「蒲島郁夫熊本県知事の川辺ダム建設計画の 白紙撤回の表明への緊急コメント」を発表しました
蒲島郁夫熊本県知事の川辺川ダム建設計画の白紙撤回の表明への緊急コメント
2008年9月11日
(財)日本自然保護協会
川辺川は、豊かな森林生態系の象徴であるクマタカ、固有希少昆虫類やコウモリの生息する九折瀬洞窟に代表される特異な生態系、清流ゆえに育つ尺アユを育む球磨川流域の中で、際立って豊かな生物多様性を維持する川である。日本自然保護協会は、地域団体・研究者と連携のうえ、1996年から川辺川の河川生態系の評価にとりくみ、建設予定の川辺川ダム、および市房ダム・荒瀬ダムなど球磨川本流の既存ダムが、河川生態系に悪影響を与えるのみならず、八代海の沿岸域生態系ならびに地元漁業へも悪影響を及ぼすことを指摘し、川辺川ダム計画の見直しを求めてきた。
本日、蒲島郁夫熊本県知事が川辺川ダム計画の白紙撤回の表明をしたことは、この間の有識者会議、地元住民の公聴会など通じ、知事自身が川辺川・球磨川の豊かさと住民の思いを汲みとったものとして、高く評価する。一方、この判断が広く社会の支持をえるものとなるかは、知事が議会や国に対して揺るぎない姿勢を貫き、五木村再建も含めた具体的な川辺川・球磨川における施策を展開するか否かにかかっている。
県民が誇る「清流川辺川」が全国から注目されていることに恥じないよう、この機会に住民とともに「川とのあるべきつきあい方」を醸成し、「ダムに頼らない総合的な治水」をめざす先進県となることを期待する。
生物多様性保全・地球温暖化防止への貢献が求められる現在、持続可能社会の具体像の構築と実現が、今の地方自治体には求められている。球磨川流域圏は、副産物の様々な恵み(生態系サービス)に支えられた農林水産業や観光などによって、安定的な経済・財政基盤を確立していくための潜在的な環境や地域性をもっていることを活かすべきである。そのためには、球磨川流域全体の生態系の健全性を取り戻すことが必要で、荒瀬ダムの撤去も含めた流域の再生に取り組まなければならない。
地域は42年間の長きにわたるダム問題に翻弄され疲弊している。国土交通大臣は、知事の判断を重く受け止め、現行ダム計画を白紙撤回のうえ、穴あきダム(流水ダム)などの新たなダム計画の立案は断念し、国民の信託に応える国土交通行政として、この問題に終止符を打つべきである。また、この機会に全国で問題となっている大規模ダム開発についても、大きく政策転換を図るべきである。
今後、球磨川水系河川整備計画の策定が予定される。現在、全国各地の流域委員会が様々な課題を抱えている。球磨川水系流域委員会は、住民意見の反映が盛り込まれた河川法の精神にのっとり、合理性・科学性・公開性を備えた民主的運営がなされるモデルとならなければならない。球磨川水系流域委員会が、住民・専門家等による、流域全体の自然環境を生態系サービスととらえ、巨大河川構造物に頼らない総合的な治水対策を検討する、民主的な議論の場となることを期待する。
球磨川流域においては、長きにわたる地域市民団体による「川とのあるべきつきあい方」を探求した地道な調査活動があり、県内世論が醸成された。最後に、知事のこのような判断を導いた地域市民団体のこれまでの活動に、大いなる敬意を表したい。
以上