風力発電に関する意見発表を、風力発電検討会と衆議院環境委員会で行いました
自然エネルギー開発のために軽んじられる生物多様性
港や公園などで発電用の風車を見たことがある方は多いでしょう。風力は石油を燃やしたり(火力発電)、放射性廃棄物を生み出し続けるもの(原子力発電)でないため、自然にやさしいと思われているかもしれません。
でも、1カ所で大量の電気をつくる大型の風力発電施設の建設は、自然にやさしいものではありません。また、温暖化を抑えるため、火力発電所と取り替えようとするのであれば、少しでも石油という化石燃料の消費を減らし、規模や立地をよく考えた上でつくらなくてはならないものでしょう。しかし、今の日本の建設計画は火力発電所を減らすこととセットではないため、石油の節約にはつながりません。
国内の風力発電施設は、2010年3月までに1683基(219万kW)が設置され、約230基(約45万kW)が建設中です。この中でウィンドファームと呼ばれる大型の建設事業は、ジャンボジェット機の長さより高い風車を何十本も海辺や山の上に立てようとするもので、各地で自然保護問題を引き起こしています。審議中の地球温暖化対策基本法案やエネルギー基本計画では、一次エネルギー供給に占める自然エネルギーの割合目標を10%(2020年)とし、2020年までの10年間に今の約5倍にするとしています。
しかし、今までの風力発電でも、近くに住む人への騒音・低周波音による支障や、重要自然の破壊、希少鳥類の風車への衝突死事故、景観への大きな悪影響などがあり、反対運動は各地で起きています。地域と融和し、自然環境を保全しつつ進めてきたとはいえない状態です。
このような中、環境省環境影響評価課では、昨年2月の中央環境審議会答申で、「風力発電施設の設置を環境影響評価法の対象事業への追加を検討すべき」とされたことを受けて検討会をつくり、関係機関からの意見聴取を計画しました。第1回は10月29日で、日本風力発電協会とNACS-Jが選ばれ、私は次のことを解説しました。
1.事業者の自主調査の項目が少なく、水準も低いこと。その結果、動植物の生息地や景観を失うことを過小評価したり、希少大型猛禽類の繁殖環境の中に建設してしまって衝突死事故が起きたりという事例がいくつもある。また、プロペラは軽くひらひらするためヘリコプターが使えずトレーラーで建設地まで運ぶため、幅8mもの道路が必ず建設されることの山岳環境への悪影響は見過ごせないこと。
2.計画は立地をどう決めるかが最も重要で、地域合意を得ながら進めるべきであるが現状は行われていないこと。事業者の自主調査では狭い意味での地元の了解だけとればよいと解釈されているため、隣接する人たちが知らない中で計画が進んでしまい、反対運動がどこででも起きている。このような現状で、風力発電を増やすことを急ぎすぎると取り返しがつかなくなること。
3. 対象規模は、1500kWを条例アセスの対象としている自治体が多いことや、今の風力発電の調査費交付金が1万kW以上を対象としていること、希少生物の衝突事故がそれ以下の発電規模の施設で起きていることなどから、国のアセスは5000kW以上程度が妥当であり、ある時期つくられるのは小規模であっても、同じ地域に複数をつくる場合には複合影響を調べるしくみが必要なこと。
この検討会で同時に説明をした日本風力発電協会は、対象規模は火力発電所と同じ15万kW以上にしてほしいと主張し、私の主張とは30倍もの開きがありました。もし15万kW以上にしたとすると、国のアセスメントをするのは50~70本以上ものタワーが建つものだけになります。
エネルギー開発を進める側は、今後の自然エネルギー開発において、風力発電施設は国立公園をはじめとする自然公園を含む山岳地、地熱発電施設は高温の温泉地が有力な建設地と考えられているようです。しかし、自然エネルギーのためなら多様性保全は二の次というような短絡な施策は認めることができません。
環境影響評価法を改正し、制度の水準向上を
もうひとつ、国会でもこの風力発電施設建設の問題を含む「環境影響評価法の一部を改正する法律案」の審査が行われ、11月16日の衆議院環境委員会の国会参考人質疑に呼ばれ、この法律改正について説明し質問に答えました。
はじめに、NACS-Jはサンゴ礁生態系や藻場、クマタカやイヌワシといった大型猛禽類を指標とした環境影響評価などの社会問題に常に対応してきたことを説明し、生物多様性の保全と確保の緊急性・重要性の高まりを述べました。
COP10で決議された新戦略計画では「生物多様性の損失を止めるため、効果的かつ緊急な行動を実施する(ミッション)」こと、「2020年までに、森林を含む(生物の)自然生息地の損失速度を少なくとも半減、可能な場合にはゼロに近づけ、また、それらの生息地の劣化と分断を顕著に減少する(目標5)」こととされ、生物多様性基本法に「事業計画の立案段階等での生物多様性に係わる環境影響評価の推進」が規定されていることからも、環境影響評価制度の水準向上は重要な要素と主張しました。
また、この改正で得られる制度上の前進は、風力発電施設が評価対象に追加されることや環境大臣から意見を出す機会が増えること、方法書や準備書などのインターネットによる電子縦覧が義務化されていることなどであり、それらを得るには改正が必要と述べました。ただし、効果を十分持つ環境影響評価とするには、さらに改良すべき点は少なくありません。
また、環境基本法や政策評価法との関係の明確化も課題なので、見直しのタイミングは施行後10年と記されていましたが、10年を待たず速やかに見直す必要があることを強調しました。その後、この法案は衆議院を通過したものの、参議院で止まってしまい、廃案かと思われましたが、閉会日にかろうじて継続審議となりました。詳細は、国会のウェブサイトで見ることができます。
風力発電を環境影響評価の対象にすることは急がれるのですが、環境影響評価法の改正が行われなくとも環境省の政省令を変えればできることです。法律の改正を待たず政省令を変えて実現させることが、何より自然から求められています。
(横山隆一/NACS-J常勤理事)