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「環境影響評価制度総合研究会報告書(案)」に 意見を提出しました。

2009.07.04
要望・声明

NACS-Jが指摘した主な問題点

  1. 環境影響評価法改正の方向性や軸となる論点を示していただきたい
  2. 現代社会で環境影響評価法に求められるものは何か
  3. 戦略的環境アセスメントの制度化が必須の状況にある
  4. 対象事業を自然・生物多様性の尺度からも判定するしくみへ
  5. 複数案の提示・比較検討は柔軟・順応的な事業実施につながる
  6. 国の責任において環境影響評価審査会を設置し、方法書段階から環境大臣意見を
  7. アセス資料の電子化による公開と意見受理を推進する
  8. 事前調査の制限とNGOも含めた協議の場が必要



環境影響評価制度総合研究会報告書(案)に対する意見


2009 年6月26日

環境影響評価制度総合研究会報告書(案)に対する意見

環境省総合環境政策局環境影響評価課 御中

(財)日本自然保護協会
保護プロジェクト部
部長代行 大野 正人


意見1:環境影響評価法改正の方向性や軸となる論点を示していただきたい(全般)

本報告書は、総じて両論併記の羅列のうえ、「時期尚早」というまとめが散見され、法改正のための方向性がまったく示されていない。環境影響評価制度総合研究会は、1年にわたり会合を続けてきたにもかかわらず、環境影響評価法施行10年の検証も不十分なまま、今後の環境影響評価のあるべき姿を示していないことに危惧を感じる。法施行前から、環境影響評価制度のあるべき姿を追究してきた自然保護NGOとして、本研究会のヒアリングの場(2008年10月3日)で、地球環境・生物多様性の時代の要請に応えるべく環境影響評価法の方向性と改善の提言を行った。その提言のいくつかは報告書のなかで触れられているものの、実現可能性が低い表現でまとめられている。最後の「5.まとめ」では、「4.課題」を踏まえ、環境影響評価法改正の方向性や、軸となる論点を示すべきである。

■意見2:現代社会で環境影響評価法に求められるものは何か(1.はじめに)
地球温暖化対策や生物多様性保全を中心とした環境政策の具体的かつ主体的な推進は、2010年生物多様性条約締約国会議(CBD/COP10)の議長国の姿勢として、国際的な面からも期待される責務である。ところが本研究会は、報告書冒頭「はじめに」で、「一つの結論を示すのではない」と消極的な立場から踏み出さない姿勢を、残念ながら表明している。過去の研究会の形式にとらわれたままでは、環境政策の実効ある進展は望めないのではないか。
環境影響評価とは、「人と自然(環境)が健全な関係を維持するために、人間社会が備える主体的な自己規制のしくみ」であり、その過程を公の場において推し進めることによって、社会的合意を築くことができるものと考える。その実現には、国際的な方向性や基準に照らし合わせた制度の改良がされるべきである。

■意見3:戦略的環境アセスメントの制度化が必須の状況にある(3-10、4-10、5-11)

環境影響評価制度が、「主体的な自己規制」「社会的合意形成の促進」の機能を果たすには、「戦略的環境アセスメント」(SEA)の制度化を合わせて進めるべきである。自然環境や生態系の評価や改変には、常に不確実性や不可逆性が伴う。このため、環境影響の回避・縮小・低減措置を柔軟に行い、また計画段階で複数案から事業選択を行うためにも、事業・計画の早期の段階でSEAを実施するしくみが求められている。位置・規模等の検討段階、さかのぼって上位計画や政策の意志決定時から環境配慮を行い、合意形成が図られれば、無用な軋轢も減るだろう。環境省は「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」を策定し、「実施事例を積み重ね、実効性等の検証を行うこと」をうたっているが、環境影響評価法制定時の付帯決議や環境基本計画、生物多様性国家戦略、生物多様性基本法など、SEA制度の必要性がうたわれている各法制度の問題意識との具体的な整合をはかるべきではないか。

