絞り込み検索

nacsj

沖縄・普天間基地移設問題―防衛省「有識者研究会」の「中間的整理」への意見を発表しました。

2012.10.02
要望・声明

2012年10月2日

防衛大臣
森本 敏 様

公益財団法人 日本自然保護協会
沖縄・生物多様性市民ネットワーク
沖縄環境ネットワーク
沖縄ジュゴンアセスメント監視団
沖縄平和市民連絡会
ヘリ基地反対協議会
沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック
辺野古への基地建設を許さない実行委員会
JUCON(沖縄のための日米市民ネットワーク)

 

「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価に関する有識者研究会 中間的整理 ~評価書の補正に係る基本的方針について~」に対する要望書

「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価」(辺野古アセス)で防衛省が出した『評価書』に対し、沖縄県知事が「評価書で示された環境保全措置等では、事業実施区域周辺域の生活環境及び自然環境の保全を図ることは、不可能」との厳しい意見を出しました。これに対して、防衛省は、知事意見の内容を精査して評価書を補正するため、大臣への助言を行う「有識者研究会」を発足させました。
私たち環境NGOは、防衛省に対し、「有識者研究会」のあり方について、公開の場での開催と傍聴を認めること、完全な議事録の速やかな公開、そして現地視察の際には沖縄県環境影響評価審査会や沖縄県民の意見を聞く機会を設けることなど、「情報公開」と「市民参加」を要望してきました。
先月、9月26日に有識者研究会により、現在までの5回の会合と2回の辺野古現地視察に基づき、「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価に関する有識者研究会 中間的整理~評価書の補正に係る基本的方針について~」が公表されました。この「中間的整理」の内容はNGOとしては容認し難い部分も多々含まれておりますので、私たちの意見をまとめたものを送付いたします。
今後、有識者研究会でしっかりと議論され、議論の結果が目に見える形で公表され、評価書補正に十分に反映されることを強く要望します。

 
●送付文書 (下欄に全文掲載)
「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書に対する有識者研究会 中間的整理~評価書補正に係る基本的方針について~」に対するNGO意見(PDF/287KB)


2012年10月2日

普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価に関する有識者研究会の委員の皆さま

公益財団法人 日本自然保護協会
沖縄・生物多様性市民ネットワーク
沖縄環境ネットワーク
沖縄ジュゴンアセスメント監視団
沖縄平和市民連絡会
ヘリ基地反対協議会
沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック
辺野古への基地建設を許さない実行委員会
JUCON(沖縄のための日米市民ネットワーク)

 
「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価」(辺野古アセス)で防衛省が出した『評価書』に対し、沖縄県知事が「評価書で示された環境保全措置等では、事業実施区域周辺域の生活環境及び自然環境の保全を図ることは、不可能」との厳しい意見を出しました。これに対して、防衛省は、知事意見の内容を精査して評価書を補正するため、大臣への助言を行う「有識者研究会」を発足させました。
私たち環境NGOは、防衛省に対し、「有識者研究会」のあり方について、公開の場での開催と傍聴を認めること、完全な議事録の速やかな公開、そして現地視察の際には沖縄県環境影響評価審査会や沖縄県民の意見を聞く機会を設けることなど、「情報公開」と「市民参加」を要望してきました。
先月、9月26日に有識者研究会により、現在までの5回の会合と2回の辺野古現地視察に基づき、「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価に関する有識者研究会 中間的整理~評価書の補正に係る基本的方針について~」が公表されました。この「中間的整理」の内容はNGOとしては容認し難い部分も多々含まれておりますので、私たちの意見をまとめたものを送付いたします。
今後、有識者研究会でしっかりと議論され、議論の結果が目に見える形で公表され、評価書補正に十分に反映されることを強く要望します。

 
●送付文書 (下欄に全文掲載)
「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書に対する有識者研究会 中間的整理~評価書補正に係る基本的方針について~」に対するNGOコメント(PDF/287KB)


2012年10月2日

「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価に関する有識者研究会中間的整理 ~評価書の補正に係る基本的方針について~」に関するNGO意見

 

公益財団法人 日本自然保護協会
沖縄・生物多様性市民ネットワーク
沖縄環境ネットワーク
沖縄ジュゴンアセスメント監視団
沖縄平和市民連絡会
ヘリ基地反対協議会
沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック
辺野古への基地建設を許さない実行委員会
JUCON(沖縄のための日米市民ネットワーク)

