成果を国有林の森林計画に反映させ、生物多様性保全型の森林計画へ転換します。
会報『自然保護』No.515(2010年5/6月号)より転載
森林計画を定める前に管理方針を3者協働で作成
地域住民で組織された地域協議会、林野庁関東森林管理局、NACS-Jの3者が、赤谷の森で協定に基づく活動を開始して今年3月で丸6年が経ちました。この6年間の協働の成果として、生物多様性保全型の森林管理のあり方を取りまとめた「赤谷の森・基本構想」をつくりました。
国有林の管理方針を定める「森林計画」は、5年ごとに林野庁がつくります。来年3月に改訂される赤谷の国有林の森林計画は、今回3者協働でまとめた「赤谷の森・基本構想」に沿って策定されます。このことは、生物多様性保全と地域住民の声が国有林の森林計画に反映されるという点で、今までの国有林にはなかったまったく新しいしくみができたことを意味します。
科学的根拠に基づく生物多様性保全を進めるために、植生・猛禽類・哺乳類・渓流環境の各専門分野の観点から、赤谷の森では生物多様性の現状評価(健康診断)を進めてきました。その結果、森の健全さを指標するイヌワシ、クマタカの繁殖成績は良好であることが分かりました。一方で、以前は山奥でしか見られなかったニホンザルが人里に出没したり、防災上必要とされ設置された治山ダムがイワナやカワネズミの生息する渓流の連続性を分断していたりするなど、自然と人間の関係にゆがみが生じているという課題が浮かび上がってきました。
赤谷の3割を占める人工林の大半を自然林へ
これらの課題を踏まえ、望ましい森林の将来像は、赤谷において〝本来あるべき生態系をもつ自然林(長期的には潜在自然植生)を中心とした森林”としました。このため、赤谷地域の3割の面積を占める人工林の大半は自然林へ誘導します。木材生産に適した場所では、当面、生物多様性に配慮した伐採を行うなど、生物多様性保全型森林計画へ転換することになりました。人工林から自然林への復元や、治山ダム撤去による渓流生態系復元などAKAYAプロジェクトが進める生物多様性復元は、前例のない先進的な取り組みである一方で、その手法は確立されていません。そのため、赤谷の森で実施する事業は、その時点で最も良いと考えられる手法を実行し、事業の途中段階でさまざまなモニタリング結果の評価検証を行いながら、管理手法を見直していく「順応的管理」の考え方に従い実施していきます。
(藤田 卓/保護プロジェクト部)
「赤谷の森」の現在の植生の分布状況
人里に近いところはカラマツ林・スギ林を主体とした人工林とコナラ・ミズナラ林を主体とした二次林が多く、標高の高いところには樹齢100年以上のブナ林などを含む自然林が多い。
人工林の大半は自然林に復元する予定。
本来の自然林の植生分布についてはAKAYAプロジェクトのウェブサイトを参照。