東日本大震災津波被災地での調査を始めました
地域復興に役立つ情報をまとめる
昨年12月から地球環境基金の助成を受け、市民による海岸植物群落調査を始めました。
東日本大震災により津波の被害を受けた下北半島から房総半島までのエリアで、1.海岸植物群落調査、2.ふれあい調査、3.植物群落レッドデータ調査の実施を計画しています。
- 海岸植物群落調査:NACS-Jが2003年から2007年に全国の海岸で実施した海岸植物群落調査のデータを活用し、市民参加で海岸植物の生育状況、砂浜の現況の調査を実施。
- ふれあい調査:地域の人たちの海岸への思いや復興における海岸管理への思い、過去の津波の教訓などの聞き取り調査を実施。
- 植物群落レッドデータ調査:1996年にNACS-Jでまとめた植物群落レッドデータブック(RDB)をもとに、専門家による現状調査を実施。この調査では、過去に調査した植物群落のデータと被災後の群落の状況を比較し、現状を明らかにしていきたい考えています。
調査開始に先立ち、10月に岩手県の陸前高田から宮城県の蒲生干潟までの現地視察を行いました。この地域にも多くの海岸植物群落調査地点、植物群落RDB記載群落があります。
例えば一本松で有名になった陸前高田の高田松原。ここは松原が植物群落RDB記載群落となっており、その手前には海岸植物が広がっていました。現在は、松原があったところまで波が押し寄せています(写真1・2)。
写真1:陸前高田・震災前(2006年9月21日撮影/鈴木善久)
写真2:陸前高田・震災後(2011年10月9,10日撮影/NACS-J)
また、全国海水浴場100選などに選ばれた気仙沼市の大谷海岸にも松原がありましたが、ここはハマナス群落がRDB記載群落であり、海岸植物の調査も行われた場所です。
しかし、ここもマツ林がなくなり、海岸が国道すぐまで近づいてしまい、高潮の被害などを避けるため、10月の時点では、東北森林管理局によって巨大な土のうが積まれていました(写真3・4)。
写真3:大谷海岸・震災前(2006年9月20日撮影/水上けい子)
写真4:大谷海岸・震災後(2011年10月9,10日撮影/NACS-J)
どちらの地域も多くの家屋が倒壊し、被災された方、犠牲になられた方がたくさんおられます。そのため復興計画では人々の生活を守るために陸前高田では12・5mの防潮堤、大谷海岸では9.8mの堤防の建設がそれぞれの市の復興計画で検討されています。
堤防が建設されてしまえば、地域に暮らす人が海とかかわる場であり、海岸植物にとっても重要な環境である砂浜海岸がなくなってしまいかねません。一方で、今後も安心して暮らしていくために堤防はなくてはならないという意見が大きい地域もあります。
本調査では、海岸植物群落の現状からの生物多様性保全、人々のこれまでの海とのかかわりや地域への思いといった「海とのふれあい」の双方を明らかにし、今後の地域復興に役に立つ情報をまとめることができればと考えております。
4月から対象エリア内8カ所で調査員会合を開催し、ふれあい調査を実施すると同時に、海岸植物群落の調査講習会を行います。その調査方法に沿って、秋まで個人、団体で調査を行っていただき、結果をまとめる計画です。
調査は地域の状況に応じながら地元の方々と一緒に進めていきたいと思っておりますので、皆さんのご協力よろしくお願いいたします。
(小此木宏明/保全研究部)