 

有識者研究会の公開性について

 「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価に関する有識者研究会」は、環境アセスメント(環境影響評価、以下「環境アセス」と略す)の一環として出される補正評価書の補正にかかる助言を行うために設置されたにも関わらず、環境アセスにおいて重要な要素である科学性と公開性のうち、公開性はまったく不十分で、NGOや市民からの再三の要請があったにもかかわらず、改善されないままの状況下で、「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価に関する有識者研究会 中間的整理 ~評価書の補正に係る基本的方針について~」(以降は、「中間的整理」と略す)が発表された。現在までの経緯や同研究会の議論の一部は、議事要旨や資料という形で防衛省のウェブサイトに公表されているが、それらの情報では全く不十分であるので、改善するよう要望する。

評価書補正にあたる方針について

 評価書補正にあたる方針は、防衛省ウェブサイトの公表資料(平成24年5月18日 資料1)から知ることができた。同文書には「1.評価指標が明確な項目については、予測結果と評価指標の比較による当該指標の達成・整合についての評価だけでなく、影響の程度についても具体的に評価する」、「2.明確な評価指標がない場合については1) 影響の程度については、出来る限り具体的かつ詳細に示す、2) 評価指標を新たに設定する場合には、その根拠及び適用性等について具体的かつ詳細に示す、3) 評価にあたっては「影響が小さい」、「影響がほとんどない」等の抽象的な表現を出来る限り避け、その科学的根拠を付加する」とある。今回発表された中間的整理には、このような視点での検討が十分に示されていない。これらの方針を最終提言書及び補正評価書にぜひ活かしていただきたい。

有識者研究会の位置付けについて

 「調査結果の取り扱い」(p6)に記されていることは科学者のスタンスとして当然と納得できる事項である。しかし、現況調査結果を含む最新のデータを「研究会として活用する」と記してあることに懸念が生じる。研究会として活用した結果、この一連のアセス手続きのどこに反映されるのか不明である。これは研究会の位置づけや役割とも関連するので、明確に示すことを要望する。

 

 

Ⅰ「中間的整理」の全体に関すること

 評価における課題で、「評価については「影響が小さい」、「影響がほとんどない」等の抽象的な表現が多く、また、その根拠が明確になっていない部分もあるなど、見直しが必要である。」との指摘は評価書をよく検討された結果と評価している。これらの指摘を最終提言書及び補正評価書に的確に活かしていただきたい。
 「さらなる調査が必要」、「さらなる検討が必要」などの表現が記述されている。この指摘も、評価書をよく検討された結果として示された課題であると評価している。最終提言書では「調査・検討」の内容を具体的に示し、補正評価書に反映すべきである。

 「中間的整理」の全体を通じて、特に指摘しておきたい点を以下に記す。

 

(1)水環境について

 海域については、海域に大きな構造物を作ることによる潮流の変化の予測が鍵を握る重要な要因の一つである。評価書に記されている潮流のシミュレーションやシールズ数については日本自然保護協会(2012)等のNGOや市民から数値の誤りが指摘されている。海草藻場やサンゴ類、堆積物の移動等への影響を予測するにあたり、正確な潮流シミュレーションの値が必要となる。評価書に記されている数値ではなく、コンサルタントが計測した生データから計算し直していただきたい。
 水質についても根拠が不明確な措置(例えば埋め立て土砂投入に伴う外海への汚濁の防止策、飛行場施設供用後の水質の変化)について検討をしないまま生態系全体への影響を測ることは不可能である。

