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生物多様性条約締約国会議COP10に向け
NACS-Jポジションペーパー ポスト2010年目標を発表

2009.10.16
要望・声明

 Position paper on  ポスト2010年目標

“2020年までに、生物多様性の劣化を食い止める。
そのために、生物多様性の損失につながる要因を最小化するとともに、
生物多様性の保全・回復に向けたあらゆる取組みを最大化する”

 

ポスト2010年目標についてのNACS-Jのポジションペーパー
NACS-J Position Paper on Post 2010 Target

2009.10.10

(全文PDFファイル/1.36MB 和文・english) 


前文

 日本自然保護協会(NACS-J)は、1951年の設立以来、生物多様性の損失につながる開発に対する保護・政策提言活動、環境教育の人材育成、市民の手による地域自然の保全に向けた調査・研究活動の支援や仕組みづくりなどを通じて、日本国内の生物多様性保全に取り組んできた。
2010年に名古屋で開催される生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10)の最重要課題の一つは、生物多様性条約戦略計画(2002-2010)の改訂、すなわち、ポスト2010年目標の設定である。ポスト2010年目標については、2010年開催の科学技術助言補助機関会合(SBSTTA)や条約の実施レビューに関する作業部会(WGRI)等の国際会議、UNEP-WCMC生物多様性指標パートナーシップ報告書や地球規模生物多様性概況第3版(GBO3)といった報告書の成果を踏まえて、国際的な合意形成がおこなわれていく。
このポジションペーパーは、これら一連の検証プロセスに先駆けて、NACS-Jの基本的考え方を示すものである。今後は、国内外の動向を踏まえ、様々な機会を捉えてNACS-Jの提言と立場を表明していく。

骨子

(1) 日本における2010年目標の取り組みの評価
●日本の生物多様性に対する脅威の多くは、開発等の人間活動、外来生物などによるものであり、未だに取り除かれていない。日本においては、生物多様性保全に関する基本法的な制度は整備されつつあるが、2010年目標を達成するための具体的取り組みは、あらゆる主体において不足していた。

(2) ポスト2010年目標のあるべき方向性
●生物多様性は土地固有のものであり、市場メカニズムなど経済的手法で安易に代替できるものではない。2020年までに、生物多様性のこれ以上の劣化をくいとめるために、損失につながる要因をゼロまたは最小にし、生物多様性の維持・回復のためのあらゆる取り組みを最大化する必要がある。
●生物多様性保全は全地球市民が取り組まなければならない課題であり、政府、自治体、企業、市民、NGO、専門家などあらゆる主体が、生物多様性を理解し、戦略計画の目標達成ための担い手となるべきである。

(3) ポスト2010年目標の達成に向けたNACS-Jの行動計画
●NACS-Jは、ポスト2010年目標の達成に貢献するために、地域に根ざした生物多様性保全プログラムを推進する。

1. 日本における2010年目標の取り組みの評価

(1) 日本の生物多様性の現状
第3次生物多様性国家戦略(2007年11月)で示された、日本の生物多様性に関する4つの危機は、日本政府が第4次国別報告書で示した認識以上に深刻である。

1. 開発などの人間活動による危機
干潟・サンゴ礁の埋め立て(例:沖縄島・辺野古米軍基地建設、泡瀬干潟埋め立てなど)やダム・河川開発(例:北海道・サンルダム、徳島県・吉野川河口)、道路建設など大規模開発が公共事業として続いており、生物多様性をそこなう自然保護問題として顕在化している。自然林の縮小や分断の速度は、この十数年で鈍化しているが、それはこの数十年間の人間活動の結果、伐るところがなくなるところまで行き着いたと理解すべきである。また、ヤンバルテナガコガネ(沖縄)、ヘツカラン(鹿児島)などに見るように、希少種を絶滅の危機に追いやる盗掘被害が、後を絶たない。

2. 人間活動の縮小による危機
人間の暮らしによって維持されてきた里やまにおける生物多様性の喪失が進み、その保全を進める際に、4割近くの現場が担い手・後継者の不足・不在に悩んでいることがわかっている。何より、里やまのような環境にあっては、第一次産業が健全に維持されることが、生物多様性の保全にとっても重要である。

3. 人間により持ち込まれたものによる危機
外来カメの増加やカエルツボカビの侵入、アライグマによる生態系の攪乱などが進行している。特に、固有動植物種の多い小笠原諸島や琉球諸島では、外来のグリーンアノールやマングースなどによる生態系への危機が深刻さを増している。

