シンポジウム「 震災復興と市民参加―防潮堤問題から考える海との暮らし」を聞いてきました。
保護・研究部の安部です。
3月1日に早稲田大学で開かれたシンポジウム「 震災復興と市民参加―防潮堤問題から考える海との暮らし」を聞いてきました。
廣重剛史氏(WAVOCコーディネーター)の司会でシンポが始まり、「海の照葉樹林とコミュニティづくり支援プログラム」を通じた教育・環境・福祉・防災の一体的な取り組みの報告がありました。
畠山幸治氏(前浜建設委員会委員長)、及川一郎氏(気仙沼市議会議員)により「復興への取組と今後の課題」についてお話しがありました。お二人は前浜でコミュニティセンターを中心にした取り組みを行っています。
東北の防潮堤の多くは復旧事業、つまり元々あった防潮堤を元通りに戻すことが目的です。ところが前浜には震災前も防潮堤はなかったので、ここの工事は災害復旧事業ではなく海岸事業となります。
■畠山さんのお話し====
・面的防御と住民参加が重要なキーとなる、と畠山さんは強調します。行政側は既成の計画を持ってくる前に、計画構想段階から住民が話し合いに参加すべきである、そしてコンクリートで海と陸を遮断してしまうような線的な防御ではなく面的な防御こそが大事であるということ。
・ローテク(例えば木材やカキ殻の利用)の面的防御だからこそ、住民の伝統的な能力や発想をいかした多様な活動を盛り込むことができる。つまり、面的防御自体が、「海と生きる」くらしを守ることになる。
・宮城県知事は防潮堤ありき。命を守る手段は、決して防潮堤のみではないはず。
・説明会にて異議が出なかったことをとり、住民全員合意と宮城県は判断しているが、出席した住民は、専門用語も使われていた説明の内容を理解したうえで合意した訳ではない。訳がわからないうちに説明会が終わってしまっただけであり、真の住民合意ではない。
・また、前浜にはすでに道路がある。道路が防潮堤の役割を果たすことが出来るのではないか。
■清野先生のお話===「自然公物のかたちー海と人間の関係性の表象としての海岸」
・ 対馬暖流が日本海に入り、津軽海峡を抜けて三陸へ行く。つまり九州の海を守ることが三陸を守ることにつながる。陸だけがつながっているのではない。広いスケールで考える必要がある。
・なかなか海洋民族的な考えは理解されないが、魚とともに暮らす人達が、どのようなスケールで自分たちを位置づけるのかが重要である。
・日本の制度の中に水産や海は入り損ねてしまっている。海岸法の制定が大きな一歩ではあったが、そこに書かれている「環境の整備」とは人間がハイヒールでビーチに行けるというような人間にとっての簡便さのみが重視されている。
・ 国土交通省が作った「いのちを守る津波被災地」のポンチ絵には、当初は砂浜などは入っていなかった。少し改善し、砂浜は入ったものの、相変わらず川は含まれていないし、地下水という認識はない。
・なぜ直線(線的)となるのかというと、直線にしておくことで責任を回避できる、という行政的な考えがある。行政の縦割り問題。また、磯と砂浜が混在するような地形が、(特に行政には)理解ができないということもある。砂浜のように動くものも理解されていない。数えられない、不定形、幾何学的でないものの重要さが理解されていない。
・ 海や空や生物の状態によって刻々と変わる景観。自然と共生する地域とはどういうことか、考える必要がある。
そして、千葉先生のスライドを見ながら、パネルディスカッションが行われました。「自然素材の防潮堤ならば自然とのコミュニケーションが取れるが、人工の構造物だとそのコミュニケーションが取れなくなること」など、多岐にわたる話題が議論されました。
最後には、畠山さん、及川さん、千葉先生がフロアを巻き込むようにして「潮垢離」(しおこり)を披露してくださいました。フロアは総立ちで手拍子を打ちました。