(2)生物等の移植、自然環境の復元や造成に関する記述について

 自然環境は人工的な造成や再生ができるものではない。生物の移植や環境の造成によって元の自然に近づける補助にはなるものの、元々の自然とは全く異なる。これは沖縄県知事や複数のNGOからも指摘してきたことである。多様な生物が生息する生態系の中で、人為的に移動させやすい生き物に限定した移動や移植を行うことは環境保全措置ではない。また移動・移植・造成などの技術が確立していないのであれば、なおさらこれらの措置の効果は不明であり、環境保全措置にならないことは言うまでもない。さらには、このような提案は、自然破壊の免罪符を与えることにつながりかねないものであることに留意すべきである。
 環境アセスの手続きとしては、有識者研究会(第1回議事要旨)においても環境への影響を定量的に示すことが重要であると指摘されているように、事業の実施により、どのような自然を失うのかそのコストをまず定量的に測り、その上で、有効な保全措置や緊急避難的な措置を検討すべきである。有識者研究会や事業者にはまずその測定方法について具体的に示していただきたい。緊急避難的な措置の導入も否定はしないが、それはあくまでも有効な環境保全措置が存在したうえで、付加的に位置づけられるべきであると考える。
 また動物の移動及び植物の移植に伴う影響については、移動・移植先における個体密度の変化や移植先を利用している生物に与える影響等、移動・移植先の環境に及ぼす影響が全く検討されていないことが問題である。
 平成24年4月27日の議事要旨には「生態系については、評価書全体として「影響が小さい」との評価になっているが、「影響が小さいからいい」だけでは通らないと思う。現在の知見でどこまで影響があるかを再度評価することは重要であるが、影響が大きいのであれば大きいと評価した上で、例えば影響を受けるものを移植するだけではなく、影響を受ける周辺の環境を含めて保全するようなことに踏み込むことも考えられるのではないか。」との意見があるが、今回の中間的整理では移植技術の検討だけにとどまっている。影響を受ける周辺の環境も含めての保全措置を検討していただきたい。

(3)生物多様性豊かな海域、辺野古・大浦湾の特性

 事業が予定されている海域では、サンゴ礁の地形の上に、大小さまざまな規模のサンゴ群集、海草藻場、マングローブ林、干潟、泥地、砂地が広がり、これらが全体として大きな一つのセットになり、微妙なバランスを取りつつ現在の自然環境を保っている(日本自然保護協会・WWFジャパン 2009、沖縄リーフチェック研究会 2009)。つまりサンゴ礁生態系は生物群集系と地形・堆積物・海水の動き・水質といった無機環境系との関係によって成り立っているのである。特に、外洋的環境から内湾的環境の特性を持つ大浦湾とサンゴ礁生態系の辺野古がセットで存在することに生物多様性を保全する、高い重要性があり、その接点である遮蔽された大浦湾西部の砂泥地は、特異的な生物群と希少種が分布し、極めて重要な環境である(日本自然保護協会、2007)。
 このような自然環境が、絶滅危惧種であるジュゴンをはじめとし、トカゲハゼやユビエダハマサンゴ群集、海草藻場、大規模なアオサンゴ群集を支えている。これらの事項は全て関連しているのであるから、その一部だけを取り上げて移動や造成を論じることには疑問を感じる。潮流や堆積物も含めて移植ができるならば、その手法を明記すべきである。
このような生物多様性のホットスポットを、科学的な評価を十分に行わずに、不可逆的な変化を与え、失おうとしていることは、将来世代へ大きな禍根を残すことになることを考慮し、事業ありきとも受け取れる「中間的整理」に示されている事項について、再度ご検討いただきたい。

(4)不明確な根拠の追及

 事業の進め方や環境保全措置等において、埋立土砂による汚濁防止方法や米軍へのマニュアル周知などについて具体的な方法が示されていない。これらの根拠や有効性が不明確な措置にこそ焦点をあてて検討していただきたい。

(5)常襲する台風の検討及び対策

 評価書の地形変化・堆積物変化のシミュレーションでは、「高波浪」と「年最大波浪」について行っているだけで、台風等の「異常波浪」については、シミュレーションが行われていない(日本自然保護協会、2011)。従って台風時の生物や地形への影響が正確になされていないという状態である。
 そのため海上ヤードをはじめとする海上の建築物について、沖縄県知事意見においても対策が懸念されている。台風の襲来は避けられないものであるので、知事意見を真摯に受け止めていただきたい。
 また海上ヤードの存在自体が海流を変化させる可能性があり、設置地点以外にも影響を及ぼす可能性があることについても留意すべきである。