4. 気候変動による危機
サンゴ礁や高山植物など、環境変化に敏感な生物群集に、その生息域の変化や絶滅の危機が起こっている。地球温暖化による生物多様性の危機は、今後も懸念がある。

5. 他国の生物多様性との関係
日本をはじめとする先進国の多くは、他国から農作物、木材資源などを輸入している。輸出国においては過度な資源利用により生物多様性が劣化し、自国が享受する生態系サービスを減少させ、貧困をもたらす要因の一つとなっている。また、先進国においては農作物や木材資源の輸入により、自国の第一次産業の衰退が生物多様性の危機をもたらしている。こうした世界規模の物流による生物多様性の劣化が進んでいる。

 (2) 2010年目標への取り組みの評価

生物多様性の劣化をもたらす人間活動が抑制されず、2010年目標は達成されなかったといえる。日本政府のみならず、あらゆる主体において、生物多様性条約及び2010年目標への認識がきわめて不足していた。2002年のCBD-COP6において2010年目標(戦略計画)が採択されていたにもかかわらず、日本政府がその責務を認識し、国家の目標としたのは、2007年11月のことであった。

生物多様性保全の取り組みにおいては、制度面は一定の進展が見られたが、実効性の面でいくつもの問題を抱えていた。

(制度・政策の整備)
●2002年以降、国内レッドリストの改訂作業を全分類群に対して実施し(2002-2007年)、外来生物法(2004年)、生物多様性基本法(2008年)等が創設され、生物多様性国家戦略の見直し(2002年、2007年)を行い、生物多様性保全にとりくむ基本的枠組みが整備されたことは評価できる。
●一方、生息地を破壊し、生物多様性を著しくそこなう公共事業等の開発や人間活動の見直しは行われず、生物多様性の損失要因への取り組みは不足していた。

具体的な政策的問題点としては、

1. 開発事業による生物多様性の損失をゼロまたは最小限に押さえるための環境影響評価制度に多くの問題を抱えている。環境影響評価の対象事業は事業種や規模だけでなく、生物多様性への影響の度合いからも判断すべきであるとともに、事業計画が決まる前の早い段階で行う戦略的環境影響評価(SEA)の法制化が必要である。

2. 生物多様性の保全上重要な場の保護地域化が十分に進んでいない。NACS-Jがまとめた「植物群落レッドデータブック」では、水辺の植物群落が危機に瀕していることを示してきたが、湿地や河川、海岸、沿岸の保護地域化が立ち遅れている。

3. 外来種や気候変動による生態系への影響の除去・回避のための取り組みが進んでいない。

(国民の理解・参加)

●生物多様性保全のために、NGOや市民が里やま、干潟・海岸など身近な自然の調査・保全に取り組んでいる。企業や自治体でも、生物多様性保全の取り組みや保全戦略を作る事例が増加している。
●一方で、内閣府の「環境問題による世論調査」(2009年6月)では、生物多様性という言葉を「聞いたことがない」という人が61.5%に上っており、生物多様性に関する理解が進んでいない。

(科学的情報の活用)

●生物多様性の保全に必要な科学的情報の集約は、科学者・市民のネットワークによって蓄積されているが、その成果が政策に十分に活用されていない。環境省生物多様性センターのような公的な機関は、省庁間の垣根を超えて生物多様性に関する科学的情報の集約機能を果たすべきである。
日本の生物多様性保全の大きな問題点は、生物多様性保全があらゆる政策に浸透しておらず、政府全体として取り組む課題となっていないことと、科学者、市民、NGO、企業など多様な主体が行っている取り組みやその成果が、政策形成に十分活用されていないことにある。

2. ポスト2010年目標のあるべき方向性

(1) 目標設定
●2020年までに、生物多様性のこれ以上の劣化をくいとめる。そのために、生物多様性の損失につながる要因をゼロまたは最小化するとともに、生物多様性の保全・回復に向けたあらゆる取り組みを最大化する。
●2050年までに、あらゆる人々が、人類の生存と福祉の基盤である生物多様性とそれがもたらす生態系サービスの重要性を理解し、生物多様性の状況を2010年のレベルかそれ以上で維持し、人と自然の持続可能な関係を構築する。

(2) 目標達成のための基本方針
●生物多様性は土地固有のものであり、他地域に置き換えること、市場メカニズムなどの経済的手法で容易に代替することはできない。このため、その損失を防ぐための取り組みが最優先で実行されなければならないことを認識する。
●生物多様性保全は気候変動対策と並び、全地球市民が取り組まなければならない課題であることから、全地球市民が安全で健康な生活を支える生物多様性について理解を深めなければならないことを認識する。
●政府だけでなく、自治体や企業、市民、NGO、科学者などあらゆる主体が、戦略計画が達成すべき目標の担い手となるよう、目標達成のためのすべてのプロセスの情報公開と共有を進め、市民参加を保障する。