■意見4:対象事業を自然・生物多様性の尺度からも判定するしくみへ(4-1、5-2)
法律で定める環境影響評価の対象を、事業種と規模に基づいて判定する方法を続ける限り、新たな社会的動きへの対応が遅れるばかりでなく、規模用件をギリギリにおさえる、いわゆる「アセス逃れ」をする事業が後を絶たず、悪影響の未然防止という観点から不十分である。例えば、風力発電事業はどのような規模でも法アセスの対象とならないが、現在は地方自治体の条例によって対象としているか否かで、事業者の負担や住民との合意形成を大きく左右する事態が生じている。
環境影響評価の対象事業を、事業種や規模だけでなく、自然環境・生物多様性への影響の度合いからも判断するよう改善すべきである。なお現状では、環境影響評価の実施や内容の判断の基礎となる全国情報の整備が十分でないことを踏まえ、法第四条第九項の判断基準を活用し、第2種事業の規模以下の事業でも、影響を受けやすい自然環境においては法アセスを適用するようにすべきである。

■意見5:複数案の提示・比較検討は柔軟・順応的な事業実施につながる(4-8)
事業の立地、規模も含めた計画段階で、事業を行わない案も含めた複数案の立案を現実的に行うには、「戦略的環境アセスメント」の制度化が合理的な方法として求められる。一方、ベスト追究型の評価の推進の現れとして、建造物の構造・配置、環境保全措置などにおいて、約8割にあたる事業が複数案の比較検討を行っていることを踏まえ、法律上も義務化し市民に複数案を提示したうえで、柔軟かつ順応的な環境保全措置を選択していくことを推進すべきである。

■意見6:国の責任において環境影響評価審査会を設置し、方法書段階から環境大臣意見を(4-3、4-9、5-4、5-10)
地方自治体の条例に基づく環境影響評価では、審査会が科学的な第三者機関としてチェック機能を果たし、また住民はその過程において事業の詳細を知る機会を持ち、事業アセスの限界はありつつも一定程度有効に機能している事例は多い。環境影響評価法においても、国の責任において環境影響評価審査会を設置し、各事業の環境影響評価へ監視・助言を行うとともに、科学的・客観的な見解をまとめ、環境大臣意見に反映させるようにすべきである。また、現行制度の評価書段階における環境大臣意見は、事業実施の直前ゆえに、事業への反映範囲が必然的に限られ実効性に乏しいため、方法書段階においても、環境影響評価審査会の見解を踏まえて環境大臣が意見するようなしくみを組み込むべきである。

■意見7:アセス資料の電子化による公開と意見受理を推進する(4-6、5-7)
2007年8月に縦覧された沖縄防衛局「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価方法書」は、縦覧方法が沖縄県内の限られた場所と時間帯で、しかも閲覧のみだったため、住民をはじめ各方面から批判を浴びた。このため、今年4月に縦覧された同準備書は、公告1週間後にホームページで全文が公開された。しかし準備書自体が約5,400ページという膨大な資料のため、ファイルは細分化され、データのダウンロードと印刷に多大な労力を要した。結果的に、地元NGOがダウンロードデータをとりまとめたDVDが広く活用され、約5,300通の意見書が提出された。現在のインターネット時代においては、資料の電子化によるアクセスの簡便化と、資料収集の容易さは飛躍的に向上している。本パブリックコメントも電子メールでの意見提出を認めているように、省庁の意見募集はほとんどが電子メールを活用するようになっている。アセス資料や意見書概要書も電子データで作成され作業効率を考え合わせても、積極的に電子化による公開と意見受理をすすめ、環境影響評価制度をより開かれた形にすべきである。

■意見8:事前調査の制限とNGOも含めた協議の場が必要(4-11)
沖縄辺野古では、方法書前に事前調査としてボーリング調査を実施したことに抵抗と非難があったのは、本調査前に環境の攪乱をまねくことが懸念されたからである。ボーリング調査など事前調査によって本調査前に環境を改変してしまうのであれば、環境影響評価の意味をなさない。このような環境改変をともなう事前調査は制限を設けるべきである。またジュゴンに関して、過度な器具を用いた調査や調査頻度が、本来の生息行動域や生活史に影響を与えていた可能性は十分に考えられる。今後、事業を左右し慎重な調査が求められる生物の調査について、所属・氏名が明らかにされない専門家からのアドバイスで済ますことがないよう、関係機関、NGOも含めた協議の場を設けて、調査方法や期間等の詳細の合意をえて実施するようにすべきである。

■参考サイト
環境影響評価制度総合研究会のこれまでの検討状況
http://www.env.go.jp/policy/assess/5-3synthesis/index.html

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