小さな島が「自然エネルギー」で埋め尽くされようとしています。
保護プロジェクト部の辻村です。
長崎県の五島列島の最北部にある、宇久島という島を皆さんご存知でしょうか?
この島は周囲が38キロしかない小さな島で、2500人(2010年国勢調査)ほどが暮らしています。畜産業が主要産業だったため、草地が広がり、青々とした海とのコントラストがとても美しい島です。
付近の海では対馬海流(暖流)が北上しているために南方系の植物の北限地にもなっていますし、かつては大陸と陸続きになったことがあるようで、モウコノウマという現存する唯一の野生馬の化石が発見されています。このように北方系や南方系の動植物種が混在するこの島では、多くの絶滅危惧種も存在しています。また、歴史的にも古くから人が存在し、東西の航路の結節点になっていたこともあり、多くの遺跡や文化財も存在しています。
この自然や文化豊な島に風力発電の計画が持ち上がったのは、2009年のことです。出力2000キロワットの風車を50基建設するという計画です(日本風力開発とグリーンパワー(株))。島の7割の方々が反対を表明している、と報道されていますが、計画は進行し2013年5月に環境影響評価手続きの方法書の縦覧まで終了しました。
この計画だけでも島の大きさを考えれば風車だらけで圧迫感のあるものですし、何よりも自然環境への影響の大きさは容易に想像できます。しかし、これだけではないことが最近明らかになりました。それは、島の面積の4割を占める(約660ヘクタール)太陽光発電施設の計画が同時に進行していたのです。
こちらは、ドイツの太陽光発電事業者Photovolt Development Partnersによる計画で、佐世保市長が議会で協力の意思表明をしています。ちなみに、太陽光発電は、環境影響評価法の対象事業ではありません。今回のように大規模でも、法的には環境への影響予測は求められないのです。
日本自然保護協会では地元の方からの情報をもとに、島のどこに風力発電施設や太陽光発電施設が造られるのかを地図上に記録してみました。
これを見れば一目瞭然で、小さな島が発電施設で埋め尽くされるのがわかります。島に暮らす人たちに必要な電力量をはるかに超えた電力が供給できるので、海底ケーブルでつながれて九州電力に売電することになります。残念ながら、自然環境や文化環境を壊して小さな島を発電島にする必要が本当にあるのかについての議論はなされていません。
▲長崎県宇久島に計画されている風力発電施設と太陽光発電施設(ふるさとの自然の会資料をもとにNACS-J作成)
これでは、これまでの原子力発電の立地の構造と全く変わりません。
自然環境に不可逆的な影響を及ぼす原子力発電はすぐにでもやめなければいけませんし、地球温暖化対策のためにも再生可能な自然エネルギーに転換していかなければならないことは確かです。しかし風力や太陽光発電が日本の生物多様性を壊してまで進められるとしたら本末転倒と言わざるを得ません。
今、必要なことは、エネルギーの供給システムと配置計画を、人口減少の将来の国土デザインと照らしあわせながら議論し国民的なコンセンサスを作っていくことではないでしょうか。