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Q.奇跡の原っぱ「そうふけっぱら」は、なぜ「奇跡」なんですか?

2013.07.12
解説

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千葉県印西市の千葉ニュータウン21住区開発用地の中には、地元で「そうふけっぱら(草深原)」と呼ばれている大草原が広がります。この草原と周辺の里やまは、全国的にも重要な自然環境だとして現在注目を浴びています。草地の生態系を専門とする多くの研究者が現地に訪れ、また3つの学会から保全の要望書が出されるなど、その価値は専門家からも高く評価されています。

全国の専門家から寄せられる評価のコメント

  • 「日本の草原特有の生物が多く生息している、極めて高い学術的価値を持つ草原」西脇 亜也(宮崎大学教授)
  • 関東平野で保全すべき草地を一か所挙げるとすれば、この地域から選ばれる」西廣 淳(東京大学助教)
  • 「関東平野一帯を見渡しても、これほど生物相の豊かな里山環境はほとんど残されていない」小柳 知代(早稲田大学助教)
  • 「今後の都市域における生物多様性保全のモデルにもなるのではないか」 井上 雅仁(島根県立三瓶自然館)

詳細はこちら(PDF/453KB)をご覧ください。


「『奇跡』の原っぱなんて大げさすぎじゃない??」と思われる方も多いでしょう。ではなぜここがそんなにも、珍しい原っぱとなっているのでしょうか?その答えは・・・

温暖湿潤な日本では、草地(草原)は人手が入らないと森林になりますが、人間が燃料や茅葺屋根の材料に草原を利用してきたことで、かつては全国どこにでも広い草原が存在しました。しかし明治時代以降徐々に草原が人に利用されなくなったことで、草原は森林や畑・住宅地に姿を変え、今では全国から急速に姿を消してしまいました。現在では阿蘇山や三瓶山など一部の場所でしか広大な草地を見ることはできなくなってしまいました。かつては普通にみられた秋の七草も、ほとんど姿を見かけることが無くなり、キキョウやフジバカマ、ナデシコ、オミナエシなどが絶滅危惧種になってしまった都道府県も多くみられます。
[日本の草原面積の変遷:小椋(2006)]
この千葉ニュータウンの開発予定地(21住区)では、約40年前にニュータウン計画ができあがったもののその後開発は中断されてきました。また、開発は中断されてきたものの、千葉県の所有地ということで草の定期的な刈り取り管理が続いてきたのです。その結果、偶然にも大規模な草地が残されてきたのです。普通に考えればこれだけの首都近郊に草原が、しかもこれだけの面積、残されるということは考えられません。皮肉にもニュータウン計画があったからこそ奇跡的に引き継がれてきた大草原なのです。

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そうふけっぱらのもう一つの特徴は、様々なタイプの草地が見られることです。草丈の高い草地や、湿った草地、夏でも草丈の低い草地などです。特に驚くのは、夏でもほとんど草が生い茂らないような草地が見られることです。
実はこの21住区の一部は、約40年前に土地の簡単な造成工事が行われています。表土をはぎ取って平らにならすという工事だったと思われます。このあたりは地質的には北総台地と呼ばれており表面を関東ローム層に覆われていますが、工事の結果ローム層がはがされ、その下の粘土の層(常総粘土層)がむき出しになっています。水はけも悪く硬い土のため、植物も育ちにくい荒れた土地に見えます。しかし、そういった特殊な場所を特に好んで生える植物たちが確認できます。これらの中には、今や関東では山岳の岩場でしか見られないような絶滅危惧植物たちも含まれており、過去の工事があったからこそ奇跡的に生み出された環境が保全上重要な場となっているのです。

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ニュータウン開発が中断されてきたことで、この場所には森林や湿地といった亀成川の源流部のかつての里やまの要素がまとまって残されています。様々な環境が入り交り、しかもある程度の大面積で残されているからこそ、830種もの動植物が認められます。

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また、まとまった生態系があることで、キツネやタカの仲間といった生態系ピラミッドの頂点に位置する生き物が普通に見られます。

キツネ(ホンドギツネ)は千葉県では戦後まもなく姿があまり見られなくなった種で、現在は千葉県の重要保護生物に指定されています。県内でこれほど頻繁にその姿や生活の痕跡を目にできる場所は他にはほとんどありません。「そうふけっぱらのきつね」という民話が今でも絵本として印西市の人々に親しまれているのは、こういった理由があるのかもしれません。

ホンドキツネとその巣穴、ふんの写真▲地元団体「亀成川を愛する会」のセンサーカメラ調査で撮影されたキツネと、キツネの巣穴やフン。そうふけっぱらではあちこちでこのような生活の痕跡が見られる。2匹そろって歩く足跡も確認されており、もしかするとこの草原で子育てをしているのかもしれない。

下の絵は有名な歌川広重の浮世絵で、「小金牧」の様子を描いたものです。小金牧は古くから続く馬の牧場で、江戸時代には幕府の軍用場の牧場となっていました。千葉県の野田市から印西市の広い範囲にわたって広がっていたとされ、かつてこのあたりは右の絵のような景観が普通に見られた場所です。残念ながら小金牧だった範囲は現在ほとんど全てが市街地になっており、野間土手などわずかな名残があちこちに残るのみです。この21住区は厳密には小金牧の東側に隣接した場所ですが、なんとこの浮世絵そのものの景色が残されています。過去の工事の影響や草刈によって成り立っている草原のあちこちには、地下から湧き水がしみ出る小さな水たまりがあちこちに見られます。かつての北総台地の典型的な景色が今でも奇跡的に残されていることは、文化的にも保全上の価値が高いことです。
それだけでなく、そうふけっぱらには無数のとんぼの舞う水辺や、オミナエシが咲き誇りマツムシやスズムシが大合唱する場所など、私たち日本人にとって懐かしいけれども今や消えつつある風景がたくさん残っています。

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しかし、すべてが工事で更地になってしまいます

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これだけの「奇跡」をそなえた大切な原っぱですが、ニュータウンの開発用地となっているため今年度中にすべてが造成され企業用地として転売されてしまう予定です。

私たちはこのまま造成を進めるよりも、全国的にも貴重な自然環境を保全し、これだけ貴重な自然環境が隣接していることをこの街の新たな魅力・価値としてまちづくりを進めていくことこそ、市民・事業者双方のメリットにつながると考えています。その為には一旦工事を中断し、改めてその価値を調査・評価し、新しい街づくりを地元市民・地元印西市と一緒になって考えてほしいと強く願っています。

現在私たちは要望書の提出や署名運動を進めています。是非皆さんも署名にご協力ください。しかし私たちからの働き掛けだけでは、十分ではありません。より多くの方々が事業者であるUR都市機構や千葉県に直接声を届けるとともに、市民の声の代弁の場となる千葉県議会でこれらの問題が取り上げられるよう働きかけを行っていただきたく思います。


本ページの写真はほぼすべて「亀成川を愛する会」からご提供いただきました。

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