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海の機能に関する国際的な評価の現状は?

2013.10.07
活動報告
icon_abe.jpg 保護研究部の安部です。
 
10月1日に東京大学(小柴ホール)で開催された国際シンポ「新海洋像:海の機能に関する国際的な評価の現状」を聞いてきました。
 
古谷研氏(東京大学)の開会挨拶「外洋域の海の恵みの持続的利用に向けて」からスタートしました。
 
一般に「海の恵み」とは水産物とほぼ同義にとらえられますが、それ以上にも大気の調整作用や安らぎをもたらす景観の維持など、さまざまな恵みを享受しています。
こうした海の恵みを担保しているのは海洋生態系の生物多様性。生物多様性の保全は恵みの持続的な利用に他なりません。そのような中、東京大学などを中心とした研究チームが、5年間の予定で新学術領域研究「新海洋像:海の機能に関する国際的な評価の現状」を立ち上げました。この一環として、海洋をさまざまな手法で評価している各方面の方々をお招きし、議論を深めようと、今回のシンポが企画されました。
 
ベンジャミン・ハルバーン氏による「海洋健全度指数:全世界および地域レベルでの適用と今後の方向性」と題した講演では、注目を浴びている海の健全な回復について、どのような海が健全なのかという明確な定義がなされていない現状を打破するために開発されたオーシャン・ヘルス・インデックスという新たなツールの紹介がありました。
 
●「オーシャン・ヘルス・インデックス」については以下からご覧いただけます。
http://www.conservation.org/global/japan/news/Pages/oceanhealthindex.aspx
 
 

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▲日本の海は65点です。ハルバーン氏のご講演より
 
CBD(生物多様性条約)事務局のジュヒン・リー氏からは「海洋生物多様性の保全と持続可能な利用に関するCBDの取組:科学的評価、脅威への対応、ツールとパートナーシップの開発」と題したお話しがありました。CBDの取り組みの紹介や、海洋保護区とよく混同されてしまう「生物学的生態学的に重要な海域(EBSA)」の選定方法や進捗などについて説明がありました。話の中で、NACS-Jも加わった、2010年に名古屋で行われた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)での海の保全の取り組みが、世界全体の海の保全を進めていく上で重要なターニングポイントになったと、なつかしく振り返るお話しがありました。
 
 
 
最も印象に残ったのは、ピーター・ブリッジウォーター氏による「海の生物多様性:生態系アプローチを通じた理解、利用、管理と保全」でした。
 
======ピーター・ブリッジウォーター氏のお話=======
海の保全を進めることが議題になったものとして、1972年のストックホルムでの会議や2002年のヨハネスブルグの会議があったが、それ以降、何か進んだのだろうか?
 
海洋の生物多様性の重要性は、地球に存在する33の動物門のうち15門だけが海洋のみに存在するという事実からも明らかであるが生物多様性を真に理解するのは容易ではない。最近になり、海水中の遺伝子をトローリングした結果、真菌類のクレード(系統)が見つかった。その真菌類はカリブ海のサンゴに影響を与えている。1972年以来、あまり、特に海の生物多様性を取り巻く状況は変わっていないのではないか。
 
種のレベルでさえ知ることはこのように難しい。CBDが言うように種と種のつながり、生態系と生態系のつながりを知ることは大変なチャレンジである。また、生態系サービスという概念については20年以上にわたり研究されてきたが、「人間へのサービスの提供」という側面のみに重点がおかれ過ぎ、人間中心の考え方となっている。この見方が正当であるかどうか検討しなければいけない。
 
不思議の国にアリスがチェシャ猫に尋ねたよう「私たちはどこから来て、この道はどこに行くの?」。チェシャ猫が答えたのは「それは君が何をしたいかによる」。まさにその通りだ。
 
我々が目指すのは保護(protection)なのか保全(conservation)なのか?持続可能性ということをどのように考えるかが問題である。
 
単一種の管理や分野ごとの管理は生物多様性の損失を食い止めることはできなかったということであろう。生態系アプローチの活用案のひとつは、海洋空間管理を管理ツールとして利用することである。
これに加えて、公海域の保護地域を含む保護地域の新しい活用方法が管理ツールとして検討されている。複雑な生態系の限界と機能を尊重する方法で、人間の利用を管理する生態系アプローチは、新たなパラダイムの理想的な礎台である。
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▲ピーター・ブリッジウォーター氏
 
講演やディスカッションを通じて多くの人が口にしたのは「海という言葉の概念が人によって異なる」ということでした。
 
海と一口に言っても、広く3次元に広がる海にはいろいろあり、高度回遊魚がいるような海、サンゴ礁が広がる浅い海、表層、深海など、場所によって異なります。扱う事象によってはそこに時間軸も加わります。手始めに見える表層や沿岸から始めるという話も出ましたが、表層から始めたとしても、その下を無視することはできません。深海では非常にゆっくり物事が変化するものの、深海にも影響は及ぶのです。
 
最後にフロアからも声があがりました。「今日の議論を通じて海を把握することは、陸に比べて難しいということがわかった。だが、今やらなければいつやるのか」
 
NACS-Jも今後とも海の保全に取り組んでいきます。

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