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那覇空港滑走路増設事業に係る環境影響評価書(補正後)に関して意見を出しました。

2013.10.08
要望・声明

「那覇空港滑走路増設事業に係る環境影響評価書(補正後)」への意見書(PDF/307KB)


2013年10月8日

国土交通大臣
太田昭宏 殿
内閣府 沖縄総合事務局長
河合 正保 殿

公益財団法人日本自然保護協会
理事長亀山章

「那覇空港滑走路増設事業に係る環境影響評価書(補正後)」への意見書

2013年9月20日に那覇空港滑走路増設事業に係る環境影響評価(補正後)(以下、「補正書」とする)の公告・縦覧が開始され、また同時に公有水面埋立承認願書が提出された。

同事業が予定されている海域は那覇市に残された最後の自然海岸であり、ボウバアマモやリュウキュウアマモ、リュウキュウスガモなどで構成される海草藻場や、絶滅危惧Ⅰ類で沖縄島のみでしか確認されていない一属一種のクビレミドロ、準絶滅危惧種のカサノリ、絶滅危惧Ⅰ類のホソエガサやウミボッスなどの分布が確認されている。トカゲハゼやカンムリブダイなどの魚類や、ハートガイやシイノミミミガイなどの希少な貝類も生息している。礁斜面には造礁サンゴが分布しており、過去には被度50%を超える分布の記録もあり、また現在の沖縄島周辺のサンゴ類の健全度を鑑みると(沖縄県自然保護課2011)、数少ない良好なサンゴ礁生態系である。

この海岸付近にはメヒルギやヤエヤマヒルギなどのマングローブ林も発達し、希少なコアジサシやクロツラヘラサギなどの渡り鳥が訪れることが知られている。

日本自然保護協会は、沖縄のサンゴ礁域の生物多様性の保全を訴えてきた立場から、この貴重な海域において事業を実施するにあたり、特に留意すべき点として以下を強調する。

1.潮流の変化の予測について

海域の保全にあたっては、海域に大きな構造物を作ることによる潮流の変化の予測が鍵を握る重要な要因の一つとなる。補正書では潮流の再現性の部分で「計算値は観測値の潮流楕円と同様の傾向を示している」と述べている。しかし、現況再現結果の潮流楕円の計算値と観測値の比較図を見ると、長軸の長さと方向が合っていないものが多い。ゆえに、計算値は観測値を再現しているとの記述を認めることは困難である。

また環境影響評価が行われた平成23年度には沖縄島には台風は上陸しておらず、沖縄の自然環境を大きく左右する現象の1つである台風時のデータが得られていない。工事期間中に汚濁防止膜が設置されているときの潮流の変化についても予測されていない。これらの事項をとっても潮流の変化が正しく予測されているとは言い難い。

また、一般的にシミュレーションモデルは、不確実性を伴っているが、補正書には不確実性が記されていない。計算結果の不確実性の程度を明らかにすべきである。

潮流、恒流、波浪さらに水温、塩分についても、事業継続中および事業終了して供用中の状態が、事業前の状態と比較されている。そこではいずれの項目においても、変化は施設周辺に限られ、その変化は小さいので影響は小さいと結論付けている。しかしそれらの絶対値のみの比較であって、変化率は示されていない。変化率で示すとその値が示す意味の大きさ、環境に与える影響の大きさが見えるようになる。一方、自然界では近接する場所でもわずかな環境の相違によって生物・生態系が著しく異なることは多くの事例が示すところである。したがって物理環境の相違が小さいからといって、影響は小さいと結論することは誤りを導くことになる。このことを考えて事業による変化の程度は絶対値の相違だけではなく、もとの値に対する変化率で示すことが必要である。

沖縄県の平成24年度沖縄県PDCA実施報告書において「サンゴ礁地域に適した潮流シミュレーションモデル・これまでの環境保全措置には不確実性が伴っていたため、最新の科学的知見を踏まえたより適切な環境保全措置を実施するための調査研究が求められている」との見解を沖縄県が持っていることが公表された。この記述も示している通り、潮流の変化、海草藻場やサンゴ類、底質、堆積物への影響を予測するにあたり、潮流の正確なシミュレーションを行うことは必須である。これらの不確実な部分について、再度実施し直すことを要望する。

2.連絡誘導路の通水路部について

連絡誘導路の通水路部については、通水路部等の断面通過流量、海水交換の程度、水質等の観点及び工期・工費の観点から検討し、埋め立て方式で10m 幅のボックスカルバートを設置する案が採用されている。しかしながら、当該案は、他の通水路案と比較して通過流量が少なく、海水交換の速度が遅い案であるとともに事業実施区域周辺の海域生物の移動といった海域生物への影響が比較検討されていないなど、その選定理由について環境保全の観点からの説明が十分でないと環境大臣意見でも指摘されている。こうした指摘を受けての補正評価書であるが、十分な検討が行われたとは言い難い。

