環境影響評価制度専門委員会報告書(案)に意見を提出しました。
日本自然保護協会 大野 正人
世界の絶滅危惧種の危機要因は約8割が「生息地の破壊」であり、我が国で様々な開発から「生息地の破壊」を防ぐには、環境影響評価法をより強制力と効果力をもった法制度にすることを訴え、提言を行ってきた。この度、まとめられた専門委員会報告に対して以下のように意見を述べる。
■意見1 環境・生物多様性の時代の環境影響評価法改正 <Ⅰ.>
生物多様性条約締約国会議が日本で開催される機会に、環境影響評価法の改正の時期を迎えた意味は、環境への配慮にとどまらずに開発行為そのもののあり方を社会と世界に問い続けることにある。その意味から、改正・環境影響評価法は、環境基本法に加えて生物多様性基本法にも基づく、法体系としなければならない。例えば、計画の事業決定を総合的評価で判断する際に、環境基本法の基本理念、生物多様性基本法の基本原則をもとに環境面の影響評価が、経済性よりも優位にあるように位置づけることが環境・生物多様性の時代の社会として必要である。
■意見2 SEAの導入にあたり民間事業を特例にしない <Ⅱ.1.(2)>
日本自然保護協会は、戦略的環境アセスメント(SEA)の制度化をこれまで何度も要望し、ヒアリング等の場でも提言をしてきた。これまでは踏み切れずにいたものを、SEAの導入した法改正には期待したい。一方で、電力事業者は、新たな手続きを課せられると、民間事業を含めることに抵抗している。平成19年の「環境省SEAガイドライン」を策定する際に、経済産業省と電力関係の議員により、民間事業を除外してしまった二の舞は避けるべきだ。計画の早期段階から公開して、環境評価の面から比較検討する機会を前向きにとらえれば、環境の時代だからこそ社会や地域からも信頼を得やすくなることも期待できる。この委員会報告では、「公共事業だけでなく民間事業も含めた事業の計画策定者も対象とすべき」という姿勢を示しつつも、「事業主体や内容の特性に応じて、柔軟な制度に」としたことを裏目に、特定の事業だけ特例として骨抜きにすること可能だ。今後の制度設計ではそのようなことがないよう堅持していただきたい。
■意見3 SEAの導入にあたり、ゼロオプションも比較する <Ⅱ.1.(2)>
委員会報告では、原則として複数案の比較検討をすることが明記されているが、ゼロオプション(つくらない)には何も触れられていない。ゼロオプションの選択肢を設けておかなければ、事業実施を前提している事業アセスと何も変わりがない。計画の早期段階から、常にゼロベースの状態と比較評価したうえで事業を判断していくことこそがSEAには必要である。
■意見4 上位計画・政策検討段階も含めた本来のSEAの必要性 <Ⅱ.10.(1)>
委員会報告でも「今後の課題」の筆頭にあげているが、本来のSEAは、上位計画や政策の検討段階を対象とした枠組みである。委員会報告のSEAは位置・規模等の検討段階であるため、より広域的な影響や既存施設や計画など複合的影響などまで評価できない可能性もある。国土的な視野にたったグランドデザインや、環境面だけではない社会性、経済性も含めた検討が、国民の関与を確保したうえで行う本来のSEAの枠組みを早期に検討しはじめる必要がある。
■意見5 風力発電事業をアセス法対象化にする <Ⅱ.2.(5)>
山間部に乱立し地域の自然環境や希少猛禽類への影響が懸念されてきた風力発電事業を法アセスの対象化することは重要である。NEDOマニュアルによる手続きでは意見聴取が不十分な場合があることが専門委員会で指摘され、比較的新たな事業のため健康被害なども心配されていることから、委員会報告では法対象化について両論併記をすべきではない。また、対象事業化にあたっては、自治体によっては条例アセスの対象としていないこととの整合性をはかること、一律に規模や発電量だけで区切らないように運用することが必要である。
■意見6 国のアセス審査会を常設設置する <Ⅱ.9.>
環境省では「外部の有識者の知見を得ながら必要な調査・検討を行い、その結果を踏まえて審査を行っている」ことになっているが、具体的な専門家は明確ではなく、手続き不透明ななかでは、環境大臣意見に社会的な理解は得られない。この委員会報告では方法書段階から環境大臣意見を述べることができるようになることも踏まえると、国土的視野にたったバックグランドとして有識者の審査会を常設すべきである。環境行政のトップとして、知事とは視野が異なるため、都道府県の審査会とは役割も異なる。また、発電所事業の顧問会や都市計画の審議会等とも役割分担は可能である。海外では、第三者性に違いはあるものの国レベルでの審査体制を持っている。
■意見7 法と条例アセスが一体として効果を持たせる <Ⅱ.2.(1)>
環境影響評価法の成立時に条例アセスの整備が進んでいた経緯や、現代の地方分権の流れを背景に、委員会報告では「法と条例の役割分担を尊重すべき」としているが、法と条例で対象事業の違いや、現状導入の少ないSEA条例の有無によって、アセス漏れの事業は生じてしまう。法と条例が一体となって幅広く環境アセスが実施されていくには、国が、自治体に対して、SEAの条例化や自然環境情報の蓄積・活用を促すことが求められる。
■意見8 公告縦覧と意見提出の期間を柔軟に運用 <Ⅱ.7.(1)>
委員会報告ではアセス図書の電子縦覧と意見提出手続きの電子化が義務化することが示されている。市民側からは、縦覧に比較的アクセスしやすく意見提出しやすくなると期待できる。一方で普天間代替施設に係るアセス準備書は三部刷りの総5,400ページという情報量で、NACS-Jでも複数名専門家が分担して解読・分析をし、問題点を洗い出す作業を短期間に行わなければならなかった。このような膨大な情報量を電子化されたとしても、市民が扱うには時間と労力も必要なため、一律に期間を定めるのではなく、文書量や社会的関心に応じて延長できるようにすべきである。