モニ1000里地 全国サイト間交流会@大阪を開催してきました!(前編)
こんばんは、保護・研究部の後藤ななです。
日本の里地里山の自然環境変化をとらえるために、全国約200ヵ所の調査サイトで1300名以上の市民調査員の皆さんとともに実施しているモニタリングサイト1000里地調査では、年に1度、全国の調査サイトの皆さんの情報交換や交流の場として「全国サイト間交流会」を開催しています。
今年は、関西地方ではじめてとなる大阪で交流会を実施しました。
そして、今回は2日間にわたり、研修会やミニシンポジウムなど盛りだくさんの内容となりました。当日の様子を前編・中編・後編に分けてご紹介します。
▲調査技術講習会の様子
◆1日目:調査技術向上研修会
まず1日目となる11月9日(土)には、大阪市立自然史博物館(以下、大阪自然史博)の会場をお借りして、調査技術向上研修会を開催しました。
調査を開始して、また数年にわたり調査を継続するなかで、大きな課題の一つとなるのが調査に必要な「同定能力」です。今回は、とくに種数も多く難易度の高い「植物」の同定能力に着目してこの研修会を実施しました。
まずはじめには、NACS-Jスタッフの高川より今回の趣旨説明を行いました。
実は、今回のイベントは「研修会」という名前ではありますが、この回に参加したら植物の同定能力がメキメキ上がる!というものではありません。というのも、今回のイベントの大きな目標には、それぞれの植物種の同定ポイントの解説・講義だけではなく、いまや世界規模のモニタリング調査でも大切な担い手となっている“市民”にとって、地域の自然を自ら評価できるようなスキルを培ってもらうための大きな枠組みとして、地域の博物館との連携や、さらに次の世代への同定能力レクチャーも含めて話し合えるような場にしました。
続いて、早速、今回の本題でもある地域の博物館の果たす役割についての発表や、植物の種同定のスキルアップのための実習、そしてパラタクソノミスト養成講座(以下、パラタク講座)の紹介などが行われました。
はじめに、大阪自然史博の佐久間大輔氏からは、大阪自然史博の取り組みを踏まえて、地域の自然の情報拠点としての自然史博の役割や標本の重要性、博物館との関係性の作り方(利用の仕方)などについて発表いただきました。
続いて、植物の同定能力のための研修会として、帯広百年記念館の持田誠氏に講師をしていただきました。これは、北海道を中心に展開している「パラタク講座」の植物についての内容を凝縮したものを盛り込んで実施いただきました。
長期的な調査を実施するなかで、同定能力は重要となりますが、例えば種を細かく分けすぎて毎年記録する種名が異なっていくようではデータ集計の上ではむしろ使いづらいデータとなってしまうかもしれません。こうした細かな種の分類について正しく理解するためには、分類学的な整理の仕方を身に付けることが重要となります。一方で、同定するということは“このとき、この場所に生育していた種はこれである”と決める責任の伴う行為でもあります。そのために、植物図鑑の検索表を用いて体系的に植物種を検索し同定する実習を行いました。
実際に検索表を用いた実習は、実体顕微鏡やピンセット、ルーペを用いて細かくこまかく植物の観察をもくもくと行います。会場からは「ひや~」「大変!」という声もたくさん上がりました。日頃から毎回の調査で、こうした作業を実施するのは大変かと思いますが、例えば年に一度“しっかり植物を見極める日”を作って、調査に参加する多くの人で検索表の使い方を学んでみる会を設けてみるのも良いのかもしれません。
▲大変な同定作業!
▲けれど、顕微鏡で覗くと、こんな綺麗な花の細部も見られます。
体系的な実習のあとには、講師と参加者の皆さんで「博物館などの専門機関との協力関係の作り方」などについて議論をしました。
会場からは、「博物館というと敷居が高いイメージがある」「近くに博物館がなく地域の自然について誰を頼りに聞けばいいのかわからない」といったコメントが寄せられました。それに対して、博物館より市民に身近である図書館と連携した取り組み(秋田)や、学芸員のデータベースの活用などの事例が紹介されましたが、何よりも頼りになる一人の学芸員がいることで、そこから他地域から自分の地域でのキーパーソンを紹介してもらうなど、信頼のある人脈を利用することが最も有力ではないか、というアドバイスが挙げられました。
そして、この日の最後には、「パラタクソノミスト養成講座」を展開している北海道大学総合博物館の大原昌宏氏から、パラタク講座についての発表をいただきました。発表のなかに「地域の自然の“貴重さ”を理解するためには、その“貴重さ”がわかる人を養成しなければならない」という言葉がありました。まさにそのためにも、地域の博物館のような専門機関と市民がより一層つながっていくことが鍵となっていきそうです。
短い時間のなかに、とても濃密な内容のつまった一日となりました。
これを機に、市民調査と博物館の連携を強められるような取組みを進めていきたいと思います!
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