から吟味しつつ、取組にあたること」とありますが、脆弱性の評価で、我が国の生態系の防災機能・浄化機能が失われていることが検討されていません。
3.11の東日本大震災で多くの貴重な人命を失われましたが、これは、自然現象を人の力で抑え込むことが可能であると考え、人の力で抑え込むことで生じた安全神話に、それによって生態系の防災機能・浄化機能を低減させたことが重なり被害を拡大したことが考えられます。
アクションプラン(P58 環境)で、「自然生態系が有する防災・減災機能を定量評価し、自然環境を保全・再生することにより、効果的・効率的な災害規模低減を図る。」とありますが、重要業績指標には記載がなく、具体性がありません。生態系による防災機能を損なっている現状把握は急務であり、計画的に広範囲に行うことが必要です。
意見4 (基本計画 P4「ⅱ」適切な施策の組み合わせ)、P11「第2章 脆弱性評価」)
脆弱性の評価は、ハードだけでなくソフトに対しても行うべきです。
災害に対するハザードマップを元に、土地利用の見直しを行うべきです。
(理由)
ハード対策とソフト対策を適切に組み合わせで効果的に施策を推進する(基本計画 P4)とありますが、脆弱性の評価で記述されているものはハードに関するものがほとんどです。
我が国は、これまで有史以来数多くの自然災害がありましたが、日本の自然環境の特性を的確に理解し、大規模な自然現象を賢明に「受け流す」しなやかな国土形成のための伝統的な技術・知識を多く持っています(たとえば津波てんでんこや、河川災害常習地などの輪中)。また、各地で開催されている自然観察会は、単に鳥や花を見て楽しむだけのものではなく、地域の自然の特性や恩恵を知り、自然災害のリスクを考える機会にもなっています。
目標として優先されるべきはこうしたソフト面の施策の充実であり、人工構造物で抑え込む対応ではないと考えます。基本計画・アクションプランの各所に、ハザードマップの作成が記載されていますが、これを活用して地域の自然災害のリスクを知ることに加え、リスクの高い土地については利用を見直していくことが、被害を根本的に減少させるためには必要です。
東日本大震災の経験も踏まえて、ソフト面の脆弱性を明らかにし、施策を検討するべきです。
意見5 (基本計画P11「第2章 脆弱性評価」)
既存のインフラに関しては、最新の知見に基づいて見直すべきです。
(理由)
今後予測されている東海・東南海・南海地震の想定震源域は、東北地方太平洋沖が震源地であった東日本大震災よりもはるかに国土に近く、東日本大震災と同規模の巨大地震が発生した場合、人工構造物への被害はより大きくなることが予測されます。また、我が国の地震の発生確率が上昇していることが最新の知見で指摘されています。活断層の活動性を新たな知見から再評価し、今後の安全度の見直しを早急にするべきです。
基本方針P23(個別施策分野の推進方針/交通・物流)に、大規模自然災害時の東西大動脈の代替輸送ルートとして“国家的見地に立ったプロジェクトである「リニア中央新幹線」”が記載されていますが、現在手続き中の環境アセスメント準備書を日本自然保護協会が精査したところ、大深度を通過するリニア中央新幹線の脆弱性は、最新の知見で評価されていないことが、危惧されています。
既知の活断層を横切る鉄道や道路については、代替輸送ルートとして新規に計画されている事業は一旦凍結し、既存のインフラについては、老朽化したインフラのみならず、すべての脆弱性を再評価すべきです。
意見6 (基本計画P11「第2章 脆弱性評価」)(基本計画P26「11環境」)(アクションプランP58)
災害発生時における有害物質の排出に、現存する原子力発電所のリスクを評価し、対策を講ずるべきです。
(理由)
アクションプランには、災害廃棄物を円滑に処理するための施策が挙げられていますが、東日本大震災において、原子力発電所の被災による放射性物質を含んだ膨大な災害廃棄物の処理は困難を極めている上に、野生動植物を含む自然環境への影響など解明されないことも多く、現在もなお復興への大きな負担となっています。
我が国が保有している原子力発電所については、今後の大規模自然災害の際に新たなリスクになることが考えられますが、基本計画・アクションプランには記載がありません。リスクを真摯に評価し、全基廃炉に向けた長期対策を講じることが必要です。
パブリックコメントについて
本基本計画とアクションプランについて、パブリックコメントで国民の意見を求めたことは重要なことですが、発表から〆切までの期間がたいへん短く、素案を見ることが可能であった人、意見を述べることができた人は、非常に限定されたと思われます。今回の素案が十分周知することができたかについて評価を行い、今後の改善をすべきです。
以上
【参考】
・内閣官房「国土強靱化」のページ
・国土強靱化の推進に関する関係府省庁連絡会議