国立公園のこれからの保全・利用・管理のあり方とは
2月16日、環境省の関東地方環境事務所で尾瀬国立公園協議会が開かれました。NACS-Jも設置当初からのメンバーです。
この会議では、保全・利用・管理に関して話し合われますが、四県にまたがる自然公園で地元の利害関係者や関係行政機関も多いため、協議会を進めていく上での課題は少なくありません。一番の課題は、協議会というしくみ自体の研究(構成員のあり方と議題の選択)と、会議の準備力の向上(事前の課題・情報の共有)です。
協議会の設置目的は、今後の保護と利用のあり方をまとめた「尾瀬ビジョン」の実現、そして「協働型管理運営体制」のつくり方の実践と改良にあります。これは「新たな公益」のつくり方のひとつのため、日本の国立公園の管理方法のモデルづくりという意味合いもあります。
似た取り組みは知床、白山、小笠原でも試行され、多くの人がいろいろな目的で同じ地域の中にある「場」を使っていく日本の国立公園の自然性を守り、活かせるしくみの探求が進んでいます。しくみを考える検討会も別途行われていて、AKAYAプロジェクトで関係主体全体が基本構想を考え合意形成を進め、信頼関係を築き、具体化を進めている例も紹介しています。
今の法的な枠組みの中では実現できないこともありますが、ある案件では尾瀬やAKAYAのような協議体の意見を聞くという、審議会のような位置づけにする法律改正も必要になるはずです。
自然公園が抱える2つの問題
国が指定した自然公園には今、このような管理・運営のあり方を含め、多くの課題がありますが、大きな問題は次の2つでしょう。
1.国立公園の総点検と反映方法
2010年の第三次生物多様性国家戦略では「国立・国定公園の資質に関する総点検を行い、指定の見直し、再配置を進める中で、生態系ネットワークについても考慮した指定の拡大を図る」とされ、この点検作業が進んでいます。
重要地域の抽出と、既存の指定区域との重複状況を分析し、奄美諸島などをはじめとして、今後10年間に新規の公園指定や拡張の対象となり得る候補地を選定しています。これらの場所が現実に指定されるかどうかは、利害関係者との今後の交渉の方法と内容にかかっています。自然環境保全上、大事であることが分かっているにもかかわらず保護地域にならないところは日本には数え切れないほどありますし、震災被災地域の「三陸復興国立公園」の再編も加わり、やるべきことは山積みです。
2.地域主権と環境省地方環境事務所の関係
一方で、地方分権改革推進法に基づく地域主権改革として、国の地方出先機関の広域(行政)連合への委譲・移管が検討されていますが、この中に国立公園行政を含む環境省の地方環境事務所の問題が含まれています(参照ページはこちら)。
NACS-Jは、単純な委譲・移管に反対していますが、この案件を所管する内閣府のアクションプラン推進委員会が3月16日に開かれました*1。この中で、国立公園の今後の管理について、環境省は尾瀬のような協働型管理の方法を検討していることを伝えています。
これは、国立公園を広域連合に移譲せず、公園施設やエコツーリズムなど利用面については地域から施策提案をしてもらい、問題のないものは積極的に施策に反映していくという趣旨のもので、公園ごとに協議会を設置するとしています。
国立公園を移譲の例外とする方法ですが、地域主権の拡大を主張する県知事側は「丸ごと移譲」の原則論を繰り返し、合意には程遠い状態でした。政府はこれに関する関連法案を今国会に提出するとしているため、ある時点で検討は打ち切りとなり単純な丸ごと移譲が決定されてしまうのではないかと危惧しています。
今後の自然公園の管理方法や環境行政のしくみのあり方に関し、市民やNGOから政府への注意喚起が再度必要になっています。
*1:内閣府地域主権戦略室ウェブサイト:
https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/ayumi/chiiki-shuken/desaki/ap-promotion6.html
(横山隆一/常勤理事)