評価書での事業者自身の検討結果から、断面通過流量は、通水路部の幅の大きさに比例した効果が認められないものの、橋梁構造の方が通過流量が多く優位である。海水交換についても、埋め立て方式が5日かかるのに対して、橋梁構造の方が3日程度で交換でき優位である。水質変化については、夏季の差異はないものの、冬季については変化範囲が小さくなるため優位である。水温変化についても橋梁構造の方が変化域が小さく収まり優位である。海域生物への影響については、影響範囲が両構造案で差異がないものの、消失面積は橋梁構造の方が明らかに小さく、さらに現地盤が残るため移動には有利であるとされていることから橋梁構造の方が優位である。底質への影響は夏季に差異がないものの冬季には橋梁構造の方が緩和される範囲が広く優位である。分散回避ルートの確保についても断面通過量の多い橋梁構造の方が優位である。

以上のように、総合的に環境影響の回避措置としては橋梁構造の方が優位であるにもかかわらず、施工期間や工事費なども加味し埋め立て方式の10mボックスカルバート構造とするとの判断は、明らかに環境影響の回避措置となっておらず、評価をし直す必要がある。また、環境大臣の意見に対しても十分に答えているとはいいがたい。

3. 生き物の移植について

サンゴ類やクビレミドロなどの移動させやすい生き物のみに絞って移植することは環境保全措置として適切ではない。移動・移植を環境保全措置としている生物種や生態系については、移動・移植以外の保全措置を検討した上で、具体的に明記していただきたい。

(1)生き物の移植実験について

補正書にはカサノリとクビレミドロについて移植実験の結果が記されているが、どちらも、移植実験は期間が短すぎることが問題である。また、両種とも移植実験に成功しているとも言い難い。

カサノリの場合は対照区と試験区に移植を行い、対照区では藻体が生きているものの、試験区では生きていないという結果について、台風による攪乱が原因であるとしている。対照区の意味を考えれば移植実験に失敗したということは明らかである。一方でクビレミドロについてはタッパーに入れて底質の泥ごと移植し、移植実験に成功したとあるが、移植後4か月の生存を確認したものの期間が短すぎる。また底質の泥を入れたタッパーをいつまで海底に置くのか、回収の方法等の措置が明記されていない。タッパーを取り除き移植先の環境で複数年にわたり生息が確認されなければ、移植に成功したことにはならない。

室内実験では上手く出来ることが、フィールドでは出来ないということはこれまでの経験からよくあることであり、現段階では移植技術が確立しているとは言えないため、この実験及び中城港湾の事例をもってフィールドでの移植を行うのは早計である。

(2)サンゴ類の環境保全措置について

サンゴ類に対する環境保全措置については移植のみしか記されていない。補正書には移植するサンゴの種類や移植先が細かに記されているものの、移植先の環境への影響も併せて具体的に予測し、明記すべきである。また小型サンゴ片の移植については細かに記載されているものの、「サンゴ群集の移設」と書かれている群集については詳細が記されていない。3つの方法で移植されるサンゴを海域全体で総合的に見た場合どうなるか、予測がなされていない。移植の詳細な方法や事後調査等のモニタリング調査の頻度や方法などの情報は、本来は準備書の環境保全措置の部分に記し市民や外部の専門家に公開し、意見を集め反映させるべきである。

日本サンゴ礁学会サンゴ礁保全委員会(2008)でも「サンゴ礁保全・再生に移植がどの程度寄与するのか、またどのようにすれば寄与できるのか、十分に検討されているわけでない」と見解が示されているように、サンゴの移植は確立した技術ではなく、不確実性が伴うため移植のみを環境保全措置にすることは十分ではない。

そのうえで、移動・移植のみを環境保全措置としている生物種や生態系については、移動・移植先の環境への影響も併せて具体的に明記していただきたい。

(3)移動・移植先の環境に与える影響について

沖縄の島々の海岸の断面を見るとすべてサンゴやサンゴ礁にすむ生物の遺骸が積み重なったものからできている。その表面の部分に砂礫地や岩礁地、泥場など多様な環境が展開し、サンゴや海草など生物が作る基盤が展開する場所も生じる。サンゴ礁生態系はサンゴ群集、海草藻場、マングローブ、干潟、泥地、砂地が同時に存在し、微妙なバランスを取りつつ現在の状態を保つことにより成立している貴重で脆弱な自然環境である。

従って、上述のサンゴ類のみならず多くの種は現在、各種の生息可能な場所に、今の密度で生息していることに理由があり、新たな環境において多数の個体が生存できるかは、疑問が残るところである。類似環境への移動・移植であることから影響はないとしているが、移動・移植先における個体密度の変化、餌量等すら検討されていない。つまり、現実的には、移植は改変域の代償行為とはならない。