(3) 目標達成のために必要な事項
1. 各国における法制度の整備、取り組みの促進
●生物多様性損失の要因を取り除き、その保全を進めるために、各国が法制度の体系的整備を行う。
●ポスト2010年目標に対して、さらに目標の積み上げをした国別目標設定を奨励する。
●日本においては、生物多様性の損失要因の中でも規模の大きな、政府や地方自治体による公共事業のあり方を見直す。

2. 科学的情報の活用と指標の開発
●科学的な指標は、森林面積や、種の保護状況など生物多様性の構成要素のみならず、森・川・海といった異なった生態系間の連続性、生態系機能に着目して作成する。
●市民やNGOが地域の自然の変化をモニタリングした成果を、科学的な指標にフィードバックする仕組みを構築する。
●地域で土地利用や開発の意思決定を行う際には、自然科学、人文社会科学双方から得られる知識や、地域で育まれた文化的価値を生物多様性の評価に組み込んだ上で、地域社会を巻き込んだ総合的な意思決定を行う。

3. 生物多様性保全型第一次産業の推進
●生物多様性の劣化につながらない持続的な農林漁業の推進のため、すでに導入が始まっている生産物に対する認証制度を強化・普及と、認証制度に関する更なる取組みを奨励する。

(4) 取り組みの実施と目標達成の検証に向けた確実な枠組み
1. 計画の実施を促進するキャパシティ・ビルディング
●生物多様性保全に関する教育・人材育成システムを行政、企業、市民の各セクターにおいて構築する。
●自治体や企業が生物多様性保全戦略の指針づくりを進めるための枠組みを整える。
●生物多様性を保全するための資金メカニズムの構築においては、資金の持続性を確保するとともに、その使途について各国のNGOの意見が反映されるようにする。
●条約事務局と各国のNGOがより緊密に連携し、市民レベルでの取り組みの推進をはかり、NGOが各国で目標達成のための主要な主体の一員として活躍する枠組みを整える。

2. 計画の実施を促進するメカニズム
●条約と加盟各国に、科学者、NGO、市民参加の条約実施レビュー作業部会をそれぞれ設置する。
●COP11に、ポスト2010年目標達成に向けた取り組みの国別報告書を共有し、その際には各国に市民・NGOの意見聴取を義務とする。

3. ポスト2010年目標の達成に向けたNACS-Jの行動計画

NACS-Jはポスト2010年目標の達成に向けて、生物多様性保全を実現するため、次のような行動を推進し、目標達成に貢献していく。

開発事業などにより危機に瀕した場の保護

●日本においては、海岸埋め立てやダム建設等の、生物多様性を劣化させる開発事業が未だに行われている。開発事業や環境影響評価制度の運用の監視、法制度への提言を通じた、生物多様性の損失要因を確実に除去するための行動を進める。

多様な主体による生物多様性保全と持続的利用のモデル構築

●地域住民、行政機関と協働で進める「赤谷プロジェクト」、「綾プロジェクト」等、地域生態系管理に基づく持続可能な地域づくりの先駆的事例構築を進める。

市民・科学者のネットワークによる地域生態系モニタリングと保全

●世界自然遺産地域・自然保護区等のモニタリングや、里やま、干潟、海岸など、市民参加による身近な自然のモニタリングを通じた、土地固有の生物多様性の評価・保全活動を展開する。
●科学的情報の活用にあたっては、政府と市民・研究者のインターフェイスとしての役割を果たす。

生物多様性と市民の接点をつくりだす「生物多様性の道」プロジェクトの推進

●多くの市民が、自分たちの地域の自然やそこからもたらされる生態系サービスの価値に気づき、関心を持つために、1. 全国各地の「生物多様性の道」の登録、2. 生物多様性の守り手ガイドブックの作成、3. 生物多様性を実感するための研修会、4. 市民調査の活性化、5. 市民活動と企業のCSR活動のマッチング、6. 生物多様性保全の課題と問題解決方法を学ぶスタディツアーを実施する。

生物多様性保全の担い手育成と教育活動

●1978年以来2万人以上を養成してきた「NACS-J自然観察指導員」を中心とする、地域の環境教育活動を通じて、生物多様性保全の担い手を育成する。

以上

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