有明海再生のために諫早湾干拓・潮受け堤防水門の常時開門を求める共同声明を発表しました。
2013年11月13日
有明海再生のために
諫早湾干拓・潮受け堤防水門の常時開門を求める共同声明
NPO法人ラムサール・ネットワーク日本
(公財)WWFジャパン
(公財)日本野鳥の会
(公財)日本自然保護協会
私たちは、有明海の自然環境の再生および漁業資源の回復のため、内閣総理大臣と農水大臣に対し、福岡高裁の確定判決に従い、12月20日までに諫早湾干拓・潮受け堤防水門を開放し、その後も常時開門を継続すること、また、開門に向けて、漁業者、農業者、市民、長崎県と有明海沿岸自治体および国の関係者が協議する場を設定することを強く要請します。
諫早湾には、かつて日本最大の干潟があり、シギ・チドリ類をはじめとする多数の渡り鳥や莫大な量の底生生物の生息地、ムツゴロウやカキなどの魚介類の一大生産地となっていました。しかし、1989年に着工された国営諫早湾干拓事業により、1997年に3,550ヘクタールの干潟と浅海域が 7,050メートルの潮受け堤防で閉め切られ、その後、672ヘクタールの干拓農地が造成されたことにより、干潟と浅海域は消滅し野生生物は姿を消し、干潟の漁業も不可能になりました。
一方、干拓工事が進むに従い、有明海全体の漁業生産は急激に減少し、魚類、貝類、エビ類などの漁獲量の低迷に続いて、2000年にはノリの大凶作となり「有明海異変」とまで呼ばれました。現在も、漁船および潜水器漁業の不振は続き、ノリ養殖は品質や収量が不安定な状況です。
潮受け堤防による諫早湾奥部の閉め切りの結果、有明海全体の潮流・潮汐が減少し、海水の撹拌が弱まって赤潮と貧酸素水の発生頻度が高まり、魚介類の生育に悪影響をおよぼしていることが、専門家の研究によって明らかにされています。これらの研究結果をもとに、佐賀地裁、福岡高裁が諫早湾干拓事業と漁業被害の因果関係を認め、3年間の準備期間の後に5年間の排水門の常時開門を命じる判決が確定したのです。
干拓事業は2007年に完了しましたが、現在でも、調整池の水は本明川河口部以外では塩分濃度が高く、CODやT-N(全窒素濃度)なども基準から外れているため、農業用水には使えない状態です。さらに、調整池では富栄養化が進み、夏から秋の高温期には猛毒のアオコが広範囲に発生しています。調整池には、本明川や有明川が流入し、周辺干拓地の水路からも排水が流れ込むため、毎日水量が増加します。そのため、1997年の潮受け堤防閉め切り直後から、調整池の水位をマイナス1メートルに保つために干潮時に水門を開放し、数十万立方メートルから数百立方メートルにおよぶ富栄養化した水を諫早湾・有明海に排出しています。言わば、調整池に膨大な量の水を滞留させて富栄養化を促進し、その有機物汚染水を諫早湾・有明海に大量に排出し続けているわけです。これが有明海の水質と環境を悪化させ、漁業被害を引き起こす原因のひとつです。
確定判決に従い水門を開放することが、諫早湾・有明海の水質改善、干潟・浅海域の再生、漁業資源の復活にとって重要な鍵になります。開門して調整池に海水を導入すれば、富栄養化は緩和されます。開門による潮通しにより、潮流・潮汐が改善され海況がよくなることは、2002年の短期開門調査後の漁民の証言や研究者の調査によって確かめられています。潮汐の回復は、調整池のアシ原を後退させ干潟の再生にも役立ちます。水質の改善、潮流・潮汐、自然環境の再生が進めば、漁業資源が回復し漁獲量が上がることが期待できます。
これまで、農業用水と洪水防止の面から長崎県は開門に反対し、それを理由に農水省は開門準備を進めて来ませんでした。しかし、農業用水については、現在でも調整池の水は使用できないため、溜め池の設置や高度下水処理水の農業用水利用など代替水源によって解決することが必要です。また、調整池内の既存堤防の修理、排水樋門の整備、台風や高潮時の水門操作によって調整池の防災対策は可能です。一方、海面より低い位置にある干拓農地では、潮受け堤防閉め切り後も豪雨による湛水被害が発生しています。このような湛水被害は、低平地における排水ポンプの設置と排水路の整備をきちんと行わなければ、防止することはできません。
水門の常時開門による自然再生および漁場回復と干拓地農業および防災は、決して対立するものではなく、共存が可能なものです。「農林水産省生物多様性戦略」においても、農業・漁業が営まれる地域の生物多様性の相互関連性や干潟・藻場の保全・再生を重要課題の一つにあげています。
以上のことから、私たちは、諫早湾・有明海の自然環境の再生と漁業資源の回復を実現するために、内閣総理大臣と農水大臣が、
1. 法治国家の根幹を違えず確定判決を確実に履行すること
2. 当面は、潮受け堤防の水門を海況に応じて順応的に開放し、その後は、防災上やむを得ない場合を除き、小規模な制限開門ではなく全面的な常時開門を継続すること
3. 自然環境・漁業資源の再生・回復状況を詳細にモニタリングすること
4. 5年後以降も常時開門を継続し、必要に応じて水門の拡張、新設を検討すること
5. 地域住民、利害関係者、専門家、行政機関などによる協議の場を設けること
を強く要請します。