カナダの生物多様性条約COP12の準備会合で決まったこと。
保護・研究部の道家です。
10月18日までカナダ・モントリオールで、生物多様性条約第12回締約国会議(COP12)の準備会合「SBSTTA17(日本名称:第17回科学技術助言補助機関会合 ※サブスタと呼びます)」に出席しました。
この国際会合で決議された内容についてご報告します。
●本体決議は、社会科学、データと情報、評価とアセス、計画と主流化、維持・保全・復元、経済的手法、伝統的知識、科学的技術的協力、その他の手法という項目ごとに主要な科学的技術的ニーズをまとめました。市民科学というキーワードも入っています。
これらは、今後、研究者でいえば、研究成果が条約の意思決定に反映させやすいテーマの一覧であり、NGOや政策関係者でいえばサイドイベント等で情報発信が期待されることの一覧、といえると思います。
■生物多様性事務局に対しては、
①2014年までに少なくとも各愛知目標に対して、1つ以上の指標設定を視野にIUCNをはじめ各関係機関と協力して動くこと、
②生物多様性に関する情報機関・研究機関が協同して地域レベルの能力開発を実施すること、
③第4・5次国別報告書の成果も考慮しつつ、生物多様性指標に関する専門家技術グループ会合の内容案をまとめ、COP12での決定のために提出すること、
④第4・5次国別報告書とその自己評価手法等についての分析をまとめCOP12に提出すること、
⑤今回のSBSTTAの進行方法の評価を行うこと、を要請しました(これはすぐに効力を発揮する決議です)。
また、愛知ターゲットが今国連で検討されている持続可能な開発目標に統合されうるものであること、
などを確認しました。
●付属書1(締約国によって特定された横断的課題)は、愛知ターゲットの実施に関する科学的技術的ニーズに関する「横断的課題」については、193カ国の総意ではないですが、どんな意見が挙げられたかをまとめた文章です。
政策ツールや指針、データ・モニタリング・観測システム・指標、課題、成功事例、条約の元で実施されている手法の有効性評価などの横断的なテーマについて、現状や評価が行われています。
今回何度も話題に出ていたのが「市民科学やコミュニティーの協力によるモニタリング」などのボトムアップ手法によるもので、
成功事例のところでは、このようなボトムアップ手法と政策によるトップダウン手法のコンビネーションの重要性が指摘されました。
生物多様性評価に欠かせない環境変数(Essential Biodiversity Variables)がGEO-BONによってまとめられ、これら変数の観測が愛知ターゲットの実施状況評価に有効であることが主張されています(一番費用対効果が高そうな観測すべき情報がまとめられたということ)。
社会科学の部分のキーワードは、behavior change(人々の日々の振る舞いを変える)だと思います。
総論のところに書かれている、
「ツールやガイドラインの不足、それらツールの提供の難しさを抱える国もあるが、それによって、多くの国が戦略目標の実施に対する効果的な行動をとることを妨げてはならない」
というのは、日本政府の発言が元になった文章で、日本政府の実施に向けた海外への強い意気込みが反映されたのは喜ばしいことです。
■ネオニコチノイドについて
今回のSBSTTAでは、オタワ河川研究所が提起した、ネオニコチノイド(浸透性農薬、日本の農業で利用される農薬の主流をなしている成分といわれている)の生物多様性への影響、特に花粉媒介を行う生物(ポリネーター=ハチなど)への影響について、SBSTTAの新規の緊急課題として扱うかどうかということが焦点となりました。
結論としては、SBSTTAの新規の緊急課題に組み入れないことを提案し、むしろ、農業生物多様性のプログラムやポリネーネータの保全と持続可能な利用に関する国際イニシアティブで取り組めることを指摘することとしました。
また、ネオニコチノイドの影響に関しては、「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間の科学及び政策プラットフォーム(IPBES)」で検討中の作業計画内にある、「ポリネーターと食料生産に関するテーマ別緊急アセスメント」に深く関わるということから、この課題への注意をIPBESに促し、その後の対応をCOP12に報告するよう要請することが決まりました。
SBSTTAの新規の緊急課題の基準は、生物多様性に影響を与えているか、可能性がある課題ということなので、このネオニコチノイドの課題は、「生物多様性には全く関係ない」という言説について、生物多様性条約の科学技術助言補助機関は認めないという立場を取ったことになります。
■IPBESについて
また、IPBESでは「生物多様性と生態系サービスに関する全地球評価(グローバルアセスメント)」を2018年に発行する計画案となっており、その報告書と生物多様性条約で作ってきた「地球規模生物多様性概況」(最新版は、COP10で発行された第3版。現在、COP12での愛知ターゲット中間レビューに向けて第4版を準備中)との関係性をどう整理するかが話題になりました。
結論としては、GBO4の作業終了後、次のGBOの焦点と作成プロセスをどうするか検討し、
COP12後のSBSTTAで検証の上COP13に報告し、そこで、次のGBOの内容手続について検討する
という案をまとめました。
SBSTTAでの発言を考えてみると、愛知ターゲットの実施(達成に向けた取り組みがどのように進んでいるか)を中心にGBOをまとめ、世界レベル各国レベルでの実施がもたらした生物多様性・生態系サービスの変化をIPBESでまとめるという役割分担をするような方向性が濃厚と思います。
IUCNのにじゅうまるプロジェクトのWEBサイトで、日々のレポートをUPしています。
http://bd20.jp/category/conference/sbstta-17/