「第3次生物多様性国家戦略の閣議決定」に対してのコメント
2007年11月27日
「第3次生物多様性国家戦略の閣議決定」に際しての日本自然保護協会コメント
(財)日本自然保護協会(NACS-J)
保護プロジェクト部部長代行 大野正人
保全研究部 道家哲平
本日、第3次生物多様性国家戦略(以下、第3次戦略)が閣議決定された。新・生物多様性国家戦略(第2次戦略)の見直しのための懇談会も含め約16ヶ月に及ぶ議論の中で、NACS-Jは、各地で起こる生物多様性の損失の状況から、一貫して「国家戦略の実効性を高める」ことを指摘し、数値目標の設定や行動計画の必要性を提言してきた。また、NACS-Jが事務局を担うIUCN(国際自然保護連合)日本委員会と協働して、国際的な生物多様性保全の情報も積極的に提供してきた。
第3次戦略は、自然保護制度の再構築や生物多様性保全と逆行するような開発計画を抜本的に見直すまでにはいたらなかったが、数値目標の設定や国際的な視点を盛り込んだ施策など新しい方向性を打ち出した点、あるいは地方説明会の開催やNGOや地方自治体、企業へのヒアリングを行うなどその検討プロセスに際して多くの関係者を巻き込んだことなどは、一定の評価ができる。
第2次戦略は、里やまに代表されるような人の自然に対する働きかけがなくなることで起こる生物多様性の危機(第2の危機)などが注目され、里山保全に携わる活動が活性化した。第3次戦略の評価は、あくまでも「戦略の実現(実効の有無)」で見極めなければならない。その際の評価軸としてNACS-Jは、第1部「基本戦略」((1)生物多様性の社会への浸透、(2)人と自然の関係の再構築、(3)森里川海のつながりの確保、(4)国際的視点)とそれに基づく「生物多様性総合評価」などに注目している。
第3次戦略では、生物多様性総合評価を通じて、「ホットスポット(重要地域)の選出」「生物多様性のシナリオ分析」「優先施策の課題整理」などを行うとされている。例えば、沖縄県・泡瀬干潟や辺野古・大浦湾のように環境省が重要湿地500(2001年)と選出しても、開発の回避や保全策が講じられないようでは意味がない。今後、この生物多様性総合評価をもとに、土地利用の制御をし、生物多様性保全の様々な施策に着実に効果をもたらすための社会・政策的枠組みが必要である。
このように、生態系総合評価によって明らかにされる「日本の生物多様性の危機状況」とその予測を受け止められる社会の状況をつくり、その危機状況を具体的に克服していくことが今後の国家戦略には求められている。そのため、基本戦略に掲げた「生物多様性を社会に浸透させる」ことが重要であり、市民生活と生物多様性との関わりなどの普及のみならず、「地方版生物多様性戦略」や「生物多様性企業活動ガイドライン」の作成など、生物多様性保全の取り組みに、できるだけ多くの自治体や企業を巻き込んでいくことが課題である。
これまで関係閣僚会議の決定で済ませていたものを「閣議決定」にまで高めた意味は極めて大きく、この第3次戦略を、画餅に帰することなく、国の戦略として全省庁的に達成することを宣言したに等しい。また、生物多様性条約第10回締約国会議(CBD/COP10)を誘致している日本が世界に打って出るための「ツール」となるかが問われている。
NACS-Jは、第3次戦略の実行に向けた自然保護の法制度の強化や予算配分など政府今後の展開に大いに期待し、NGOの立場でこれからも生物多様性保全を推進する一翼を担いたいと考えている。
以上