(6)環境アセスの手続きについて

 本件の環境アセスのプロセスには問題が多い。方法書が出された半年後に、追加方法書、追加・修正方法書が出され、追加方法書及び追加・修正方法書については公告縦覧がなされなかった。つまり市民が意見を言える機会が存在しなかったのである。埋立土砂の件(分量と調達先)については追加方法書の段階になり初めて公表されたものであり、またMV22オスプレイの配備に至っては評価書の段階まで記載がなかった。これらの事実は環境アセス手続きにおいて重大な問題であり、事業者や有識者研究会には再度この点を検討事項に入れていただきたい。
 全般的に評価書を肯定する内容になっている。評価書補正という環境アセス上重要な手続きにどう生かすのか、有識者研究会の役割を示していただきたい。

 

 

Ⅱ「中間的整理」の個別の項目に関すること

以下、「中間的整理」の目次に沿い、意見を述べる。

 

2 全般事項に係る助言 

(1) 評価方法について

次のような問題点について、沖縄県知事意見及び環境影響評価書に立ち戻ってよく見ていただきたい。

  • 調査項目が多岐にわたり膨大なデータが集められているが、項目によっては生物リストを示しただけで定量的データが不足しているものもあり、種同定まで出来ていない種もある。この状態で正確な評価をすることは難しい。
  • 調査結果およびその解析に関する考察が不十分であり、大部分の項目で短絡的な評価に帰結している。
  • 科学的根拠の提示、影響の程度の定量化は重要であり、補正に反映させるべきである。
  • 環境リスクと事業の必要性、意義の比較衡量は、やり方によっては環境アセス制度そのものを否定することになる。
  • 環境アセスは、事業に関する評価を科学的・民主的な方法を用いて行うべきであり、その結果として事業の可否を判断すべきである。
  • 環境基準等の評価指標については、事業特性、地域特性を十分に勘案するべきである。
  • 科学的知見の不十分な評価指標は、予防原則に従って厳しく定めるべきである。
(2) 環境保全措置について 
  • 類似の事例を活用するのは良いが、効果の評価については相反する意見が少なくないことに留意する必要がある。
  • サンゴ類等は移動及び移植するとしながら、海藻草類のウミボッスについては同様の保全措置は検討されていない。評価書全体にわたり、種や項目により環境保全措置に差異がある、というこの重要な点を検討いただきたい。
  • 移動・移植を環境保全措置としている生物種や生態系については、移動・移植以外の保全措置を具体的に明記したうえで、移動・移植先の環境への影響も併せて具体的に明記していただきたい。
  • 赤土等の流出に関しては、事業によるものだけでなく、すでにバックグラウンドとして流出し堆積しているものについても検討するべきである。
  • 環境影響の回避が優先されるべきであり、次いで低減であり、代償措置はその後である。この順番は重要である。
(3) 事業内容について
①埋立土砂
  • 本土のダムの堆積土砂は、その水系内の環境保全(中洲や海浜の再生)に用いるべきである。
  • 建設残土、浚渫土砂も原則として発生源近辺で処理するべきであり、長距離運搬をすることになれば環境にかかるコストは高くなる。
  • 埋め立て土砂として本土のダムの堆積土砂を用いるという案は、評価書の補正というレベルの記述ではなく、新たな提案である。有識者研究会の意見なのか防衛省の意見なのか明確にするべきである。
  • この提案は環境保全の立場からは多くの問題を含んでいる。第3回議事要旨(7月4日)には「仮に大量の海砂を購入することとなった場合、採取場所及びその周辺への影響が懸念される」とあるが、本土のダムの浚渫残土を沖縄に移動させた場合、海砂の場合と同様、沖縄から見れば外来種に相当する生物等が含まれている。本中間的整理にもその点を懸念しているとの旨は書かれているが、具体的にどのようにすれば懸念がなくなるのか、その方法を示していただきたい。
  • 本土のダムの浚渫残土の活用は全く有効な環境保全措置になっていないと考える。
②美謝川切り替え
  • 連続した生態系を失うことの大きさを算出し、その上で、どの程度ならば人為的方法で復元が可能なのかを検討すべきである。
  • 河口域の地形と生態系は人為的な再生が可能なのか、持続性はどうなのか疑問がある。
  • 局地的な集中豪雨が原因となり赤土流出が起きる例が少なくないので、それに対する対策も併せて検討していただきたい。
  • 1kmに満たない美謝川の流路切替を行えば、川から海の連続した生態系という概念自体が成り立たないのではないかと考える。
③海上ヤード
  • 一時的な海上ヤードに定着する生物を生かすよりも、海上ヤードの存在が海の生態系に与える影響を考えるべきである。
  • 海上ヤードの存在が潮流に与える影響を定量的に測るべきである。
  • 一時的な建造物を撤去しないという不十分な工事につながりかねない
  • そもそも海上ヤードの必要性そのものかについて検討が必要であると、沖縄県知事意見でも指摘があり、海上ヤードありきの考え方は納得ができないものである。
(4)その他 
①環境保全(保護)策
  • 「2 全般事項に係る助言(2)」に書かれている環境保全措置とこの段落の見出しの「環境保全(保護)策」の違いを明確に示していただきたい。
  • 事業者は国(防衛省)であるのに「周辺環境や生態系の保全(保護)については、沖縄全体にも及ぶ課題でもあり、事業者により実施するには難しい面もあることから、国としての取り組みが必要」と記してあるが、意味が理解できない。国というのは例えば環境省を指すことが考えられるが、もしそうならば、これは責任転嫁に相当することであると考えられる。事業者が有効な環境保全措置を取ることは法律上の義務である。
  • 環境アセスの「現地調査」に行われている「現況調査」で新たな知見が得られていることから(ジュゴン、ウミガメ類など)、最新のデータを考察、影響予測、評価に取り入れることは重要である。
  • 環境アセスの「現地調査」に行われている「現況調査」で新たな知見が得られていることから(ジュゴン、ウミガメ類など)、最新のデータを考察、影響予測、評価に取り入れることは重要である。

