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東北の海辺の保全と泡瀬干潟埋立事業に対する要望

2011.04.25
要望・声明

東北の海辺の保全と泡瀬干潟埋立事業に対する要望(PDF/140KB)


2011年4月25日

内閣総理大臣 菅 直人 殿
内閣府特命担当大臣 枝野幸男 殿
(沖縄及び北方対策)
国土交通大臣 大畠章宏 殿

公益財団法人日本自然保護協会
公益財団法人世界自然保護基金ジャパン
公益財団法人日本野鳥の会
泡瀬干潟を守る連絡会
泡瀬干潟を守る東京連絡会
日本科学者会議沖縄支部
ジュゴンネットワーク沖縄
ラムサール・ネットワーク日本

東北の海辺の保全と泡瀬干潟埋立事業に対する要望

【東北の干潟・湿地・砂浜の消失と日本の海辺の自然の保全】

3月11日、東北地方太平洋沖地震が発生し、私たちの想像をはるかに超えた東日本大震災を引き起こしました。海岸部では、高さ十数メートルにも達する津波が押し寄せ、町を呑みこみ多くの命が失われました。造成された港や埋立地は地震による液状化現象で大きく破壊され、防護のために築いていた堅牢な堤防や護岸の多くは破壊されました。

津波は、人々の命と生活だけでなく、地域で大切に保全してきた海辺の自然環境にも大きな影響をもたらしました。
例えば、福島県相馬市の松川浦は貴重な潟湖で、干潮時に広がる干潟はシギ・チドリ類など多くの渡り鳥を育んできました。宮城県名取市の閖上海岸は砂浜が広がり、砂浜特有の海岸植物群落が見られ、地元の市民グループがハマボウフウを守り育ててきました。岩手県陸前高田市の高田松原は地域の人々に親しまれてきた2kmに及ぶ松林と砂浜が続く景勝地でした。しかし、これらの干潟、砂浜は津波でほとんど全てが消失してしまいました。
これらの干潟、砂浜は、渡り鳥や海岸植物をはじめ、貝やカニなど多様な生物の生息地であるとともに、地域の人々が海辺の自然とふれあう憩いの場所でもありました。

これからの復興にあたっては、これまでよしとして進められてきた沿岸部の開発や構造物の建設、まちづくりのあり方等、公共事業の概念を根本から見直し、被災地のふるさとの海辺の自然・風景を取り戻すことが、大きな課題です。同時に、日本の干潟や砂浜を中継地として旅をする渡り鳥の生息地の確保も忘れてはなりません。残された東北の海辺の自然を支え、また、今後再生を進めるときのために、東北以外の地域の干潟・砂浜などの海辺の自然を今確実に保全することが、日本の生物多様性保全上重要です。
しかし、沖縄市の泡瀬干潟では、必要性に大きな疑問が投げかけられている埋立事業が進められようとしています。

【泡瀬干潟の埋立事業】

泡瀬干潟の埋立事業は、2009年10月15日の控訴審で、経済的合理性がないとして公金支出差し止めの判決を受けました。その中で、今後沖縄県や沖縄市が事業を続行するために計画を作り直す場合も、新たな土地利用計画に経済的合理性があるか否かについては、従前の土地利用計画に対して加えられた批判を踏まえて、相当程度に手堅い検証を必要とすると指摘されました。

その後、沖縄市は独自に新たな利用計画案を作成し、内閣府沖縄担当大臣に提出、国は即座に沖縄市案を認め、事業の推進を認めました。
しかし、新たな沖縄市案は、控訴審判決で命じられた経済的合理性についての検証が十分なされていません。なぜなら、沖縄市案は市民への情報公開と説明責任がなされず、また、市民意見を聞くことも全くなされなかったからです。さらに、国土交通省の交通政策審議会港湾分科会で、環境省から「埋立ては可能な限り回避するとともに、当該区域を埋め立てる場合には、自然環境への影響を最小限に抑える必要がある」と厳しい意見がつけられました(2011年3月3日)。その意見に対しての対応も何も示されていません。

一方沖縄島では、島を取り囲むように形成されたサンゴ礁や、礁池に発達した干潟や藻場、海岸部の海岸林が、台風時などは強大なエネルギーで押し寄せる風雨や波浪の緩衝地帯として機能し、後背の人々の暮らしを、自然の猛威の直撃から守ってきました。泡瀬干潟の埋立事業は、これら自然の防波堤を壊すものであることから、私たちは本事業のあり方に異議を唱えてきました。

昨年わが国で開催された生物多様性条約COP10でも、生物多様性、自然がもたらす生態系サービスの重要性が強く認識され、生物多様性と共存した持続可能な社会を構築することが、人類の責務であることが確認されました。

被災地と被災された人たちの生活の復興とその支援が、何よりも優先されねばならない国家事業であり、私たちの願いでもあります。復興のための財源は、既に策定された平成23年度の公共事業予算を大幅に改編して確保されなければなりません。

以上を踏まえ、私たちは、次の3点を要望します。ぜひ早急に対応くださるようお願い申し上げます。

  1. 東北地方の干潟・湿地・砂浜を保全するためにも、利用計画に疑問の残る泡瀬干潟の埋立事業を中止し、泡瀬干潟の生物多様性を良好な状態で保全してください。
  2. 東日本大震災を踏まえて、必要性、緊急性が低い本事業の平成23年度予算27億3000万円は震災対応費に振り替えてください。
  3. 沖縄市の東部海浜開発事業は、東日本大震災を踏まえてあり方を根本から見直し、泡瀬干潟の豊かな生物多様性・生態系と共存する自然を活かし、安全性を確保した持続可能なまちづくり計画に改変するよう、沖縄市に提案してください。

以上


【参考】埋立事業が泡瀬干潟の自然に与える影響

泡瀬干潟は、陸から沖に続く干潟、海草藻場、砂洲、サンゴ群集、水深5m前後の潮下帯といった一連の多様な環境から成り立ち、それらがバランスを保ちつつ極めて高い生物多様性を育んでいるのが特徴である。そのため、第Ⅰ区域を埋め立てる沖縄市の見直し案は、泡瀬干潟の生態系を分断し、豊かな生物多様性を破壊するものである。

埋め立て事業の進む第Ⅰ区域には多種のサンゴが生息し、この海域で新たに確認された海草・藻類が生育している。埋め立てにより、それらの貴重な命が失われるだけでなく、種の存続にも大きな影響を与える可能性がある。

事業を中止した第Ⅱ区域は、干潟の活用・保全を図るとしているが、既に建設された第Ⅰ区域の護岸だけでも、環境影響評価では予測されていなかった地形変化(砂洲の変形)や海草藻場の大規模な消失、サンゴ群集の劣化が起こるなど、大きな影響が出ている。

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