第5回IUCN世界自然保護会議(WCC)―IUCNは、今後4年間で何をめざすか?
保全研究部の道家です。
世界自然保護会議の中で検討し、採択する最も重要な文書が、「IUCNプログラム2013−2016」です。
これは、世界各地の1000人を超えるIUCN事務局や、1100団体近くに上るIUCN会員(国、政府機関、NGO、国際NGO)、11,000人を超す専門家が所属する6つの専門委員会が、今後めざすべき方向性、期待される成果を定めるものです。
例えば、生物多様性条約あるいは個々の国に行う政策的な助言も、この4カ年計画達成の文脈で行われますし、FAO(食料農業機構)やUNESCO(国連教育科学文化機関)、UNDP(国連開発計画)、企業など「自然保護を第1の目的としないグループ」と協働するときに、IUCNがめざすことを示し規定する文書です。
抽象的な文章ですが、IUCNや会員のこれからの行動の基礎、新しい事業を始めるときの根底におかれる「哲学」的なものとも言えるでしょう。
ごく簡単なポイント=プログラムの枠組みと3つの構成要素を紹介します。
1.自然の価値を高め、守っていくValuing and Conserving Nature
IUCNの活動の核となる自然保護の多くの活動、レッドリストの作成、世界遺産条約へのアドバイスなどが個々に当てはまります。過去のプログラムとの違いは、自然を守る(Conserving nature)という表現に加えて、自然の価値(に対する人々の認識)を高めるValuingという言葉がついたことです。
ここで言う「価値」は経済的に有用といった貨幣換算できる価値だけではなく、内在価値(intrinsic value存在そのものの価値)も含みます。自然を守るためにも、多くの人々にその存在の意味を知ってもらうことに力を入れていくというメッセージが込められています。
2.自然の利用は、効果的で公平な決め方に変えていくEffective and equitable governance of nature’s use
人は自然から得られる多くの恵みなしには生きていけないわけで、その利用について取り組む事業が位置づけられます。ここのキーワードは、governanceという言葉です。統治とも訳されるのですが、IUCNでは、物事を決める時に必要な物事・原則、というような意味で使っています。つまり、ある自然資源の利用を、誰が、どんなプロセスで、どのような方法で決めるのか、ということについてIUCNとして指針を作るとともに、各地域で事例を作っていくことをめざしています。
生物多様性条約では、持続可能な利用の推進という表現がよく使われ、非持続可能な利用はどう変えていくかということが見落とされがちです。IUCNはずっと幅広く、自然の利用全般を見直していくという趣旨になっています。
3.気候、食料、開発という地球課題に対して自然に基づいた解決策を模索するDeploying nature-based solutions to global challenges in climate, food and development
世界的な課題として、土地利用を巡る問題が山積しています。食料生産のために森林が農地に転換され、農作物生産が気候変動対策のために、バイオ燃料生産に転換されています(国連ミレニアム生態系評価によると、1700−1850年に耕地化された面積よりも、1950−1980年に耕地化された面積の方が大きい)。長期的な傾向として世界人口はますます拡大し、気候変動が農業生産も含めた自然の仕組みに影響を及ぼすことが予想されます。そのような課題に対して「自然から学ぶことで、自然をうまく活用することで解決をはかっていく」のがこの分野です。IUCNにとっても非常に新しい領域で、現場で活動するIUCN会員団体こそが主役となる領域です。
気候変動に関しては、生態系の仕組みを活用した気候変動への適応(Ecosystem Based Adaptation)が重要であることを主張しているほか、ランドスケープマネジメントを進めていくことが検討されています。
また、企業の取り組みにもっと生物多様性の視点を組み込む働きかけも、この中に入ります。
この4カ年計画を念頭におきながら、世界自然保護フォーラムでの議論が行われます。