 

3 生活環境に係る助言 

(1) 航空機騒音について 
  • 普天間基地や嘉手納基地等の周辺の住宅の騒音対策を調査していただきたい。コンクリート住宅が多いのは確かであるが、その他の有効な騒音対策も併せて導入していることが多い。
  • 米軍からデータを得て、丁寧に記述しても問題は何も解決しない。米軍が規則を守らないことや、手続き上の抜け道があることが問題であり、その対策が十分に示されない限り保全対策にはならない。
  • 沖縄の住宅は鉄筋コンクリート造の住宅が多く「遮音対策が有利ではないか」との認識が示されている。沖縄全体の住宅の認識はある程度は妥当であると考えるが、「航空機騒音」の影響があるとされる地域についてもその認識が当てはまるかどうか、言及するべきである。またこの地域においては、漁業や農業に従事する生活があること、屋外で人々がレクレーションや伝統行事等の活動を行われていることへの言及がなく、これは問題であると考える。
(2) 低周波音について 
  • 個人差が大きく予測・評価が難しい項目ではあるが、予測しないで良い訳ではない。個人差を勘案した予測・評価を行うべきである。なお事後調査は保全措置ではないので、これをもって予測・評価もしたかのように受け取れる記述は適当でない。
  • アメリカで行ったMV22オスプレイの低周波音に関する調査に関わった専門家のヒアリングを行うべきである。
(3) 水環境について 
  • 水環境で用いられる値はサンゴ類や海草藻類等の予測に影響を及ぼすので、用いられている条件が妥当かどうか説明する必要があるとの指摘は良いと思う。
  • 潮流シミュレーションに関しては沖縄県知事意見やNGO等から批判的な意見が出されている、それに対する反論がないまま、予測、評価は妥当というのでは、科学的意見の交換にならない。
  • <2全般事項に係る助言(1)評価について①評価における課題>の冒頭で、「評価書全般を通して、現地調査については、細部にわたり非常によく実施されているが・・・」との記述がある。しかし、この評価は潮流シミュレーション(水象)については、全く当てはまらない。まず、水深の測量が50mメッシュでありサンゴ礁の地形を再現できない。またシミュレーションに与えた境界条件が実測によらず仮定の数値を与えている。有識者研究会はこれらの点を見逃さず精査して評価していただきたい。また沖縄県知事意見で求められている台風時の調査はおこなわれていないことも指摘しておく。
  • <水の濁り等の予測の基本となる潮流シミュレーションについては、これまでの確認においては、概ね現在のシミュレーション技術に合致していることを確認しており、予測条件も概ね適切に設定され、着目すべきポイントについても、流れの状況が概ね的確に再現されていると考えられる。さらに、流れや濁りの発生についても妥当な評価がなされていると考える。>5~9行目に以上の記述があるが、潮流シミュレーションの技術レベルについて、概ねという定性的な評価をおこない、その結果としての流れの状況が概ね的確に再現されている、との評価をおこなっている有識者の姿勢は大いに疑問である。(アンダーラインは沖縄ジュゴンアセスメント監視団)

