【配布資料】今日からはじめる自然観察「チョウの幼虫が好きな葉は?」
<会報『自然保護』No.522(2011年7・8月号)より転載>
このページは、筆者に、教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可)。ダウンロードして、自然観察会などでご活用ください。
チョウに出合いたい。そう思ったとき、花壇や花畑に足を運ぶのが、普通かもしれません。
それも、もちろん有効ですが、特定のチョウに出合いたいときは、そのチョウの幼虫が食べる植物を見つけてみましょう。
宮沢輝夫(読売新聞東京本社地方部/昆虫に詳しい自然派記者)
偏食家の幼虫
チョウの幼虫が食べる植物を、食草あるいは食樹といいます。幼虫は、食べる植物の種類が決まっていて、成虫はその植物に産卵 します。ですから、その植物を見つければ、目当てのチョウと出合う可能性が高くなります。仮に、成虫がいなくても、卵や幼虫、蛹に出合えるでしょう。
身近なアゲハチョウの仲間を例に挙げてみます。アゲハとキアゲハは一見するとよく似ています。しかし、アゲハの幼虫が食べるのは、ミカンなどかんきつ類の植物が主です。キアゲハの幼虫はニンジンなどセリ科の植物を食べます。もしも、アゲハの幼虫にニンジンの葉を与え続けたら、餓死してしまいます。
食草や食樹は、どのように探せばいいでしょうか。まずは、その植物が生えていそうな場所を探すのがいいでしょう。アゲハを例に挙げれば、ミカン畑ですが、身近に畑がなければ人家や公園の垣根を探します。食草のひとつであるミカン科のカラタチが植栽されていることが多いためです。アオスジアゲハであれば神社です。境内などに幼虫の食草であるクスノキが植えられていることが多いからです。
逆転の発想で、チョウを呼ぶことも可能です。筆者の知人は都心のマンションに住んでいますが、ある日、サルトリイバラをベランダに置きました。すると、どこからともなくルリタテハ(山地に多い)が飛んできたのです。サルトリイバラはルリタテハの食草です。知人は意図して呼ぼうとしたわけではなかったのですが、チョウが食草や食樹をかぎつける能力のすごさを、図らずも示した例と言えるでしょう。
ところで、チョウの種ごとに食草や食樹があるのはなぜでしょうか。植物が毒成分をつくり、チョウがそれを食べられるようになる長い進化の歴史を反映するものと考えられています。中には、ジャコウアゲハのように、幼虫時代にウマノスズクサ(河川敷に多い)を食べて毒成分を体内に蓄積し、鳥など天敵から身を守る種も存在します。
一方、食草や食樹とは違いますが、チョウによっては、吸蜜源として好みの花が存在します。アオスジアゲハのヤブガラシ(荒れ地に多いつる状植物)、”渡り蝶”アサギマダラのヒヨドリバナ(林道沿いに多い)、黒いアゲハチョウの仲間のツツジ類などが知られています。