アセス法改正について、衆議院環境委員会の参考人として意見を述べました。
■審議での意見の様子は、衆議院TV(ビデオライブラリ11月16日・環境委員会 3分30秒から)でご覧いただけます。
「環境影響評価法の一部を改正する法律案」の審査に際する意見
■はじめに
財団法人日本自然保護協会は、沖縄県石垣島の新空港計画などのサンゴ礁生態系に関わる環境影響評価や、秋田県駒ケ岳山麓の大型リゾート計画などの山地性大型猛禽類を指標とした環境影響評価など、多くの環境影響評価とそれに伴う社会問題への対応を行い、中央環境審議会による「今後の環境影響評価制度の在り方」の検討にも意見具申を続けてきた。
1. 生物多様性の保全・確保の緊急性・重要性の高まり
先月、名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10)で、新戦略計画(愛知ターゲット)が決議された。この中で、全締約国に対するこれから10年間のミッションは、「生物多様性の損失を止めるために、効果的かつ緊急な行動を実施する」こととされた。 また、そのための内容・達成目標は、目標2では「2020年までに、生物多様性の価値が・・(中略)・・戦略および計画プロセスに統合される。」こと。目標5では「2020年までに、森林を含む(生物の)自然生息地の損失の速度を少なくとも半減、可能な場合にはゼロに近づけ、また、それらの生息地の劣化と分断を顕著に減少する。」こととされている。また、生物多様性基本法では、「事業計画の立案段階等での生物多様性に係わる環境影響評価の推進」が規定されていることからも、わが国の今後の環境影響評価制度のあり方や水準の速やかな向上は、最も重要な要素のひとつと考えられる。
2. この改正で評価できる主要な点
①対象事業の範囲の拡大で、風力発電所が追加されることになっていること。
②事業の計画段階での、環境影響評価の実施の第一歩を踏み出していること。
③方法書の段階で、社会への説明会が義務化されていること。
④評価項目等の選定段階での環境大臣の技術的な助言及び、海面の埋め立てなど許認可権者が地方自治体である場合、環境大臣から意見を出す手続きが加わっていること。
⑤方法書、準備書等のインターネットによる電子縦覧が義務化されていること。
⑥保全措置とされたものの、事業着手後の状況の公表手続きが含められたこと。
これらが今後の環境影響評価手続きに含まれ、環境省による検討・審査体制の整備(多様な専門性の確保)が伴えば、自然保護のための一定の機能を発揮すると考えられる。
3. 今回の一部改正と見直しの関係
今回の一部改正によっても、望まれている効果を十分持つ環境影響評価の方法とするにはさらに改良すべき点は多く(例えば、立地の複数案化、ゼロオプションの導入方法等)、それらをどのように規定すべきかについて、研究し、見直す必要のある項目は少なくない。しかし、わが国の環境影響評価法については、1980(昭和55)年、三年間の期間を使ったにもかかわらず廃案としたため、1997(平成9)年に環境影響評価法が成立し、2000(平成11)年に完全施行されるまでの長期間、閣議決定というあいまいな制度で行われてきた苦い経験がある。
また、望まれる効果を十分持つには、環境基本法などの上位にあたる法律の規定を変えたり(例えば、環境影響評価実施者の規定等)、政策評価法など複数分野に関わる法制度との関係(例えば、全国計画のない一般鉄道のような公共的事業や、全国計画があっても量のみで立地の配置計画がないもの。または環境影響評価と適用除外事業との関係等)を明確にする必要があると考えられる。完全性を高めたものを求めることは重要であるが、その間、これまでの法律のまま進めることは不利益が大きいと考えられる。
この点で見直しのタイミングは改正法施行後10年と記されているが、土壌汚染防止法など規定は10年でも6-7年で見直した例にならい、速やかに検証・研究し、見直す必要がある。
4. 環境対策は、温暖化、生活環境、生物多様性の両立を目指すべきもの
法改正で加わったSEA(戦略的環境影響評価)を目指す第一歩の手続きや、方法書段階の説明会等で事業者のコストや時間がとられ、経営に負担をかけ温暖化対策が進まなくなるとの意見があると聞く。しかし、CSR(企業の社会的責任)の観点から、国際的に通用する日本企業であるためにも、地域社会や関係者に早い段階できちんと説明ができることや、事業を実施するに際して生物多様性保全への考慮が的確にでき、義務化されていないものでも行うことが現代社会に通用する企業として必要な要件であろう。
現在の風力発電所(例えば、福島県天栄村・白河市)や原子力発電所(例えば、山口県上関町)の建設は、各地で地域の生活環境や生物多様性の保全に抵触する状態が発生し、環境問題の原因となっている。また、現在の発電事業、特に風力をはじめとする自然エネルギー利用による二酸化炭素削減に対する効果は疑問で、他者に火力発電所を減らしてもらうことで成り立つ形にみえ、このレベルの温暖化対策を続け、生活環境や生物多様性保全を差し置いてすすめるべきものと考えるとすれば、誤りである。2005(平成17)年、本法律の基本的事項に追加された「基準達成型からベスト追求型」への転換や、「客観性・透明性・わかりやすさの向上」の必要性等を強く認識する企業には、今後、社会的プラスの評価が与えられ、利益を生み出す要素になるものと考えられる。トータルにみて効果があり、かつ生活環境や生物多様性の保全と両立する温暖化対策が期待されている。