 

4 自然環境に係る助言 

(1) 海域生物(ウミガメ類)について 
  • 現況調査のデータを加えて考察、影響予測、評価することは必要であるので、ぜひそのようにしていただきたい。また環境省やNGO等が実施した調査結果についてもぜひ含めていただきたい。
  • キャンプ・シュワブ前の海浜のウミガメ類の上陸・産卵に対する評価は妥当ではない。ウミガメが現在利用している(産卵、孵化)海浜は「産卵の可能性が高い場所」とするべきである。また「さらに条件が良好な産卵場所を提供する」とはどのようなことか意味しているのか、具体的に示していただきたい。
  • 人間から見て良好であろうと思われる場所が必ずしもウミガメにとって「産卵・孵化に良好な海浜」とは限らないうえに、その逆も成り立つことを考慮いただきたい。
  • なぜ、屋久島より上陸数が少ないので影響が軽微なのか意味不明である。他の場所に多く生息しているので影響は少ないということを意味するならば環境アセスになっていないと言わざるを得ない。
(2) サンゴ類について 
  • 大浦湾に生息しているのはサンゴ類やサンゴ群集のみではない。(3)生物多様性豊かな海域、辺野古・大浦湾の特性に記したよう、本海域の自然環境がセットで保存されることが重要である。
  • サンゴ礁生態系はサンゴ類だけで成り立っている訳ではない。サンゴ類だけではなく、サンゴ礁としての地形や海域生態系全体について及ぶ影響についても、きちんと述べていただきたい。
  • サンゴ類に関する1)、2)、3)の指摘は妥当であると思う。しかしこれらの指摘をきちんと反映させるということはが、なぜ潮流のシミュレーション及び水質への対策を再検討するということにならないのか不思議である。
  • キャンプ・シュワブの東側海域(大浦湾、キャンプ・シュワブ沖周辺海域)は非常に狭い範囲内に、浅場から深場までの多様な環境がある生物多様性保全上、きわめて重要な海域である(日本自然保護協会、2007)。このような場について、地形や堆積物、水の流れのパターンもそのままの状態で再現する方法は無い。またサンゴの移植先として用いる場合にも、既存の生物や生態系に影響を及ぼさないという保証はないので、事前に影響の程度について明確にすべきである。
  • 沖縄総合事務局が移植に成功しているサンゴのみである。参照することに異議はないが、これらの事例が必ずしもサンゴ礁生態系全体の保全にはなっていないことも考慮していただきたい。
(3) 海草藻類について 
①予測・評価、②環境保全措置(移植・海草藻場造成)
  • 「被度50%以上の高被度域を含む藻場の消失を伴うことから、評価を丁寧に行う」とは、具体的にどのようなやり方で評価するのか、言葉だけでなく例を示して説明していただきたい。
  • 中城湾港(泡瀬地区)における海草の移植実験については手植え移植と機械移植が行われたがいずれも失敗に終わったことは明白である(日本自然保護協会、2007)。また同海域においては巨大な構造物の建設が、直接の埋立地だけではなく、周囲に生息していた海草類、地形、サンゴ類等へも影響を及ぼしていることが、調査の結果判明している(日本自然保護協会、2011)。従って同海域の海草移植の方法を導入するのは適切ではないと考える。また日本自然保護協会の調査結果を参考にし、構造物が埋立地周辺の地形や生き物に及ぼしている影響も見ていただきたい。
  • また海草の移植は、中城湾港(泡瀬地区)の例を見るまでもなく、ことごとく失敗しており、移植元の生態系のみならず移植先の生態系まで破壊しているとNGOや専門家から指摘がある。海草藻場の積極的な造成をアドバイスすることは、自然破壊の免罪符を与えることにつながる。
  • 海草の種ごとの特性を考慮することもないまま、被度50%以上の海草藻場の存続のみで影響評価の妥当性を判断しているのは間違っている。被度50%以上の密生した海草藻場を形成するのは、ボウバアマモ、リュウキュウスガモなど、密生した根茎を持つ種であり、葉身のみを採食するウミガメならばともかく、根茎を含めて採食するジュゴンにとっては必ずしも良好な採食環境とは言えない。むしろ、リュウキュウアマモ、ベニアマモ、ウミジグサなどの中程度の被度を持つ海草や、マツバウミジグサ、ウミヒルモなど低密度の群落を形成する海草のジュゴンの餌としての重要性を軽視する結果となっている。
  • シールズ数については、評価書はページによって都合のよい数字を使い分けており、この問題を指摘した日本自然保護協会の理由書(2012)に対して、防衛省は何も反論できていない。したがって、ここに書かれたシールズ数をもって、影響の回避の可否を判断することは到底できない。
③クビレミドロ
  • 中城湾港(泡瀬地区)におけるクビレミドロの移植実験は室内でしか行われておらず、フィールドでの実験は行われていない(泡瀬干潟 環境保全・想像検討委員会 海藻草類専門部会 資料)。室内実験では上手く出来ることが、フィールドでは出来ないということは現在までの経験からよくあることである。「基本的な生息環境条件が整理できた」とあるが、これをもってフィールドでの移植を行うのは早計である。
