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リニア中央新幹線に関するパブリックコメントを提出しました。

2011.01.14
要望・声明

中央新幹線小委員会中間とりまとめに対するNACS-Jの意見(PDF/175KB)


2011年1月14日

中央新幹線小委員会中間とりまとめに対するパブリックコメント

(財)日本自然保護協会 保護プロジェクト部
大野正人・辻村千尋

 

●南アルプスルートの採択が適当であるとの判断には根拠が不十分である。

中央新幹線のルート案では木曽谷、伊那谷、南アルプスの3つのルート案が示されている。しかし今回の検討では、3ルートを同等に比較検討していると思われる資料は、輸送需要量の部分のみであり、その後の需要予測や費用対効果の検討は、木曾谷ルートの検討が除外されている。また、環境の保全での調査でも木曽谷ルートが検討されていない。木曽谷ルートを検討からはずしている理由が明らかでなく、比較検討として南アルプスルートの優位性が不明である。
また、環境省「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」では、事業を行なわない案を複数案に含めることを明記されているが、今回の検討ではいわゆるゼロ案は検討課題にすら含められていない。これらのことから、今回の複数案の検討は、ルート採択の根拠としては不十分である。
【該当箇所】 4.ルートについて

 

●現計画段階での環境の保全にかかる調査項目と検討内容は不十分である。

参考資料では、アセスメントの環境調査項目として、①大気環境、②水環境、③動物・植物・生態系等、④景観、⑤ふれあい活動の場、⑦文化財、⑧廃棄物・温室効果ガス、の8項目をあげ、現状の整理をしている。これらは全て地上環境に関わる課題である。しかし、南アルプスルートは、大規模トンネルが想定されており、地下環境に関する影響を考慮しなければならない。想定ルート上には、中央構造線、糸魚川-静岡構造線など、日本有数の断層帯が存在している。こうした場所にトンネルを掘削した際の、地下水文環境に対する影響や、圧力の変化による断層活動度への影響など、事前に評価しなければならない項目が想定される。また、地上とは異なり、影響の出現までに時間がかかるため、地下からの地表環境への影響(特に水文環境の変化)は予測が非常に難しい。地下環境は、これまでの様々なトンネル工事の結果、想定外の影響(異常出水や川枯れなど)を経験しているはずである。検討会議事録にも「予測できない」と明記されているように、自然環境上の影響の評価が難しく、南アルプスルートが最も適しているとは考えられない。
また、工事にかかる作業道路の設置、斜坑の設置、工事の際に出される排土砂の処理など、トンネル本体工事にかかる周辺工事の規模も示されず、ましてや影響については、全く検討されていない。
【該当箇所】 4.③環境の保全

 

●生物多様性の屋台骨「国立公園」地域にルートを通すことは、生物多様性国家戦略に基づく環境政策と整合がない。

生物多様性国家戦略では、国立公園を日本の生物多様性の屋台骨として位置づけ、その保全を政府として進めることとしている。「南アルプス国立公園」は、生態系、地形・地質それぞれの観点から高い重要性を認識された結果、大規模に国立公園区域を拡大することが、環境省によって発表されたばかりである(2010年10月)。また、原生自然としての厳重な保全が求められる「大井川源流部原生自然環境保全地域」の指定地も存在する。政府が重要と認め、その保護担保措置を拡充しようとしている区域で、大規模な開発行為を計画すること事態、政策決定上の整合性がない。
さらに、2010年日本が議長国を務めた生物多様性条約締約国会議では、愛知ターゲットとして、「生物多様性の損失を止めるための効果的、緊急な行動を実施すること」を前提に、保護地域のさらなる拡充などが決議されている。こうした国際条約に基づく戦略目標からの逸脱は、日本の国際的な信用に関わる重大な問題になりかねない。
【該当箇所】 4.ルートについて

 

●鉄道交通のみの検討ではなく、日本の交通体系全体に位置づけての検討をするべきである。

今回のリニア中央新幹線は、東京、名古屋、大阪の3大都市圏を1時間程度で結ぶ計画である。既存の東海道新幹線との関連や、すみわけについての検討がなされ、それを元に費用対効果の検討がなされているが、航空路線との競合などは考慮されていない。競合する航空路線の値下げなどにより費用対効果がどう推移するのかは必須検討課題であると考える。
【該当箇所】 全般

 

●今回の計画で通過点となる地方の経済損益の検討が十分ではない。

中間報告では「豊かな自然に恵まれた地域特性を活用し、大都市圏から容易に大自然に触れる機会を提供」とあるが、具体的にどこを想定しているかも不明であり、このことの根拠も不明である。リニア中央新幹線の最大の目的は三大都市圏との時間距離を短くすることにあり、この観点からはできるだけ途中駅での停車を最小にする必要があることと矛盾している。自然を有する場所は、人口の少ない箇所であり、こうした場所に駅を設ける事が、現実的か疑わしい。結果、こうした場所に行くには、これまでの交通体系に頼らざるを得なく、中間報告で掲げられた意義は、実現性が低いと考える。
【該当箇所】 2.②三大都市圏以外の沿線地域に与える効果

以上

renear_root.jpg▲「中央新幹線小委員会中間とりまとめ(案)」に示されたルート範囲図


<ご参考>

国土交通省 交通政策審議会中央新幹線小委員会
中央新幹線小委員会中間とりまとめ(案)(PDF/281KB)
中央新幹線小委員会中間とりまとめに関するパブリックコメントの募集について(PDF/127KB)

中央新幹線小委員会中間とりまとめに対する環境省意見の提出について

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