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3年間の調査で分かってきたヤクシカの実態

2009.09.03
活動報告

会報2009年9/10月号より転載


NACS-Jは、2006~08年度までの3年間、「屋久島世界遺産地域における自然環境の動態把握と保全管理手法に関する調査」を実施しました(環境省委託)。
調査の目的は、屋久島の生態系の状態・変化を把握すること、自然生態系の変化に影響を与える要因を明らかにし、保全・管理手法の検討を行うこと、継続的なモニタリング体制を整えることです。気象、地形地質、植生、動物(ほ乳類、昆虫類)に注目し、全島の分布状況、標高に沿った垂直分布を調べたほか、過去のデータを解析し年代に沿って変化を調べ、GIS(地理情報システム)で重ね合わせ相互関係を明らかにしました。

ヤクシカの分布と個体群変動

ここではヤクシカ(以下シカ)の個体群密度に関する結果を中心に報告します。
全島30カ所に設置した450機の自動カメラによる撮影と、4×50mの範囲の糞塊を一旦除去して1カ月後に新しく残された糞塊を数える糞塊法により、個体群の密度の推定を行いました。その結果、シカの数はおよそ17,000頭とされ、500km2の面積の島に平均して1km2あたり約34頭生息すると推定されました。分布には偏りがみられ、西部の低地部(150頭/km2)、北部の低地部(40頭/km2)、高標高域(50頭/km2)に集中していることが分かりました(図)。

090901ヤクシカ全島分布.jpg

090901糞塊法による推定密度.jpg

▲図:ヤクシカの全島分布と保護地域及び自然林の分布との関係 (2008年度 報告書より)左図の赤丸は自動カメラで把握したシカの個体群密度。右図は糞塊法による密度推定の結果(頭/km2)。

シカ個体群の密度と林床の植物にみられた食痕率との関係をみてみると、初めはシカの密度が高くなると食痕率も上がりますが、約20頭/km2以上の密度になっても食痕率は変わらないことが分かりました。これはシカの餌資源の約8割は落ち葉に頼っているため、密度が高くなると落ち葉への依存度が増すからではないかと考えています。また、過去の資料から、シカの全頭数は50年代には6,000~10,000万頭、60~80年代は1,500~4,900頭と推定され、自然状態でも大きく変動していることが分かりました。

屋久島の保全管理に向けて

80年代以降のシカの増加は、50年代と比べて大きいと推定されています。一方、屋久島での木材の収穫量をみると、60~80年代が最大となっていました。伐採後の大規模な草地がシカの餌場となり、増加の一因になったと思われます。また、年平均気温は80年代後半から上昇傾向にあり、シカの増加と近年の温暖化の関連も考えられます。

林相図や保護地域との重ね合わせから、増加したシカはスギ人工林よりも自然林、すなわち保護地域に集中していることが分かりました。また、島では斜面の崩壊が頻繁に起きており、その要因としてシカの食害が土壌侵食を引き起こすと考えられていましたが、斜面崩壊発生個所はむしろスギの人工林において頻発していることも分かってきました。

最近、自然林において、これまでシカが利用していなかったボチョウジ(アカネ科)が食べられるなど、林床植生への影響が顕著になってきました。自然林に極端に分布が集中した状態が続くと、シカの食性が変化し、林床植生に大きなインパクトを与える可能性があります。

シカの増減に植林地や集落周辺の造成地の拡大が大きくかかわっているとすれば、屋久島の健全な生態系を保全管理するために、除去によるシカの個体数調整だけでなく、現在の土地利用のあり方や、その管理の仕方そのものを見直していく必要があります。

(朱宮丈晴・保全研究部)

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