渓流環境復元のための治山ダム撤去工事が始まりました
会報『自然保護』2009年11/12月号より転載
治山ダムとは、山の崩壊による土砂流出で災害が発生することを防止するため、土砂を貯める機能を持つ施設で、約3㎞(流域面積630ha)の茂倉沢には、昭和20~30年代にかけて本流に12基、支流に5基の治山ダムがつくられてきました。
いずれも建造から50年前後が経過し、老朽化に伴なう改修の必要があることから、この機会を活用し、防災機能の維持とともに、本来の渓流の復元に向けた環境修復にチャレンジすることとしました。このため、AKAYAプロジェクト内部にワーキンググループをつくり、また、治山事業を行う関東森林管理局には技術面の検討を行う委員会を設置し、検討を進めてきました。
全国各地の治山・砂防ダム 施策への新たな提案を目指す
今回、中央部を撤去する通称「2号ダム」(下流から2番目のダム)は、1962年に建造されたもので、2002年の台風により、一部に底抜けを起こし、堆積していた土砂が下流に流出していました。実験的な取り組みがいち早く可能になったのは、土砂の一部がすでに流出していること、下流には土砂流出による被害を被る可能性のある人家がほとんどないことなど、条件が整っていたことが挙げられます。
▲黄色枠部分を残し、中央部(幅8.6m × 高さ9m)を撤去する通称「2号ダム」(全幅28m)
これまで国や自治体の施策でも、治山ダムの堤高を低くしたり、基礎を残してスリット化するなど、さまざま改修が各地で行われてきましたが、沢をまたぐようにダムをつくり、自然本来の流れを遮断していたダムを撤去するということは、これまでのダム関連施策の常識をうち破る画期的な作業であるといえます。
撤去工事は11月中に終了予定で、その後は工事前から行っていた土砂の移動、周辺の植生、イワナなど魚類の分布、カワネズミの生息状況などの追跡調査を継続します。
政府は10年ほど前に、川の源流から海岸までの土砂運搬を一体的に考える「流砂系の総合的な土砂管理」の考えを打ち出しましたが、全国各地で、河川が供給する土砂の減少による海岸線の後退が指摘されています。この活動を通じて、赤谷の森だけでなく、流域全体を考えた自然再生のモデルケースとして科学的知識を蓄積し、今後、全国各地で改修時期を迎える多くの治山ダム、砂防ダムの管理に対して新たな考え方を提供したいと考えています。
(茅野恒秀/保護プロジェクト部)
▲2009年10月26日、撤去工事着手。大型重機の先にブレーカーを装着して、中央部のコンクリートを除去する。
▲2009年11月30日、撤去工事終了。写真は12月14日の茂倉沢の様子。渓流環境の連続性が戻りました。