石狩の自然海岸に風力発電計画、 道と市に意見を出しました
NACS-J意見書の全文は>>こちら
保護の必要性が高い植物群落が生育する海岸
銭函海岸を含む、石狩海岸一帯は、砂丘・砂浜とそこに生育する海浜草本群落やカシワ林からなる海岸植生が今でも残され、冬期にはオジロワシが飛来し、夏期は砂丘でショウドウツバメが穴を掘り繁殖のためにコロニーをつくります。
特にカシワ林は、全国的にも海岸林がクロマツ林に転換されたり、道路や工業団地などの開発によって失われており、貴重な存在です。札幌という大都市に近い砂丘の植生でありながら最大規模であり、「植物群落レッドデータ・ブック」(1996・NACS-J)でも最も保護の必要性が高い植物群落と評価されています。
北海道は、計画的に自然環境の保全を進めるために重要な自然地域を指定した「北海道自然環境保全指針」(1989)を発表しており、石狩海岸は、この指針でも「すぐれた自然地域」として「保全を図るべき地域」に指定されています。それにもかかわらず、大規模な風力発電施設の開発計画が進行しています。
▲砂浜~海浜草本群落が広がり(左写真)、さらに陸側にはカシワ林(右写真)、と貴重な植物群落が連続してみられる自然海岸
生物多様性を損失させる 誤った地球温暖化対策は見直す
NACS-Jが行った全国の海岸植物群落調査(2008)で、植生の豊かな自然海岸はわずか7%と明らかにしたように、全国的に砂丘・砂浜が各地で激減し、海岸植物群落が危機的状況になっています。
海岸植物群落は、海岸という厳しい環境条件(強風、潮風、乾燥など)のもとで成り立つ植生のため、大規模な風力発電施設が帯状に建設されれば、海岸独自の環境が変わり海岸性の植物は競争に負け、内陸性の植物や外来植物に置き替わってしまうことが考えられます。
近年、地球温暖化対策を免罪符にして企業利益のために風力発電開発を推し進める動きが各地でみられます。銭函海岸でも事業者は、風の吹く状況だけを優先させて、微妙なバランスの上に成り立つ貴重な自然環境である海岸を、風力発電施設計画地に選んでしまいました。
「北海道自然環境保全指針」を事前に重要視していれば、構想段階で計画を自主的に回避・断念することもできたはずです。また、地元の自然保護団体や、低周波や騒音などの心配をする住民に対しても説明不足で、合意形成がまったくできていません。このような状況は非常に大きな問題です。
事業の推進=補助金申請には、地元小樽市の市長の意見・同意が必要であり、北海道庁は自ら保全指針を示し、海岸の使用許可を出す権限を持つため、この計画に対して行政が果たす役割は大きいものです。しかし北海道庁も小樽市も、事業による環境影響の回避の徹底、立地選定の見直し、市民参加による合意形成の徹底など、事業者に対する積極的な指導・助言を行っていません。
事業者の自主アセスメントで評価書が出されようとしていますが、NACS-Jと地元団体から北海道庁へ海岸の使用許可を安易にしないよう要請したり、日本野鳥の会からも鳥類保護の観点から事業の中止を求める要望書が提出されています。
重要な環境に風力発電計画は認められるものではありません。再生可能エネルギーの導入目標達成のため、貴重な自然をぞんざいに扱い生物多様性を失うようなことがないよう、今後の環境影響評価や海岸の保全のあり方を考え直さなければなりません。
(大野正人/保護プロジェクト部)
シンポジウムのお知らせ
「石狩・銭函海岸の風力発電計画を考える」
北海道自然保護協会は、銭函海岸の風力発電計画が自然環境に与える影響などを多くの人に知ってもらうため、シンポジウムを開催します。NACS-Jもパネラーとして参加します。