岩手県で進められる「三陸北沿岸海岸保全基本計画」の見直しについて意見を提出しました。
「三陸北沿岸海岸保全基本計画」の変更に関する意見(PDF/175KB)
2013年6月17日
「三陸北沿岸海岸保全基本計画」の変更に関する意見
公益財団法人 日本自然保護協会
理事長 亀山 章
公益財団法人日本自然保護協会(NACS-J)は 東北をはじめとする日本の各地の自然保護に長く取り組んできた立場から、地域の自然環境と生物多様性の保全を十分考慮し、健全な自然生態系を残してゆけるよう、以下の意見を申し述べます。
1.海と陸との連続性を失わないようにすること
(保全基本計画に掲げられた3つの柱のうち、「環境」及び「利用」に該当する部分)海と陸の移行帯(エコトーン)である海岸は、そもそも撹乱と回復を繰り返す動的な環境です。それが生物多様性をつくりだし、その恵みである生態系サービスを受けて私達の生活は成り立っています。海と陸との連続性を失うことは、取り返しのつかない大きな禍根を将来世代に残します。堤防等が、強固で巨大なものほど、海と陸を断絶します。今回の計画(案)は、数十年から百数十年に一度程度の比較的発生頻度の高い津波への対処を目的にしていますが、その手法を規模の大きな構造物である堤防に依存しているため、エコトーンを分断することとなっています。海と陸との連続性が担保される計画にすべきです。
昨年度の調査から海岸の自然環境は物理的に消失したところもありますが、シバナ、ヒメキンポウゲ、ネムロスゲなどの絶滅危惧種を含む群落が残存している学術的に貴重な群落が見られます。また、三陸海岸は植物の南限や北限の種類が共存する地域であり、クロマツ林下や自然海岸には絶滅危惧種が生育していなくても、生物多様性の高い地域が見られます。こうした地域は学術的に貴重であるばかりでなく、三陸の復興に際して大きな役割を担う自然資源としても活用できる可能性があり、防潮堤の建設で破壊すべきではありません。
2.堤防の位置と規模の再検討をすること
(保全基本計画の3つの柱のうち「環境」「利用」を考慮した「防護」の考え方)基本計画は、地域ごとに個性ある健全な海岸生態系の保全と防災が両立できる事業を選択できるようにすべきです。本基本計画は、海岸の防護を堤防のみに依存しており、それによって引き起こされる環境破壊への認識が低すぎるといえます。
計画では堤防高の上限値が示されましたが、後背地の土地利用の再整理、堤防の大幅なセットバック、海岸道路の付け替えなどの措置を含めて、堤防の規模をできる限り小さくするべきです。
3.地域の全体計画を立てること
(保全基本計画の3つの柱を連動したものとするために必要なこと) 東日本大震災ではかつてない規模で土地の形状が改変されました。その中で行う海岸保全計画の策定としては、道路、港、保安林、居住区、農地の配置など地域全体の土地利用計画とあわせて検討し直すことが必要です。また、複数の省庁の管轄や行政区分の境目に位置する場所は、人間社会の都合で管理の手法が変わることがあります。復興のこのタイミングだからこそ、従来できなかった地域全体の自然環境を考えた海岸保全計画を打ち出すべきです。
4.地域の自然を熟知している市民の意見を取り入れること
(保全基本計画をより地域の実態に合わせるために必要なこと)上記3点の課題をより綿密に検討し、東日本大震災からの復興に資する海岸保全計画にするためには、地域の自然環境を熟知している市民、専門家らを含めた合意形成が重要です。十分な住民合意のない工事は、地域で培われた自然資源とのつながりや自然への畏敬の念など、地域社会の形成の根源をも失う恐れがあり、今後のまちづくりが難しくなる可能性も生じます。
震災からの復興において、海岸のあり方はたいへん重要なことですが、説明会などはあっても合意形成の場としては不十分であり、また、多くの復興計画が同時進行している中で、すべての地域で海岸のあり方や堤防について十分に理解され、協議ができているとは思えません。工事中や工事後のモニタリング、それらを踏まえた順応的管理のプロセスにも、市民や専門家の関与や協力が重要であると考えます。以下の資料のように日本自然保護協会では、市民参加による海岸植物群落の調査を実施しています。砂浜に関心を寄せる市民の声を聞いていただくとともに、砂浜の自然の価値を十分に配慮した事業にしてください。
(資料 東日本海岸調査報告書「震災後の海岸植物、海、そして人」(PDF/12.2MB)
一方的な説明だけでなく、住民と十分に協議して合意形成をはかり、今後の持続可能な地域づくりにつながる海岸となる基本計画を策定していただくようお願いします。
以上