  • 「評価書の潮流シミュレーションに基づくシールズ数の変化に係る予測結果を見る限りにおいては、事業の実施に伴う地形の変化により、クビレミドロの生息域への直接的な影響は少ないと考えられる」とあるが、指摘潮流シミュレーション自体が間違っていた場合には、この検討も誤りとなる。
  • 海草藻場やサンゴ類への影響を予測するにあたり、正確な潮流シミュレーションの値が必要となる。評価書に示されている数値を用いるのではなく、生データから計算し直すことを考慮いただきたい。
(4) ジュゴンについて 
  • この部分に記された意見や提案は、概ね、知事意見やNGOが指摘してきた同事業がジュゴンに及ぼす影響を確認したものとなっている。また、沖縄防衛局が影響はないとしてきたジュゴンの利用する海草藻場がある嘉陽地区の海域について、「事業の実施に伴う影響を受ける可能性」を指摘したことは評価される。また、ジュゴンの保全(保護)について、沖縄全体における取組みへ言及したことも一定の評価はできる。
  • しかしこの部分においても、事業を行う前提で意見や提案が出されており、事業の中止や見直しを視野に入れた意見とはなっておらず、意見や提案が非常に矛盾したものになっていることを問題視せざるをえない。
  • 例えば、事業者のアセスで確認個体数が3頭であったことをもとに、「事業がなくても絶滅のリスクが高い」「事実上絶滅に近い状態」との認識を示しているが、「事業の実施がこれをさらに悪化させないように対処する必要がある」との意見となっている。しかし、果たして事業を行いながら、そのような対処が可能であるのかの根本的議論がなく、これは大きな問題だと考える。また「警戒システムの構築」や嘉陽地域の海域における「モニタリング」が提案されているが、これも事業を行うことを前提にしており、またこれらの保全措置の実際の効果について踏み込んだ議論が示されていないことも問題であると考える。沖縄におけるジュゴンの生息状況が非常に厳しいものであることは共通認識としているが、これに対して中間的整理は、ジュゴン減少の原因の調査、八重山諸島におけるジュゴンの生息調査などすでに粕谷他が研究済みであることをくり返してアドバイスしている。PVAの実施は重要だが、アドバイスの多くは事業者ではなく、環境省が行うべき筋のものばかりである。
  • 事業者に対しては、このように絶滅寸前のジュゴン個体群の生息地で事業を行うのであれば、事業がジュゴンの絶滅に1%たりとも加担しなかったという証明を求めるべきである。具体的には、工事期間中、毎日航空機を飛ばしてジュゴンの位置を把握し、もしジュゴンが1頭でも辺野古・大浦湾に来たら工事を中止し、すべての船舶の運航も中止することを求めるべきであろう。
  • ジュゴンの餌場である海草藻場については、「事業の実施に伴い海草藻場が失われる影響や仮に本事業で大量の海砂を購入した場合の海砂採取による沖縄全体の藻場の減少による影響の可能性も排除できない」としているが、一方「海草藻類について」の項目では、「喪失面積に相当する藻場を移植等によって代償されることが望ましく、具体的には、移植等による現状の育成区域周辺への海草藻場の拡大等のほか、海草藻場の新たな造成及び移植についても検討することが望ましい」との意見を出している。この2つの意見は大きく矛盾しており、生態系の中におけるジュゴンと海草藻場の関連を考慮した意見とは考えにくい。「喪失面積に相当する藻場を移植等によって代償」が果たして実際に可能な提案なのか、という疑問があることはいうまでもない。
  • 環境アセスの前の現地技術調査(ボーリング用単管やぐらの設置)、現況調査(ビデオ撮影機、パッシブソナー、サンゴ着床板の設置)などによるジュゴンとその生息海域への攪乱について、何ら考察していない。
  • これらの攪乱によって、ジュゴンの分布、行動におよぼした影響を解析しなければ、「貴重な調査」とは言えない。
  • 人為的攪乱とジュゴンの行動範囲をどのように解析して、評価書補正に生かすのか、その道筋を示すべきである。
  • ジュゴンの個体群維持に関わる評価は十分意味のある指摘であるが、評価書補正には、具体的に、どのように生かせるのか、具体的に示すべきである。
  • ジュゴンの調査は、専門家や住民、自治体の意見を聴取しないまま開始された現況調査が先にあり、その手法を踏襲して環境アセス現地調査が行われた。アセス後の現況調査については、仕切り直しをして、これまで除外されてきた専門家や住民の意見を聞くべきである。
  • 現在知られているジュゴンの生息海域は、沖縄島中北部沿岸だけである。先島諸島の調査も必要であるが、優先順位としては、沖縄島個体群の保全を優先するべきである。その際には、安全な生息場所と十分な食料を得られる海草藻場の確保が不可欠である。
  • 事業の実施が、ジュゴンの絶滅にどれだけの影響を及ぼすのかを、ジュゴンの生息地に及ぼす影響も含め、具体的に検証することが必要である。

