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鳩待峠に集中する観光客 尾瀬国立公園の利用の今後とは?

2010.05.01
活動報告

会報『自然保護』No.515(2010年5/6月号)より転載


尾瀬ヶ原は日本最大の高層湿原で、標高の高さと多雪な盆地という条件が、過去の時代にできた寒冷地の環境と生物相を今も維持しています。

NACS-Jは戦後、この自然を水没させるという発電計画に反対する活動から生まれました。生物多様性を守るにはいろいろな生態系があることが基本であり、尾瀬には今も特別な目を向けています。温暖化という現象から寒冷な環境をどう守るかも、緊急の課題です。

日本の国立公園は全国どこでも、利用のあり方のあいまいさが常に問題になっています。利用といっても、資源利用、観光利用、教育利用というような利用の種類や、そのための道路(車の使い方)や施設のふさわしさといった便宜のあり方があり、これらと自然性の折り合わせ方は現実には大変難しく、理屈通りにはいきません。

年間30万人以上が訪れる尾瀬にも、地域には一般的な観光地と同じように商業利用の期待があり、自然保護上期待されることとの折り合いはついていません。エコツーリズムのような取り組みも、質の前に経済性が問題になるのが現実です。

折り合いのつけ方について、環境省の関東地方環境事務所が3月26日に第5回・尾瀬国立公園協議会を開き、私も委員として参加しました。委員は30人、うち20人は行政と観光業にかかわる方々です。この日の出席は18人でしたが、これでも話し合いには多過ぎる人数でしょう。

最初の議題は「今後おおむね5年以内に取り組む事項」でした。自然の状況の的確な把握や適正利用の仕方という大事なテーマが選ばれているのですが、「○○の充実」や「○○の促進」といった既存の活動の努力目標を述べるにとどまり、残念ながら有効な中身を詰める機会にはなりませんでした。

山ノ鼻に向かう人々.jpg▲鳩待峠から尾瀬ケ原の入り口・山ノ鼻に向かう人々。訪れる人たちは特定の時期・曜日に特に集中する。

2つめの議題は、上記委員の中の12人で構成され、2月25日に開かれた快適利用の促進(利用分散等)小委員会での「自動車の利用の適正化」の方向性についてでした。「障がい者と高齢者への便宜を」や「すべて低公害車への切り替えは、誰がどう決めればできるのか」という注文や質問が出されたものの、それに誰も答えられない中、「夏までに3回の会議をする」などの事務的なことを承認するだけにとどまりました。

 

利害関係者だけでは、総合的な保護と利用のしくみはつくれない

尾瀬に限りませんが、このような会議体はたくさんあり、毎回個々別々のテーマが同じような顔ぶれと手順で開かれるため、会議参加者の出席への負担は多く、効率も悪く、論議が深まらないという嘆きも参加者から聞かれました。これらに出て分かるのは、国立公園の管理行政は地元の要望に○×をつけることが基本で、地元に総合的なアイデアと財源がない場合、現状が続くという現実です。

総合的な保護と利用の組み立ては、利害が絡むため関係者だけでは到底つくれません。しかし、その間に社会環境は変わってしまいます。尾瀬は国立公園のモデルといわれるので、時代に見合った保護と利用の現実的な原案づくりは、立場の違う、利害と離れたグループでつくったらどうでしょう。行うことと我慢することの関係をはっきりさせ、何を得て何は期待しないかを詰めることは、地域にも制度にも有益だと思います。

(横山隆一・NACS-J常勤理事)


ご参考

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