移植を検討する際には移植先の環境に与える影響をあらかじめ予測すべきである。

4.実効性の伴う環境保全措置の導入が必要である

冒頭で述べた通り、本海域には豊かな自然環境が残っている場所で事業を行うのに際し、記されている環境保全措置がいずれも不確実なものが多い。

例えば海草藻場やカサノリ類については、「直接的影響はあるものの、生育環境の向上が期待されることが予測されている」とあり、「このため、環境保全措置は行わず~(略)~実行可能な順応的管理のもと環境監視調査結果を踏まえて環境の保全・維持管理を行う」と記されており、実際には何の環境保全措置も取られない。上記のように潮流のシミュレーションの正確性に問題があるため、それに基づいて出された予測の正確性に問題があると言わざるを得ない。

また埋め立て工事を実施した結果、環境が改善された事例があるのならばそれを示すべきである。泡瀬干潟(中城港湾)などの事例では、事業実施後に環境は悪化した。そのため、事業実施後に環境が改善することを前提にし環境保全措置を取らないことには環境保全上に大きな問題がある。

さらには補正書の多くの場所に「順応的管理にて対応する」と記されているが、補正書を読むと、これは生物が大幅に減少するまで何も対策を取らず、減少したときに初めて専門家に相談をするということを意味する。この対応では間に合わないことは明らかであろう。

また、工事前の調査時に事業者の実行可能な範囲で標本を作製し、公的学術機関に寄贈することとは環境保全措置ではない。実効性のある環境保全措置を講じ、内容・過程について具体的に示すべきである。

環境影響評価法の目的は、重大な環境影響を未然に防止し、持続可能な社会を構築していくことである。補正書に記されている対応ではとても法律の目的に添えるとは考えられない。真に実効性のある環境保全措置の導入を求める。

5.直接の改変地の周辺に及ぶ影響について

一般的に埋め立てを伴う環境影響評価の予測では直接の改変地以外には埋め立ての影響は及ばないことになっているが、実際の事例より、直接の改変地のみに環境への影響がとどまったことなく、改変地の周辺に広範囲に影響が及ぶことが知られている。

日本自然保護協会は2002 年より現在まで泡瀬干潟(中城港湾)のサンゴ礁における改変工事海域をモニタリングしている(2007、2011、2012)。その結果、埋め立て地周辺に存在した砂州が消失し、生息していた海草が消失し、貝類は死滅、埋め立て地から離れた場所に存在するサンゴ群集にも影響は及んだことが判明した。また屋我地においても工事後に同様の変化が見られており、大浦湾についても同様に影響は直接の改変地の周囲に広範囲に及ぶであろうと予測している(日本自然保護協会2009)。泡瀬干潟のように広範囲に影響が及ぶ恐れがあるにも関わらず、補正書においても、その予測評価がきちんとなされていない。

6.住民参加について

今回は公有水面埋立承認願書と補正書の公告縦覧が同時に行われた。補正書に対して住民の意見を聞くことは制度上にはないとはいえ、住民が補正書に目を通す時間も与えず次のステップに進むことは、住民参加という環境影響評価法の精神に反していると考える。

報道によると(琉球新報9月20日)通常以上に1日工事の時間を長くするとある。補正書には夜間や休日の工事は控えるとあるので、工事の時間を変更するのであれば、それに伴う環境への影響の予測をし直すことが必要である。

今後、設置される環境監視委員会(仮称)については、委員の氏名と専門分野を公表し、市民に公開して行い、議事録のインターネットでの公開を求める。また公有水面埋立承認願書と事後調査報告書についても電子縦覧を求める。

参考文献

沖縄県(2013)沖縄県PDCA実施報告書(対象年度:平成24年度)の(1)自然環境の保全・再生・適正利用
沖縄県環境影響評価審査会(2013)那覇空港滑走路増設事業に係る環境影響評価準備書の審査について(答申)
沖縄県自然保護課(2011).平成21年度サンゴ礁資源情報整備事業」
日本サンゴ礁学会サンゴ礁保全委員会(2008).「造礁サンゴ移植の現状と課題」.日本サンゴ礁学会会誌第10巻、73-84.
日本自然保護協会(2002)泡瀬干潟海草移植藻場調査報告書
日本自然保護協会(2007)沖縄島北部東海岸における海草藻場モニタリング調査報告書, 日本自然保護協会
日本自然保護協会(2009)『辺野古・大浦湾 アオサンゴの海生物多様性が豊かな理由(わけ)-合同調査でわかったこと-』
日本自然保護協会(2011)「泡瀬干潟・浅海域埋立て。なぜ、自然環境・生物多様性を破壊し、経済的合理性が示されない事業が止まらないのか!?」記者会見資料.

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