愛知県「トヨタ自動車テストコース」用地造成事業のアセス準備書に意見を提出しました。
環境影響評価準備書への意見
大野正人・出島誠一
本事業の対象地域は、水田を含む湿地や草地、森林をセットとした良好な里山環境であり、サシバ、ミゾゴイなど多くの絶滅危惧種が生息している。全国的に里山環境が失われている現状において、本事業地は、日本の生物多様性保全上、重要な地域である。
生物多様性条約締約国会議(CBD/COP10)で決議された「愛知ターゲット」では「2020年までに生物の自然生息・生育地の消失速度を少なくとも半減すること」(目標5)、「自然資源の利用の影響を生物学的限界の十分安全な範囲に抑えること」(目標4)など生物多様性を主流化した生産及び消費の計画を企業にも求めている。また、愛知県は、「あいち自然環境保全戦略」(2009)のもと推進される「生態系ネットワーク形成」など自ら生物多様性保全の施策を推進している。
本事業の実施主体である愛知県と、造成地を利用するトヨタ自動車は、これらの地球規模の目標設定や、地域レベルの施策との整合をとりながら、環境影響評価を行わなければならない。本事業地の生物多様性を将来にわたって保全するために、以下の4項目について十分検討し、責任をもって実行することを要請する。
1) サシバの生息環境を確実に保全すること
サシバは本事業地の里山生態系の豊かさを指標する生物である。本準備書の調査結果によると、対象事業実施区域内に営巣木をもち、継続して繁殖しているつがいは、2ペア(SBペアとSDペア)が確認されている。しかし、本事業の土地改変により、SBペアが18~30%、SDペアが33~67%、採餌環境が減少する。現存植生図で見る限り、対象事業実施区域内には採餌環境になりえる植生環境が広く分布しているにもかかわらず、繁殖ペアの分布は一部に限られていることが、行動圏解析の面積から推察でき、営巣環境、採餌環境、捕食動物の生息環境の質と、それらの微妙な配置やバランスによって、この2ペアが継続的に繁殖できる環境が維持されていると考えられる。そのため、現存する採餌環境の重要性は極めて高く、その減少が、2ペアに与える影響は大きい。
また、環境保全措置として採餌環境、営巣環境の創出・向上を講じることとしているが、対象事業実施区域内に繁殖ペアの分布が限られている状況を鑑みると、その効果は不確実性が高いといえる。
トヨタ自動車は、「新研究開発施設のあらまし」(2009年10月発行)で、5章-1-①「希少な動植物の生息・生育環境の保全」において、「サシバについては、営巣地だけではなく、採餌環境である谷津田の改変を可能な限り回避します」と述べている。ならば、現状のサシバの採餌環境を維持するために、土地利用計画を再検討し、更なるサシバの生息環境の確保を行うべきである。
2) ミゾゴイを環境保全措置の対象種として、繁殖可能な生息環境を保全すること
ミゾゴイは本事業地の里山生態系の豊かさを指標する生物である。全世界で1000~2000羽程度に減少していると推定されており、IUCNレッドリストでも絶滅危惧種に指定されている。
本準備書では、ミゾゴイの生息適地を植生と地形から評価解析を行っている。その結果によると、対象事業実施区域内で繁殖を確認した2箇所の巣を含む流域のミゾゴイの「生息適地評価値」は2.3と1.5であり、繁殖可能な環境は1.5以上であると判定できる。しかし、本事業による土地改変後、繁殖を確認した2箇所の流域は、ともに「生息適地評価値」が1.1に低下するとしている。
また、準備書には示されていないが、繁殖が確認されていない巣を含む流域の「生息適地評価値」も同様に低下すると推察される。つまり、現状の計画による土地改変で、ミゾゴイが繁殖可能な生息環境が維持されない可能性がある。生態系評価の注目種として、サシバ、キキョウ、ホトケドジョウと同様にミゾゴイも環境保全措置を講じ、繁殖可能な生息環境を確保する必要がある。
3) 科学的なモニタリング調査と、そのフィードバック体制を確保すること
今後の工事から施設運用にあたっては、科学的なモニタリング調査を行い、工事や環境保全措置に適切にフィードバックされる体制が確保されなければならない。
本準備書では、「7 環境の保全のための措置」と「8 事後調査の計画及び環境監視の計画」において、様々な保全策とモニタリング調査について記述されている。しかし、それらの保全策とモニタリング調査の期間・方法・結果の公表及び評価等が適切に行われ、それらが工事や保全策へ適切にフィードバックされるかについての記述がない。例えば、ミゾゴイの繁殖状況のモニタリング調査については、「7-(3)-(キ) 森林・谷津田のモニタリングの考え方」、「8 -(1)事後調査の計画」、「8 -(2)環境監視の計画」にそれぞれ記述があるが、各計画の関係についての記述がなく、ミゾゴイの繁殖状況が適切にモニタリング・評価・フィードバックされるのか、またその期間や範囲が適切であるかどうかは判断ができない。
したがって、今後のモニタリング計画とそのフィードバック体制について、その全体を明確に示すべきである。
4) 市民参加と情報公開を積極的にすすめること
工事から施設運用にあたっては、環境保全とモニタリング調査の、計画・実施・検討・見直しの各段階において、専門家による助言だけでなく、この地域の自然環境に愛着をもち、熟知した、地元自然保護団体等の市民が参加できる場を確保し、積極的に情報公開をしながら、この地域の生物多様性の保全をすすめていくべきである。
■愛知県記者発表資料
豊田・岡崎地区研究開発施設用地造成事業環境影響評価準備書の公告・縦覧、説明会の開催等について(2011.2.24)
http://www.pref.aichi.jp/0000038085.html