 

5 事後調査・環境監視調査に係る助言 

  • 夜間工事、汚濁防止膜、工事による騒音、地下水、水象、地形・地質及び辺野古地先水面作業ヤードにおける水の汚れ(pH)についても、事後調査を実施することが必要である。とりわけ予測の基礎となる水象(潮流シミュレーション)の計算をやり直す必要がある。

6 今後の進め方

  • 同有識者研究会が環境アセスメントの枠組みの中で開催されていること、環境アセスメントを行うには科学性と民主性が重要な要素であり、情報公開と住民参加が基本であること、に留意して今後進められるべきである。
  • 今後行われる研究会を公開し、参加者の意見を聴取するべきである。

 

【おわりに】

 有識者研究会は環境アセスの科学性を保証するために、沖縄県知事意見の一つ一つに、丁寧に応答すべきであると考える。
情報の公開性や匿名の専門家が述べた意見への対応に苦労してきた私たちとしては、少なくとも「中間的整理」の項目ごとに執筆者の氏名を入れていただきたい。仮に、「中間的整理」の起草者が防衛省の担当者や、コンサルタントの担当者であるのなら、これらのことを明示して、有識者研究会としての責任を果たしていただきたい。
今後も、科学的・専門的観点から、より鋭い指摘を行っていただきたく、私たちNGOの意見が有識者研究会による最終提言書および補正評価書に活かされることを強く願う。

<参考文献>

1)日本自然保護協会(2012)「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書」への意見書・理由書
2)日本自然保護協会・WWFジャパン(2009) 『辺野古・大浦湾 アオサンゴの海 生物多様性が豊かな理由(わけ)-合同調査でわかったこと-』
3)沖縄リーフチェック研究会(2009)『大浦湾生き物マップ報告書』
4)日本自然保護協会(2011)「泡瀬干潟・浅海域埋立て。なぜ、自然環境・生物多様性を破壊し、経済的合理性が示されない事業が止まらないのか!?」記者会見資料.
5)日本自然保護協会(2007)『沖縄島北部東海岸における海草藻場モニタリング調査報告書』日本自然保護協会報告書第97号
6)日本自然保護協会(2007)『泡瀬干潟自然環境調査報告書』日本自然保護協会報告書第95号

前のページに戻る

あなたの支援が必要です!

×

NACS-J(ナックスジェイ・日本自然保護協会)は、寄付に基づく支援により活動している団体です。

継続寄付

寄付をする
(今回のみ支援)

月々1000円のご支援で、自然保護に関する普及啓発を広げることができます。

寄付する