【配布資料】今日からはじめる自然観察「ルーペでコケを見てみよう」
<会報『自然保護』No.538(2014年3・4月号)より転載>
このページは、筆者に、教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可)。ダウンロードして、自然観察会などでご活用ください。
今回は足元の小さな小さな植物、コケを紹介します。早春は、多くのコケ植物にとって、胞子を散布する季節です。
ぜひ、ルーペ(10~20倍がおすすめ)でコケ植物の世界を覗いてみてください。
古木達郎 (千葉県立中央博物館 研究員)
戦わずして勝つ。隙間を探す名人
多くの人が、「コケ」と聞いて思い浮かべるものには、小さな種子植物やシダ植物、蘚苔類という植物、菌類と藻類が共生した地衣類、藻類などさまざまな仲間の生物がいます。狭い意味のコケは、蘚苔類(以下、コケ植物)だけを指し、ここでは、このコケ植物をご紹介します。
早春、平地では多くのコケ植物が、胞子を散布します。胞子は風に乗って運ばれ、どこかに着地し発芽して、環境が適していれば群落をつくります。群落をつくるためには、種子植物やシダ植物との生存競争に勝たなくてはなりません。体が小さいコケ植物は、大きい相手との競争を避けるかのように、生育環境の隙間を埋めるように暮らしています。
散歩道や通勤・通学路など身近な場所でコケ植物を探してみましょう。きっと真っ先に思いつくのが人家の北側の暗くて湿った地面でしょう。このような場所や大きな木の下などは暗すぎるために、種子植物やシダ植物には適さないので、コケ植物にとってはありがたい場所です。
無性芽(むせいが)でどんどん殖える
でも、暗く湿ったところばかりに暮らしているわけではありません。日向を好んだり、乾燥に強い種もあります。よく草刈りされた芝生や花壇でも見つけることができるでしょう。わずかな裸地を利用して草本に覆われる前に群落をつくっています。道路脇のアスファルトの上やコンクリートの上、塀の根もと、ブロック塀の上、歩道の石畳の間、ガードレールの根もとなどにも小さな群落があります。
これらの群落は手で採ると簡単にはがれてきます。きっと根はどうしたのかと思うことでしょう。コケ植物には根はなく、仮根があります。仮根は水分を吸い上げるよりも、主に物にくっつく働きをしています。水分は体の表面から吸収し、体の表面から蒸散します。体の水分含量が大きく変動しても耐えられます。
これこそが、いろいろな場所に生育するコケ植物の極意なのです。この特徴によって、乾燥にも耐え、わずかな水分を利用し、社寺の境内などに置かれた岩の上や街路樹の幹でも生育することができます。
コケの湿った姿と乾燥した姿
クイズの答え:オオカサゴケ(蘚苔類)、モウセンゴケ(種子植物)、イシクラゲ(藍藻類)、タチクラマゴケ(シダ植物)、ウメノキゴケ(地衣類)
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